1.はじめに
FIREを必要以上にあおることもなく、難しい投資理論や学術的なことが書かれているわけでもなく、特に目新しいことも、帯にあるような「独創的な」ことも感じることはあまりありませんでした。
しかしながら、とにかく頷くポイントが多く、奇をてらうことのないシンプルな内容で、マーカーを引いた個所はかなりの数になりました。
単に投資のための勉強本としてでなく、キャリア形成や日頃の生活スタイルにとっても参考になる部分が多い良本です。
以下では印象の残った内容を引用していきます。
2.内容
(1)おかしな人は誰もいない
- あなたのお金に関する個人的な経験は、世界で起こった出来事の0.00000001%程度にしか相当しないだろう。だがそれは、あなたの考えの8割を構成している。だから同じような知的レベルの人でも、投資方法、お金に関する優先事項、リスク許容度などについて、意見が大きく分かれる。
- どんなに勉強しても、どんなに想像力を膨らませても、直接体験した人と同じ恐怖、不安は体験できない。実際にその出来事を体験し、その影響を肌で感じなければ、行動が変わるほど理解するのは難しい。つまり、私たちは、それぞれの体験に基づいた、異なるレンズを通して世界を見ている。
(2)運とリスク
- ビル・ゲイツは100万分の1の確率の幸運に恵まれて、コンピュータのあるレイクサイド・スクールに入学した。ケント・エバンスは100万分の1の確率のリスク(登山中の事故死)が現実のものとなり、ゲイツと一緒に夢の実現を目指すことを叶えられなかった。同じ偶然の力が同じ大きさで、逆方向に働いた。どちらも、「人生は個人の努力を超えた大きな力に左右される」という現実を示している。
- 成功例や失敗例のうち、再現性のある部分と偶然の運やリスクによってもたらされた部分の割合を正確に知ることは、魔法の杖でもなければ不可能。個々の事例を見て、見習うべき特性や避けるべき特性を見極めるのは、恐ろしく難しい。
- 物事が順風満帆に見えるときも、自分が思っているほどすべてがうまくいっているわけではないという戒めの気持ちを忘れてはいけない。無敵な人間などいない。成功をもたらしたのが運であるのなら、その兄弟であるリスクがすぐそばにいて、状況を簡単にひっくり返してしまいかねないことを自覚しておくべき。
- 失敗にうまく対処するコツは、1度や2度、投資に失敗したり、経済的な目標を達成できなかったりしたとしても、自信を失わないようにすること。必ずいつかは偶然が自分にとって良い方向に働くときが来ると信じながら、プレイし続ける。
(3)決して満足できない人たち
- 動き続けるゴールポストを止めよ。「十分」の感覚が無ければ幸せは遠のく。幸福とは、「結果から期待値を差し引いたもの」。
- 「富の比較ゲーム」に参加してはいけない。唯一勝てる方法は、最初から戦わないこと。たとえ周りの人より収入が少なくても、「自分はこれで十分だ」と満足することが大切。
- 吐くまで食うな。大きな利益が得られる可能性があっても、危険を冒す価値のないものは多い。
(4)裕福になること、裕福であり続けること
- お金を「得ること」と「維持すること」では、まったく別物のスキルを求められる。お金を得るためには、リスクを取る必要がある。しかし、お金を維持するには、それとは正反対のことが必要。まず、謙虚にならなければならない。築いた資産があっという間に無くなるかもしれないという緊張感を忘れず、倹約に努める必要がある。自分が稼いだお金の一部は運によるものであり、過去の成功が永遠に繰り返されるとは限らないことを受け入れなければならない。
