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苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」 森岡 毅 著


 

1.はじめに

本書の冒頭にエピソードが記載されているように、自分の子どもたちへのメッセージとして書き留めていたものを、本にして世の中に送り出した、という内容で、それは副題にも表れています。

そのため、文体としては、将来のキャリアに悩む自分の子どもに語り掛けるようになっています。

自身も二児の父であり、普通の生活をするだけで大変なのに、著者のように4人も子どもを育てながら、かつその子どもたちへのメッセージを書き溜めるというエネルギーに頭が下がります。

以下では、内容からピックアップして印象的な部分を紹介していきます。

2.内容

(1)やりたいことがわからなくて悩む君へ

  • 最終的には、今の君の精一杯の価値観で、君が「軸」を決めるしかない。君の価値観が変化したら、またその時点での君のベストの軸に合わせてキャリアをアップデートすれば良いだけ。経験とともに、ライフステージとともに、最も大切なものが変わることがある。だから未来に軸が変わることは全く恐れなくていい。
  • ”わかる”ということは、何がわからないかをわかること。考えたらわかること、考えてもわからないことの境界が自分なりに納得できるようになること。つまり不安は、わからないことをずっと放置してきた”うしろめたさの闇”から溢れ出てきている。
  • 自分の中の特徴探しは他人との比較ではない。しかしながら社会的な評価は自分以外の誰かが最終的にするもの。社会では厳然とした相対評価の正解が待っている。最終的には同じような強みを持つ人たちと比較される中で、相対的に秀でていかねばならない。
  • スキル(職能)こそが、相対的に最も維持可能な個人財産。能力だけは、健康な限りは常に君と共にあり、君のために生活の糧を生み出す。身について能力こそが君の何より大切な財産。

(2)学校では教えてくれない世界の秘密

  • 当人の責任とは全く関係なく、人は生まれつき違っている。同じでも平等でもない。みんな違って、極めて不平等に世界はできている。まずはこの事実を直視しよう。
  • コントロールできる変数は、①己の特徴の理解と、②それを磨く努力と、③環境の選択、最初からこの3つしかない。この事実を直視することは、君にとってのキャリアの勝ち組を見つけるための大切なスタートラインになる。そもそも君は、生まれた瞬間から、他の誰でもない「君」という人間。
  • 現実には、人の命の価値は同じではなく、厳然とした差がある。概念的な話としてどう思いたい人がいても構わない。私の目はただ現実を見ている。その人が死んで周囲が困る場合は、人によって雲泥の差がある。現実を見よう。人の命の価値は、社会にとっての有用性において歴然とした差がある。
  • この世界は平等ではなく、資本家のために都合よく構造が作られている。それが資本主義の必然。汗水垂らして働いたサラリーマンの所得にかかる最高税率は5割をゆうに超えるが、汗を一滴も流さない資本家の株式配当に対しては税は2割しかかからない。そういうことはちゃんと知っておいたほうがいい。
  • 年収の期待値の上下を知った上で、それでも自分にとって情熱を持てる好きな仕事を選ぶべき。仕事というのは辛いことのほうが多い。たとえ好きなことを選んでも、辛いことやしんどいことの連続が待っているのに、お金のために好きでもない仕事を選んでも成功できるわけがない。
  • 同じようなことをやっているように見えても、学び取る意思があれば同じ川を渡ることは二度となく、知恵と知識を集積して自分の世界を拡げていく過程は喜びに満ちている。人生とは、まだ知らない面白いことを求めて、自分の世界を拡げていく旅のようなもの

(3)自分をマーケティングせよ!

