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1.はじめに
久しぶりのハードカバー本です。
チーム運営に悩んでいるマネジャーにとって、「なぜ人と組織は変われないのか」という本のタイトルを目にすると、非常に気にはなるけれども、本の厚みには少し尻込みをするのでないかと思います。
私もその1人でしたが、読んだ結論としては、「ああ、やっぱり手を出してよかった」と思える内容です。
原題は”Immunity to Change"であり、本書の中に頻繁に登場する”変革をはばむ免疫機能”のことを指していて、副題として”How to Overcome It and Unlock the Potential in Yourself and Your Organization”とあるように、「なぜ変われないか」よりも「どうしたら変えられるか」にスポットライトを当てた内容になっています。
2.内容
(1)変われない本当の理由
①人の知性に関する新事実
- 今日の世界では、それまで環境順応型(言い換えれば「よき兵隊」であることで)十分だった働き手たちに自己主導型知性への移行が、自己主導型知性で(「自信に満ちたキャプテン」であることで)十分だったリーダーたちに自己変容型知性への移行が求められるようになっている。要するに、働く人すべてが知性のレベルを次の次元に向上させる必要がある。
- 今日と明日の世界で直面する課題の多くは、既存の思考様式のままで新しい技術をいくらか身に付けるだけでは対応できない。そうした課題をハイフェッツは「適応を要する課題」と呼ぶ。この種の課題に対応するためには、知性のレベルを高めることによって、思考様式を変容させなくてはならない。
②問題をあぶり出す免疫マップ
- ”変革をはばむ免疫機能”を克服しようとすれば、かならずそういう脅威や危険に身をさらすことへの恐怖がこみ上げてくる。免疫システムは自分の命を救ってくれる仕組みだ。そんな大切な自己防衛のシステムをそう簡単に手放せるわけがない。
- 強力な免疫システムが作動していれば、不安から解放されるという恩恵がある半面、さまざまなことを自分には不可能だと思い込んでしまうという弊害もある。本来は達成可能なことまであきらめてしまう。しかし、”変革をはばむ免疫機能”を克服すれば、この落とし穴を避けられる。
- 本人は「強力な固定観念」を無批判に「事実」と思い込んでいる。本当に事実かどうかはわからないのだが、いったん事実と決めつけてしまえば、もはやその真偽を問うことをしなくなる。固定観念を改められれば、既存の免疫システムの足枷から抜け出す一歩になりうるだけでなく、もっと高度な精神構造を築いて、自己主導型知性に移行できるかもしれない。
(2)変革に成功した人たち
①さまざまな組織が抱える悩み
- お手上げだとか、出口がないとか思っているときは(誰もが身に覚えのある状況だろう)「私たちは本当の問題を論じていないのではないか?」と感じることも珍しくない。しかし、「本当の問題」を明らかにすることはえてして簡単でない。グループ内で警戒心や内部対立を生み出すことを避けつつ、そういう問題に対処することもたいてい難しい。
- 問題の構図を転換させても、すぐに対立がやわらぐわけではないだろうが、戦いの性格を変えることはできる。人々が敵と味方に分かれて対立し合うのではなく、理想と現実のギャップに、誰もが解決への責任を負うような問題に、みんなで目を向けるように促せる。
②なぜ部下に任せられないのか?ー個人レベルの変革物語①
- ジレンマを抜け出すには、どちらでもない新たな選択肢を作り出せばいい。ただし、それを行うためには、技術的な解決策ではなく、適応を要する解決策が求めらえる。自己認識の前提をなす思考の枠を広げて、「他の人に仕事を任せる自分」を許容しなくてはならない。言い換えれば、これまでより一段高い知性を発達させ、権限移譲が自己認識と矛盾しないようにする必要がある。
- 部下のやり方を受け入れるようになると、目覚ましい成果が生まれる。メンバーの既存の思考パターンを揺さぶり、上司に異論を唱えてもいいのだとわからせると、仕事の質が高まる。
- 部下に光り輝くチャンスを与えると、それまでより質の高い仕事をやってのける。つまり、誰よりもうまく仕事ができるのは私だと思っていたのは、間違った思い込みだったと思い知らされる。他の人たちを光り輝かせることのより、自分も光り輝くという道を見い出したのだ。
