管理職おすすめの仕事に役立つ本100冊+

現役課長が身銭を切る価値のあるのおすすめ本だけを紹介するページ(社会人向け)

プロカウンセラーの面接の技術 杉原保史 著

1.はじめに

最寄りの書店で、「今年も良い本、実りました」のコーナーがあり、本書は55点の中には入っていなかったものの、2000年発刊の「プロカウンセラーの聞く技術」の隣に新刊として置いてあり、手に取りました。

www.kinokuniya.co.jp

本書のドストライクは、表題の通り、「カウンセリングを職業としている人」です。

ただ最近では、部下と定期的に1on1ミーティングを実施することが奨励されている企業も一定数あると思います。私の会社もその一つであり、自身としてもキャリアコンサルタント職に関心があって、購入に至ったものです。

全体では50個の見出しから成ります。本ブログは要約記事ではありませんので、自分が気になった表現のみを引用しています。そのため、以下では見出しと本文の内容が一致していないところもあります。また、紹介するのはちょうど半分の25見出しとなりましたが、残り半分が重要ではないということではなく、部下やプロジェクトメンバーなどと面談する機会が多い方は、手に取って全体を読んでいただくことをおすすめします。

 

(プロカウンセラーの聞く技術も購入済ですので、改めてレビューしたいと思います)

2.内容

(1)信頼関係を作る

  • 自分が面接で得たいことを得ようとするあまり、相手との関係を無視していきなり本題に入っても、相手がこころを開いて話してくれることは期待できません。まずは面接の相手との関係がどんなふうであるかに注意を向け、関係を作る作業から入る必要があります
  • 面接の中心部分は、面接者の関心に基づいた質問から成っています。どのような質問を作るかが非常に大事です。質問によって、相手の自尊心を傷つけたり、相手を責めたり、相手を見下したりするようなメッセージを不用意に伝えてしまわないよう、注意が必要です。求める情報を得るために、どのような質問をしていけばよいかは、技術的にかなりの工夫が必要な問題です。

(2)面接の目標について

  • 面接の効果を高めるために、目標についての合意を掲載することは非常に重要です。消極的な目標ではなく、生きていればこそできる積極的な目標を掲げましょう。よく見られる不適切な目標には、「他人についての目標」があります。
  • 目標は、他者から見て、そして本人自身から見ても、達成されたか、達成されていないかが、はっきりと判断できるものである必要があります。質問を用いて、目標を具体的で行動的なレベルのものに書き換えていくことが必要です。

(3)オープン・クエスチョンとクローズド・クエスチョン

  • ある質問がオープンであるか、クローズドであるかは、実際上は、見た目の形よりも、その働きによって区別した方が有用です。相手の反応に対して、どの程度フォーカスを絞って反応の自由度を制限する方向の質問を投げかけていくか、どの程度自由度をもたせて自発的な反応を促進する質問を投げかけていくか、ということが、面接の展開を大きく左右します。

(4)相手の「私的で内的な世界」を尋ねる

  • 本人によって避けられた体験領域について、いきなり直接的な質問をしても、ただちに有用な答えが返ってくることは期待できません。たとえば、「なぜ来ないのですか?」と尋ねても、有用な答えは返ってこないでしょう。その前にまず必要なのは、その体験を回避させているもの(恐れや恥)を和らげることです。つまりは、それを体験することは大丈夫なんだよと伝えることであり、思い切ってその体験に身を委ねるよう勇気づけていくことです。

(5)話してくれいない相手

  • その人のあいさつの仕方、歩き方、椅子に腰掛ける様子、姿勢、表情、視線の投げ方、声のトーンなど、あらゆることが情報です。言語的な内容だけでなく、こうした非言語的なコミュニケーションも含めて面接のプロセスそのものが情報なのです。話すか、話さないかが重要なのではなく、どのように話すのか、どのように話さないのかが重要です。
  • どうにもなかなか話してくれない人もいます。そういう場合でも、落ち着いて穏やかに対応することが必要です。面接者に相手に話させようと頑張る構えがあると、どうしてもイライラしがちになり、そのイライラは必ず相手に伝わります。そして、その結果、余計に話しにくい雰囲気をもたらしてしまうのです。話させようと頑張らず、話すか話さないかは、完全に相手に任せるつもりで臨むのがよいでしょう。