  • 「伝え方(HOW)」よりも「中身(WHAT):何を伝えるか」こそが、はるかに重要な意味を持つ。話し方の巧拙よりも、話している内容こそが君の価値を決定することを忘れてはいけない。
  • WHOを定義する根本的な意味は、”選択と集中”を可能にすること。限られたリソースは本当に希少なので、市場におけるすべての相手に対して平等に努力を分散させてしまうと、一人ひとりの誰にとっても君への印象は中途半端になってしまい、誰も君というブランドを購入することができなくなる。
  • 就活の文脈のWHATの便益に該当するものは、君というブランドの本質的な価値。便益は自分にとっての価値ではない。あくまでもWHOで定義したMY Brandの購入者の価値であることを忘れてはならない。
  • キャリア戦略に置き換えたHOWとは、WHATで定義した自分自身の”便益”を、WHOで定めた”ターゲット”に届けるための具体的な仕組みを表現すること。
  • エッジを立てようとするあまり、結果的にキワモノになってしまう。面接現場で求められていない一発芸や、人が聞いたら眉をひそめるような人となりを披歴するのはリスキー。差別化のための差別化はうまくいかないので注意が必要
  • 選ばれるために、ウソはついてはいけないが、スピンは必要。これはマーケティングの常識。スピンとは、同じ事実を言うのに、切り口や見せ方を変えるだけでインパクトを増すやり方を指す。
  • 自分をブランディングしていく中で、「オフ・エクイティ」と呼ばれる、設計図に矛盾する行動を取ると、築き上げてきたブランド・エクイティを破壊し、ブランドは一気に弱くなる。ブランドは社会の中で築き上げたい「自らの信用」
  • 長いキャリアにおいては、逃げてもよいときと、逃げてはいけないときがある。ブランディングにとって重要でもないことを、いちいちバトルとして拾っていては、人生に無駄と寄り道が増えすぎる。逃げてはいけないのは、戦うことがブランディングにとって大きなプラスになるときと、逃げることがブランディングにとってオフ・エクイティになってしまう場合
  • 普通の人と同じようなことをしていたら、普通にしかなれない。人と違う結果を出したいなら、人と違うことをやるか、人と同じことを違うようにやるか、そのどちらかしかない

(4)苦しかったときの話をしようか

  • 潰れないためには、最初から肩の力を抜いて、最後尾からスタートする自分をあらかじめイメージとして受け入れておくべき。みんな最初は新人だった。大丈夫、どん欲に学ぶ姿勢と、数年に満たない時間がきっと解決する。
  • 王様に近い幹部が自己保存のアジェンダを追求するせいで、「王様は裸だ!」と言えないのがむしろ世の常であると知っておいたほうがいい。組織では、意思決定者へ正しい情報を供給する神経回路が破断しているせいで、驚くような平易な間違いがしばしば起こる。
  • たとえ自分の意に沿わないことでも、一旦引き受けた限りは、全体(会社)の立場に身を置いて最善の行動を尽くすのがプロだと、昔も今もそう信じている。
  • 無力なサラリーマンである以上は「後ろ向きな仕事」は避けられないという悲しい結論。無力ではない、有力なサラリーマンとは、会社にとって数多くいる消耗品のような「人材」ではなく、辞められたら本当に困る「人財」として組織に認識されること。それでようやく、ある程度の対等さで会社と交渉できるようになる。
  • 結果を出さないと誰も守れない。ならばリーダーとして成さねばならぬことは、誰に嫌われようが、鬼と呼ばれようが、恨まれようが、何としても集団に結果を出させること。自分の周囲の仕事のレベルを引き上げて、成功する確率を上げることに、達すべきラインを踏み越えることに、一切の妥協を許さない。そういう厳しい人にならねればらないということ。
  • 後ろ向きな仕事による苦しみの最中は、とにかく辛くて惨めだ。その傷がまだ生々しいうちは、自己肯定感がなく、自信は崩れ、自分の中の軸が容易に揺らぐ。しかしキャリアをもっと長い目で見たときには、そういう経験こそが得難い学びであったと思えるようになったのは不思議。
  • プロの世界で最初から友情や親切を期待するのは単なる「お人よし」であり、淘汰される「負けのマインド」であることを覚えておいてほしい。プロの世界とは生存競争の最前線。プロの世界の友情とは、お互いの実力を認めた後に初めて通うリスペクトの感情であって、日本の道徳上の定義とは違う。
  • 強い人間は、環境に合わせて自分を変えるか、自分に合わせて環境を変えるかのどちらか。その力は本質的に誰もが備えているが、実は多くの人が眠らせたまま。自分にとって安全でストレスの少ない道を選び続ける人は、運が良ければ幸せにはなれるだろうが、それでは決して強くはなれない。Comfort Zoneを出ない限りその力は覚醒しない。

(5)自分の”弱さ”とどう向き合うのか?