- 「サバイバル」が重要。「成長」でも「頭脳」でも「洞察力」でもない。長期間、息絶えることなく、退場させられることもなく、あきらめずに頑張れるかどうか、それが大きな違いを生む。これは投資であれ、キャリアであれ、経営であれ、戦略の礎となるべきもの。
(5)テールイベントの絶大な力
- 何であれ、莫大な利益を上げたり、巨大な影響力を及ぼしたりするものは、「テールイベント」(数千~数百万分の1の確率で起こる例外的な出来事)の結果。私たちが注目するもののほとんどは、テールイベントの結果。
- 半分以上失敗しても、成功できる。もっとクレイジーなことに挑戦する。なぜなら、良い作品を世に送り出すためには、多数の企画が必要。途中でボツになる企画がたくさん出るようでなければいけない。
(6)自由
- どんなに大きな家よりも、どんなにステータスのある仕事よりも、「好きなときに、好きな人と、好きなことができる」生活を送れることのほうが、人を幸せにする。
- お金が私たちにもたらす最大の価値がそれ。お金は、自分の時間をコントロールできるようにしてくれる。蓄えが増えるごとに、人は周りの都合に左右されることなく、自律的に生きられるようになっていく。「何を、いつするか」を自分で好きなように決められるようになる。
(7)本当の富は見えない
- 10万ドルの高級車を持つ人は、裕福かもしれない。しかし実際のところ、それでわかる唯一のデータは、車を買う前よりも手持ちの金が10万ドル少ない(あるいは10万ドル多く借金をしている)ということだけ。それがわかることのすべて。富とは、目に見えるものに変換されていない金融資産のこと。
- 裕福になるための唯一の方法は、借金をしないことはもちろん、資産を容易に取り崩さないこと。これは富を築くための唯一の方法であり、富の定義そのもの。
- 富(ウェルス)は目に見えない。それは使われていない収入のこと。富とは、後で何かを買うための、まだ取られていない選択肢。その価値は、将来的に今よりも多くのものを買う選択肢や柔軟性、成長をもたらすことにある。
(8)貯金の価値
- 「倹約と効率化が富を築く原動力になる」と考えれば、運命は大きく手繰り寄せられる。富とは、収入から支出を引いて残ったお金が蓄積されたもの。収入が特別に多くなくても富は築けるが、貯蓄率が高くなければ富は築けない。どちらが重要かは明らか。
- 収入からエゴを引いたものが貯金。欲望を抑えれば、支出を減らせる。他人の目を気にしなければ、欲望を抑えられる。
- 目的の無い貯金をすれば、選択肢と柔軟性が手に入る。貯金があれば、待つべきときはじっと待てる。チャンスが来たら飛びつくこともできる。考える時間もつくれる。自分の意志で人生を軌道修正できるようになる。私たちは、少額の貯金をするたびに、誰かに所有されていた自分の未来を少しずつ奪い返している。
- 柔軟性こそ、知性だけでは勝てない現代における最強の武器になる。つまり、時間や人生をコントロールできることは、世界でもっとも価値のある「通貨」になりつつある。だからこそ、私たちは目的がなくてもお金を貯められるし、貯めるべき。
(9)合理的>数理的
- お金について判断するとき、数学的な計算だけにとらわれてはいけない、という事実は見落とされがち。私たちはもっと、たとえ計算上は一番得をする方法ではなくとも、自分が納得のいく「合理的思考」を尊重すべき。
- 合理的な投資家は、理詰めで考えれば欠点があるような戦略を好む。そのため、困難な状況でもその戦略を簡単には放り出さない。それが結果的に、長い目で見れば優位に立てる。
- 「好きなことをしなさい」という言葉は、幸せな人生を送るためという観点ではたわいもないアドバイスに聞こえるかもしれない。だが投資における忍耐力を高めるという観点では、これほど重要な戦略もない。
(10)サプライズ!