- ”変革をはばむ免疫機能”のアプローチは認識の死角を克服する手段になりうる。どのような行動パターンを無意識に実践していたせいで、自分の望む結果を妨げていたかが見えてくる。隠れた目標が目に見えるようになれば、泥棒を取り締まり、犯行を阻止できようになる。
③自分をおさえることができるかー個人レベルの変革物語②
- 目標が(技術的な課題でなく)適応を要する課題だと理解できれば、その目標を達成できる可能性が高まる。自己変革を成し遂げるためには、自分を縛っている固定観念そのものを修正しなくてはならない。見直すべきなのは、自分自身に課している基準と、それが生み出すリスクに関わる領域とわかる。
- 固定観念が検証にさらされるのは、本人が固定観念に反する行動を取ることに加えて、その行動がどういう結果をもたらしたのかという点と、その結果が固定観念の妥当性に関して何を意味するのかという点に十分に注意を払った場合だ。
- 知性のレベルがある段階に達した人は、それまでものごとを見る際のフィルターだったものを客観視できるようになる。ある認識アプローチの囚人だった人が、そのアプローチと距離を置き、その全体像を見られるようになる。その結果、それまで見えていなかったものが見えてくる。
④うまくコミュニケーションが取れないチーム
- メンバーによって受け止め方が際立って異なることからも明らかなように、一人ひとりの世界の認識の違いが大きな意味を持つ。ある人にとって何が現実かは、その人が物事をどのように受け止めるかによって決まる。チームの雰囲気と組織文化に大きな影響を及ぼすのは、誰よりもリーダーだ。しかし、他の全員にも責任の一端がある。
- 具体的にどうすればチーム内の信頼感を高められるか。他のメンバーが善意で行動しているとみなす。自分とは異なる仕事のスタイルを受け入れる。お互いを信じる。ピリピリしない。質問されたときは、非難されていると思わず、前向きに受け止める。
- 改善目標に向けた合意を実際に守ることはおそらく難しい。そもそも、裏の目標によって好ましい意図の実現が妨げられる可能性がなければ、コミュニケーションの問題についてわざわざ話し合い、実践すべき行動パターンをみんなで約束するまでもない。
- 重要なのは「何をもって好ましいコミュニケーションとみなすか」をメンバー自身が決めたこと。それにより、どういう目標をどのように目指すかという点にメンバーが当事者意識を持てる。彼らはチーム内で信頼関係を築くために「実践すべきこと」と「避けるべきこと」を明確にし、その指針に全員が従うだろうと期待をみんなが抱いた。
- 私たち一人ひとりがコミュニケーションを改善すべき。自分の目標とチームの目標の間には密接な関係があり、2つを一体のものとして取り組まなければ、どちらの目標も達成できない。チーム全体の目標を他人事と感じているうちは、その目標に向けて行動することなどできないと思う。
(3)変革を実践するプロセス
①変わるために必要な3つの要素
- 心の底:自分を本当に成長させるための努力を開始し、それを継続するためには、目標を成し遂げたいと心から望んでいなくてはならない。理屈は私たちの内面の対話における理性の領域に働きかけるものだが、変革を推し進めるためにはそれだけでなく、理屈抜きの強い欲求をいだく必要がある。
- 頭脳とハート:自己変革の過程で経験する大きな試練は、変革を推し進めても自分は安全だと(思考と感情の両面で)信じるように転換すること。その試練を克服したあとでは、物事がまるで違って見えるようになり、実は危険などなかったのだと気づく。
- 手:行動を伴わない思考は、機能マヒに陥る。新しい行動を取らなければ、変化は生み出せない。実際に「手」を動かしてはじめて変革が可能になる。強力な固定観念に反する行動を取る目的は、あくまでも固定観念の妥当性を検証するためのデータを集めることにある。自分に枠をはめることで安心感を得るのをやめて、枠を取り払っても危険ではないと安心感を得ることができるか明らかにすることを目指す。
②診断ー「変われない原因」を突き止める
- 第1枠「改善目標」:以下の3条件を満たしたものでなくてはならない。
- その目標が自分にとって重要なものであること
- その目標がまわりの誰かにとって重要なものであること
- その目標を達成するために、主として自分自身の努力が必要だと認識できていること
- 第2枠「阻害行動」:この段階ではどうしてそのような行動を取るのかは問題にしなくていい。自分の欠点のリストを見せつけられれば、誰だって居心地が悪い。それを目の前から消し去りたいと思うのが人情。しかし、そういう衝動は抑え込もう。とりあえずは、自分の取っている行動を正直に詳しく記すことに専念してほしい。