(6)相手に語らせる

  • 相手が過去の傷つき体験を語り始めたとき、「もういいじゃないか」「終わったことだろう」「大丈夫だから、もうそんなことを考えないでいいよ」などと言って慰める人がしばしばいます。つらい話を聴くのはつらいものです。そのせいか、慰めが結果的に相手の話を抑え込み、相手が語る機会を奪ってしまうのです。

(7)相手の答えよりもあなたの質問が鍵である

  • 質問を発している面接者は、自分はあくまで相手から情報を引き出そうとしているのだと考えており、質問することによって自分が情報を「発していること」に無自覚なことが多いと思います。質問はあなたのことを伝えます。あなたの理解度を伝えます。あなたの立場や考えを暗黙のうちに伝えてしまいます

(8)第一印象の重要性

  • 第一印象は、こちらの関わり方次第で、変わりうるものです。相手の第一印象が悪い場合というのは、何とかしてその印象が変化するような関わりが求められている場合です。それがうまくできなければ、その面接は困難なものになるでしょう。

(9)具体的に話してもらう

  • とにかく、「具体的に」と直接求めることはあまり有効ではないことが多いのです。相手の話が具体的になるような質問を工夫することが大切です。

(10)相手のプライドを守る

  • 人間にとって、プライドを守ることは、時に命を守るよりも重要になるのです。ですから、面接者は相手のプライドにできるだけ配慮して面接を進める必要があります。相手に率直に話してもらおうと思うなら、相手のプライドを守るようなやり方で質問をしなければなりません。そのためには、まず、相手に責任のある領域のことを最初からあまり直接的に訊かないようにすることが有用です。
  • 「お前がやったのか?」という質問は、「自分がやったと思われた」「この人は自分を疑っている」「疑惑の目で見られた」と感じるのです。いくら面接者が、そうではない、単に質問や確認をしているだけだ、という考えに固執しても、それは面接者の側の論理で相手に通用しません。面接者に必要なのは、相手がどう受け取るだろうかという観点から考えることです。

(11)技術としての沈黙

  • 沈黙は積極的な技術なのです。カウンセラーは何らかの意図をもって、何らかの効果を作り出し、利用するのです。
  • 沈黙の効果の1つとして、沈黙は相手に考えさえるための時間になるということが挙げられます。質問を発した後、たとえ相手がすぐに答えなくても、どっしりと構えて沈黙を維持すれば、相手に対して「あなたが答えるまでゆっくり待ちますよ」「あなたが答えない限り、この面接は前へは進まないんですよ」「あなたには答える力があると信じています」というメッセージを与えることになります。

(12)説得しない

  • 重要なのは、言葉をかけるときに、相手から「そうだね」とか「はい」とかいった答えを得たいと期待する気持ちを放棄することです。「違う」とか「そんなことはない」とかいった答えを拒否したい気持ちを放棄することです。どんな答えが返ってきても、それを興味深く聞き、受け容れるような態度を養うことです。「説得的」にならないためには、相手に対して何かを求める気持ちの一切を手放すことが必要なのです。

(13)好奇心を持つ

  • 面接を促進するような良質な好奇心は、相手をさまざまなしがらみから解放し、自由にするものです。相手を切り離すのではなく、相手を共同作業に引き込んでいくものです。どうしてなんだろう、どういうことなんだろう、といった問いに相手も一緒に取り組むよう誘い込んでいくものです。そこに責めるようなニュアンスや、価値判断を下すようなニュアンスや、裁くようなニュアンスはありません。何かの役に立つとか、得になるとかといった功利的なニュアンスもありません。ただ不思議だなあ、どいいうわけなんだろうと純粋な気持ちで問いかけていくだけです。

(14)あら探しをしない

  • 相手の話を尊重的に聞くことは、相手に同意することでも、相手の意見を肯定することでもありません。お互い、相手が何を考え、感じているのかを真に理解しようとする努力がないのなら、いくら話し合いをしてみても、建設的な結果は出せないでしょう。