- この世界では、前例のない出来事が常に起きている。もちろん、経済や投資の歴史を正しく理解することは賢明。しかし、それは決して正確な未来の地図ではない。投資家の多くは、「予言者としての歴史家」とでも呼ぶべき誤りに陥っている。
- 私たちは、例外的な驚くべき出来事から、「世界にはサプライズが潜んでいる」という教訓を学ぶべき。過去の驚きは、将来に起こりうる出来事の上限値の指針ではなく、「将来、何が起こるかはわからない」という真理を忘れないための教訓にすべき
(11)誤りの余地
- 誤りの余地を残しておくこととは、不確実性、無作為性、偶然性などの「未知数」の存在を常に認めること。不確かなものに対処する唯一の方法は、「こうなるだろう」と考えた出来事の範囲と、実際に起こりうる出来事の範囲のあいだに余地を設けて、失敗してもまた挑戦できる余力を残しておくこと。
- 計算上は耐えられても、精神的には耐えられないことがある。これを踏まえたうえでボラティリティでの誤りの余地を考えておくべき。
(12)この世に無料のものはない
- 価値あるものがすべてそうであるように、投資の成功にも代償が必要。投資の代償とは、ボラティリティや恐怖、疑念、不確実性、後悔などに耐えること。これらは、実際に投資を始めてリアルタイムでさまざまな問題にぶち当たるまでは、その存在に気付かないものばかり。
- 市場の入場料には支払うだけの価値がある、と自分自身を納得させる。ただし、必ず報われる保証はない。ディズニーランドにも、雨が降ることがある。それでも、入場料を罰金と考えていては、せっかくのマジックは楽しめない。何かを得るためには、その代償が何かを見極め、それを支払うことが必要。
(13)何でも信じてしまうとき
- 「自分が真実であってほしいと望んでいること」と「客観的に真実だと思われること」をはっきりと区別できれば、ファイナンスにおいて、魅力的なフィクションの餌食になりにくくなる。
- 選択があるところには意図がある。誰もが、この複雑な現実世界を理解したいと思っている。だから、自分の知らない世界とのギャップを埋めるために、都合よく、独自のストーリーを作り上げてしまう。
(14)告白
- 誰かに勧める内容と、自分の行動が違うのは、必ずしも悪いことではない。つまり、自分や家族に影響を与える、複雑な感情もかかわる問題に対処しようとするとき、正解は1つではない。誰にでも当てはまる有効な方法などない。あるのは、自分にとって有効な方法だけ。夜に安心してぐっすり眠れるようにと、自分と家族にとって必要なことをするだけ。
- 経済的自立の達成には、高収入を得る必要はない。大切なのは、贅沢をせず、身の丈にあった生活をすること。収入の多寡にかかわらず、経済的自立に何より重要なのは貯蓄。ある一定の収入レベルを超えると、贅沢な暮らしをしたいという気持ちをどれだけ抑えられるかで貯蓄率は変わってくる。
3.教訓
率直な印象は、本書に書かれていることはお金に限った話ではない、ということです。
キャリアにおいても、配属された部署、そのときの経済や自社の環境、上司の方針によって、任される仕事が変わります。それによりその後の成長スピードが変わることもあります。本人の努力以外の運に左右されることは現実的にあります。機会は平等ではありません。
一つ大きな仕事が舞い込んで、うまくリリースができると、それまでの悪評や失敗は帳消しになり、「あの仕事をやった人」という周りからの評価が得られ、それが次のプロジェクトメンバー入りにつながります。
変に自分から目立つようにアピールしなくても、若いうちから陰で努力をして知識やスキルを蓄えていれば、その素地が複利の効果を伴って、中堅になってから大きく花開くこともあると思います。
ぎりぎりの計画を立てなくても、一定程度余裕を見て進捗管理をしておけば、突然振られた仕事に少し時間を取られても、当初のスケジュールに遅れを取ることなく、タスクを仕上げることができます。
本書の表紙のそでのところに、大きな文字で「知識<行動」と書かれています。謙虚に行動できる人が仕事で結果を残し、地位も収入も上がり、それでもエゴや見栄を張らずにいると、人生が好循環するものと考えています。