- 第3枠「裏の目標」:重要な目標の達成を妨げているのが自分自身の抱える矛盾なのだとはっきり理解することがこの段階の目的。ゴールに到達できないのは、そこに向けて真剣に進もうとしても、それと同じくらい強い力で押し戻されるからだ、という点を認識する必要がある。
- 第4枠「強力な固定観念」:人はしばしば自分の自己認識と世界認識を確固たる事実、異論を差し挟む余地のない真実、自己と世界の絶対的な現実だと思い込んでしまう。それを見えるようにするためには、自分が固定観念と一体化していたり、それに支配されていたりする状態を脱し、固定観念と距離を置くこと、すなわち固定観念を「主体」から「客体」に転換することが必要とされる。
③克服ー新しい知性を手に入れる
- 自分にとって難しい行動を実践すること自体は悪いことではないが、それは学習とは呼べない。学習を通じた適応を目指すのであれば、行動を取ること自体が実験の目的ではないと理解しておくべき。行動の結果として何が起きたかという情報を収集し、その情報に照らして強力な固定観念を肯定するなり改訂するなりすることが重要。実験の結果をもとに固定観念の妥当性を検証するまで、実験が完了したといえない。
④組織を変える
- 実際にやってみるとわかるが、この種の議論を通じてグループ内に生まれるのは失望感ではなく、多くの場合は安堵感が生まれる。誰もが薄々気づいていた問題が表面に引っ張り出されて、ようやく表立って論じられるようになったと思えるからだ。適切に活動を進めれば、その過程で特定の誰かが悪者にされたり総攻撃を受けたりすることもない。
- もし免疫マップが迫力を欠いているとすれば、そういう生死にかかわるドラマを十分に描き出せていないことが原因だ。どこかに身を潜めていて、あなたの快適な人生に終止符を打つチャンスを虎視眈々とうかがっている脅威を、裏の目標という形で適切に表現できていない。
- 話し合いの際に重要なのは、さしあたりの目的が問題を解決することでもなければ、個々の固定観念の妥当性を議論することでもないと、全員が理解すること。ここで目指すのは、これらの固定観念のすべてが常に正しいという前提で自分たちがものを考えているという現実を知ること。
(4)成長を促すリーダーシップ
- 本当の変化と成長を促したければ、リーダー個人の姿勢と組織文化が発達志向である必要がある。ひとことで言えば、「大人でも知性を発達させられる」と期待しているというメッセージをメンバーに向けて発信すべき。
- 大人になっても成長できるという前提に立つ。
- 適切な学習方法を知る。
- 誰もが内に秘めている成長への欲求を育む。課題を成し遂げたいというのは人間の根源的な渇望でもある。
- 本当の変革には時間がかかることを覚悟する。イモムシがやがて美しいチョウになって空をはばたくと知っていれば、目の前のイモムシにいらだつことはない。
- 感情が重要な役割を担っていることを認識する。効率を追求するあまり効果を犠牲にしてはいけない。時間はかかるが感情に働きかける方法を見いだせない限り、重要なゴールには到達できない。
- 考え方と行動のどちらも変えるべきだと理解する。
- メンバーにとって安全な場を用意する。際立った変化はまだ起きていないかもしれないが、上司が進歩に目を止めて評価するという形で支援する価値はある。というより部下が変革に成功するためには、そういう支援がおそらく欠かせない。
- リーダーがこの7つの行動を取れるようになるための最善の道は、自分自身の”変革をはばむ免疫機能”の克服に取り組み続けること。自己変革の旅がどういうものかを実体験として知っていて、それを体感している人物こそ、ほかの人たちが安全に潜在能力を開花させるように導けるからだ。
3.教訓
「なぜ変われないのか」の理由については、大きく2つに分けられると理解しました。
- そもそもそこまで変えないといけないと強く感じていない
- 心のなかではむしろ既得権益を維持したいと思っている
これについては、このブログを読んでいただいた方自身や、属する組織全体のいずれかで、何らか思い当たるフシがあるのではないかと推察します。
本書では、第4章で担当者目線、第5章は上司目線で、細かい具体例を挙げながらの説明があるので、上下双方の立場の感じ方・考え方について、共感しながら読み進めることができます。
今回は、本の中身を理解し、完読することに努めたので、免疫マップを作りと並行しながらとはいきませんでしたが、夏休みなどを利用して、一度腰を落ち着けて真剣に向き合いたいと考えています。