(15)初対面の緊張

  • 不安になること、緊張することは問題ではありません。不安や緊張をごまかし、目を背け、逃げ出すことが問題です。不安や緊張を感じたときに、即座にそれをダメだと考え、リラックスしようと頑張るのは、逃避であるといえるでしょう。不安や緊張を認め、不安になって当然、緊張して当たり前と受け容れたうえで、目の前の面接相手に向き合うことが大切です。

(16)質問の裏技

  • たいていの人は、質問は相手から情報を引き出すための手段だと単純に考えています。実際には、質問する人は、質問によってかなりの情報を相手に与えているのです。「僕はこう思う、私は~だと考えてます」とはまったく言っていなくても、単に質問していくだけで、相手には質問者の考えがかなり伝わります。これは逆に言うと、相手に何かを伝えたいことがあるときに、それをそのまま直接的に言葉にする代わりに、質問によって伝えることもできるということです。

(17)もったいぶる

  • 面接において、何か大事なことを伝えたいときや、大事なことを問いかけたいときに、人はしばしば力みます。それは大きな声として現れたり、早口になって現れたり、繰り返しになって現れたりしがちです。このことは相補的なパターンを誘発し、相手の反応性を逆に低めてしまうことが多いと思います。
  • 面接者が大きな声を出すほど、勢い込んで早口で話すほど、繰り返し強調するほど、相手の注意力は低下してしまうのです。むしろ、大事なことであるほど、小さな声で、もったいぶって、1回だけ言うほうが、相手の注意を引きつけ、自然に印象に残ることが多いように思います。
  • 空腹は最高の調味料だと言います。おいしく食べてもらうためには、相手を空腹にさせるのが一番で、面接も同じです。いくらこちらが大事だと思っていても、相手に聞きたいという気持ちがないのなら、どれだけ大きな声で繰り返し言ったとしても、効果は薄いでしょう。たとえその瞬間には伝わったとしても、そのメッセージの長期的な効果は薄いでしょう。

(18)疲れているとき

  • 元気がないときこそ、いつもとは違う自分の一面が表現されるチャンスです。元気がないときを、そうした自分の未開発の一面を開発するチャンスなのだと捉えましょう。ですから、元気がないときには、「ああ、とうとう成長のチャンスが来てしまった」と観念し、元気がないなりの面接をして、いつもとどこが違っているかを検討してみましょう。

(19)訊きづらいことを訊かなくてはいけないとき

  • 相手の気持ちを思うと、なかなか訊きづらいことを訊かないといけない場面はしばしばあると思います。そこで面接者は、相手を支援するために必要な質問をすることと、不用意な質問で空いての心を傷つけないよう配慮することとの間でジレンマを抱えることになります。こうしたジレンマを抱えている場面では、そのジレンマをありのまま口にして共有し、相手の意見を尋ねることが有用です。

(20)強く被害を訴えている人の面接

  • 物理学の実験とは違って、人間関係上の出来事に関しては、客観的な「事実」とそれを語る人の「解釈」とは、はっきり区別することができません。あらゆる事実についての語りには、解釈が入り込んでいます。世間一般で「事実」と言われているものは、「事実」についての「社会的に合意された解釈」のことであって、解釈の余地のない事実などではありません。

(21)共感されることを受け入れる

  • もちろん、カウンセラーは支援者ですから、クライエントからの気遣いを期待するべきではありません。しかし、クライエントが自発的に心からの気遣いを示したとき、それをサラリと受け流すのは不適切だと言えるでしょう。その気遣いを自分の心の奥深くに迎え入れ、自分という存在の最も深い部分から湧き出してくる反応を素直に表現することが大事なのです。
  • 共感は、本質的に相互的なものであり、一方通行では成立しないものです。それゆえ、共感のニードは双方向のものなのです。面接者は共感する側、面接の相手は共感される側と固定的に捉えてしまうことは、共感のプロセスを貧弱にしてしまう危険性があります。

(22)動機づけのない相手との面接

  • 面接者にとっての基本は、相手の考えや気持ちを理解し、相手の立場に立って考えることです。面接に取り組む明確な動機づけがない状態で来談した人を相手にするとき、面接者には何よりもまず、その状態を理解することが必要です。そこに理解がなければ、面接はチグハグなものとなり、失敗することになるでしょう。
  • 周りから問題があるとされて仕方なくやってきた人の話をしっかり聞いてみたら、その人の話にも一理あると思わされることもよくあります。つまり、単純にその人が問題だとして片づけてしまうのは不合理かつ不当だと考えられる、複雑な現実が見えてくることもよくあります。