  • 最悪なことになっても、それは最悪ではないことがしっかりと理解できているから乗り越えられる。挑戦をする過程で得られる多くの貴重な経験価値が、天秤の反対側で重くぶら下がる”不安”とバランスを取ってくれる。
  • 会社に入って、前向きに挑戦して、たとえ大きな失敗をしたとしても、誰も君の命までは取りに来ない。「君はクビだ!」と言われるのがどうしてそんなに怖いのか。実施にクビになったほとんどの人の人生が、それでもちゃんと続いていくことも知っているだろう。クビになったら新しい居場所を見つければいい、ただそれだけ
  • むしろ挑戦しない人生にこそより悪性の不安はつきもので、それは自信のない人に特有の”永遠に拭えない不安”。どちらの道にも不安があるなら、挑戦する”不安”の方を選択するべき。挑戦する”不安”は、君の未来への投資。
  • 弱点が得意になるかどうかは、やってみないとわからない。やってみても、自信の特徴の限界が見えて、やはりものにできないと悩むこともあるどあう。しかし、少なくともやってみることで、自分の特徴がよりよくわかるようになるメリットをしっかり覚えておいてほしい。
  • 人が弱点を克服できるのも、すべきなのも、その人の強みとなる特徴の周辺だけ。それ以外に費やす努力は、リターンをほとんど生まない。だから、自分が強めたい能力をもっと強くするために弱点を克服していく、それ以外はきっぱりと諦める。自身でその領域をマスターすることから、戦略的に撤退する。
  • プロの世界においては、目的達成に必要な主な能力のすべてを自分一人で賄うのはそもそも無理。それを目指すとすべて中途半端なスキルしか持てない自分になる。どこかに突出したプロであるならば、必ず苦手な領域がいくつも出てくる。したがって、自分の苦手領域をカバーできる他者の力を借りることは、極めて重要な戦略的手段となる。
  • 自分の強みの裏側にある弱みを自分で克服する努力などは無駄の極み。そんな暇があれば、そこに強みを持つ人を探し出して、辞を低くして力を借りればよい。たいていの場合、君の凹に対して強みを持つ相手の特徴は、君の凸を喜んでくれる場合が多い。
  • いつか必ず仲間ができるのだから、広く薄く錯覚で繋がる”友達”なんていらない。一生懸命お互いに気を遣って”友達ごっこ”をしても、そもそも目的が違うのに利害を調整するなんて最初から”無理ゲー”。無理に合わせていても、目的がバラバラなのだから、ストレスが溜まる割には時間も空間もわずかしか共有できない。
  • 行動変化には時間がかかる。最初からすぐに変われないことを覚悟して、時間がかかることを織り込んで、変わる努力を継続すること。周囲にも自分にも正しく期待値をセットするということ。

3.教訓

いわゆる「キレイごと」でなく、社会で生きていくことの現実を直視せよ、という内容について、今となっては肌感覚としてもよく理解できます。

ただ、この内容を就活開始前の大学生が読んでわかるのか?というと、ちょっとハードルが高いような気がします。

むしろ、会社に入って、新人としてがむしゃらに働いたあと、少し壁を感じたり目標を見失いがちになったりする20代半ばくらいが一番フィットすると思います。

また、それより上の世代でも、もう一度自分のキャリアを見つめ直したり、本音と建前は違うよね、やっぱり現実ってこんなものだよね、と開き直ってまた前を向いたり、というときにもいいきっかけになる良書だと思います。

自身でも、数年前には、何でこんなことをやっているんだろうと思いながらやっていたタスクもありました。

ただ、むしろうまく行かなかったり、撤退方針を考えたり、前任者が異動になって突然振られてあたふたしたりと、ああでもないこうでもない、と試行錯誤しながら対応していたときの方が学びが多かったというのは、紛れもない事実だと思います。