(23)面接者の対応を責められたとき

  • 相手が相変わらず怒りの反応を返してくるとき、「そんなに怒られると、何を言ってもまた怒られそうで、怖くて何も言えない状態になってしまいます」と率直に自分の弱さを告白するのです。このように告げると、相手の怒りは鎮まっていくことが体験上多いです。自分が相手を怖がらせていると知れば、怒りを抑えようとし始めるものです。ここから、怒りの背景にあった相手の認識を尋ね、理解することが必要です。

(24)相手の立場に立つ

  • 従来の対面の面接は、悩み苦しみを抱えている人たちの多くにとって、非常にハードルが高い形態です。対面の面接では、予約して、お金と時間と労力をかけて電車などで移動しなければなりません。そして、専門家にとってはホームグラウンドでも、相談する側にとってはアウェイな見知らぬ場所で、自分の心の最も傷つきやすい柔らかい部分をさらけ出さないといけないのです。この高いハードルを越えることができた人だけが、対面の面接に現れているのです。
  • 「安心して気軽に相談してください」と言うのは簡単です。しかし、この場合、安心して気軽に相談しているのは、カウンセラーの方なのです。プロのカウンセラーでも、自分が相手の立場に立てていないことに気づいておらず、自分は相手の立場に立っていると信じ込んでいることは多いのです。よほど意識して努力しないと、知らず知らずのうちに自分の立場からしか世界を見ていないということになってしまうのです。そのことは心しておくべきです。

(25)あとはお任せ

  • 面接は共同作業だということです。面接が単独作業ではなく共同作業である限り、面接者には、どこか相手に委ね、プロセスに委ねる、お任せの姿勢が必要です。「なるようになる」と言えば無責任で投げやりなように聞こえますが、面接者にはどこかそうした受け身の姿勢、相手を信じて流れに任せる姿勢も必要なのです。
  • ベストを尽くすことは必要ですが、自分がベストを尽くせば常にうまくいくわけではありません。どう転んでも、その先は相手にお任せするしかないのです。そのことをあまり悔やまないことが大事です。

3.教訓

管理職になると、研修を受ける機会が増えます。その中には、部下との面談方法という内容も含まれます。

管理職側は、心構えだったり、どのような趣旨で実施するかだったり、面談時のスキルだったり、様々なレクチャーを受けるので、万全とまでは行きませんが一定の事前準備は整っています。一方で、メンバー側は、言われたままの状態で受けます。いわゆる、本書でいう、管理者側がホーム、メンバー側がアウェイの状況です。そこを留意する必要があって、具体的な質問の仕方などは大変勉強になる良本でした。

その一方で、面談の受け手側にも「他者からの助言に心を開き、時には苦言すらも自己の成長に転化できる能力」であるコーチャビリティ(以下のレビューご参照)が必要になってきます。リーダーシップについても同じで、リーダーにリーダーシップ研修をするだけでは片手落ちであり、メンバー側にフォロワーシップ研修を実施してはじめて、双方向のコミュニケーションができるようになると考えています。

bookreviews.hatenadiary.com

自身が受ける研修後のアンケートで、「今後どのような研修を希望するか」という設問では、常に「コーチャビリティ・フォロワーシップ研修の実施」、と回答しています。しかしながら、人事側のリソース・キャパシティの問題もあって、管理職でない人にも等しく受講できる機会はなかなか実現しません。

今では会社の指名研修ではなくても、例えば「udemy」等のe-learningコンテンツが会社から用意されていたり有償で申込すれば、意欲のある人は通勤時間や時間外・休日にオンライン自学することができる技術や環境は整いつつあります。ただし、自宅にPCやWifiがない等の意欲や費用面もあって、受講してほしい人が受講できるわけでもありません。

つまり、何でも会社が用意してくれる受け身の時代は終わり、意思や意欲があればいつでもどこでも学べる時代になったということです。ということは、本人の心持ち次第で、長期間で見たら成長度合いが非常に大きな差となって後々現れる状態だということでもあります。

自身としても、本書のような書籍から知見を得るなどし、常に学び続ける姿勢を忘れないようにしたいと思います。