管理職おすすめの仕事に役立つ本100冊+

現役課長が身銭を切る価値のあるのおすすめ本だけを紹介するページ(社会人向け)

恐れのない組織 エイミー・C・エドモンドソン著

 

1.はじめに

最近よく耳にする「心理的安全性」は、人事系の研修で必ず説明を受ける項目で、その先駆的な研究者によって書かれたのが本書です。

本書は、心理的安全性の重要性を示すにあたり、実際に起こった実例の紹介にかなり多くのページを割いていおり、例えば以下のような事例が説明されています。

本というより論文のような調子ですが、基礎からしっかり学ぶには最適だと思います。

(1)失敗例

(2)成功例

2.内容

(1)第1部:心理的安全性のパワー

①土台
  • どんな人でも朝、目覚めて気が重いのは、勤め先で無知・無能に見えたり混乱をもたらす人だと思われたりする場合だ。そのように思われるのが対人関係のリスクと呼ばれるものであり、無意識かもしれないが、およそ誰もが避けたいと思っている。実際、大半の人は、頭がよく有能で役に立つ人間だと他人から思われたいと願っているのだ。
  • 対人関係のリスクを取っても安全だと信じられる職場環境であることが心理的安全性である。その職場には、やがて重大な影響をもたらすかもしれない沈黙はほぼ生まれない。代わりに、人々は思うがままを話す。そして、率直な本物のコミュニケーションを促進し、問題とミスと改善の機会にスポットを当て、知識とアイデアの共有を増やしていく。
  • 心理的安全性は、単なる職場の個性ではなく、リーダーが生み出せるし生み出さなければならない職場の特徴だ。どの会社や組織においても、きわめて強力な企業文化を持つ場合でも、心理的安全性はグループによって著しく異なる。
  • 公式には、ヒエラルキーの上位の人が、あなたの業績を評価する役目を負っているだろう。だが、非公式には、同僚や部下が常にあなたについて判断を下している。質問したり、ミスを認めたり、アイデアを提供したり、計画を批判したりといった行動をとったら、いつなんどき無知、無能、あるいは出しゃばりと見られてしまうかもしれない。そのようなささやかなリスクを取るのを嫌がっていると、大切なものを損なってしまう可能性がある
  • ただ、自動車を動かすのが燃料でないのと同様、組織を動かすのは心理的安全性ではない。環境がどれほど厳しいときでも、リーダーにはどうしてもしなければならない仕事が2つある。1つは心理的安全性を作って学習を促進し、回避可能な失敗を避けること、もう1つは高い基準を設定して人々の意欲を促し、その基準に到達できるようにすることだ。高い基準の設定は、マネジャーのきわめて重要な仕事である。
②研究の軌跡
  • 今日の組織にとって、心理的安全性は「あった方がいいもの」ではない。無料のランチのような職場で快適に過ごしてもらうために設ける従業員特典でもない。心理的安全性は才能を引き出し、価値を創造するためになくてはならないものだ。職場は人々が才能を活かすことができるし、積極的に活かそうと思う、そんな場でなければならない
  • 次善の策が採られるのは、システムを改善するための意見を、安心して述べたり提案したりできないときである。心理的安全性があれば、問題について率直に話すことや、作業プロセスを変えたり改善したりすることがたやすくなり、望ましくない結果しか生まない次善の策を講じることがなくなる。
  • あなたがどこで仕事をしているのであれ、ぜひ心に留めておいてほしい。大事な局面で従業員が意見を言えずにいることは、見た目にはわからない。わからないために、軌道修正がすぐにはできない。これは、競争の激しい業界において、心理的に安全な職場が圧倒的に優位に立つということにほかならない。

(2)第2部:職場の心理的安全性

③回避できる失敗
  • 回避できる失敗を回避する第一歩は、異論・反論を述べ、データを共有し、研究所や市場で実際に起きていることについて積極的に報告するよう社内中の人々を促し、絶え間ない学習と機敏な実行力を生み出すのである。
  • トップダウン型の戦略と、悪い知らせを上層部へ伝えられない心理的安全性の不足という最悪の組合せのせいで、いつ破綻してもおかしくないということだ。
  • 欠陥について情報をどれだけ持っているかをできるだけ早く明るみに出すと、失敗の規模と影響をたいてい小さくできるし、ときには完全に避けられる場合もある。
  • 詐欺と隠ぺいは、返答として「ノー」も「無理です」も認めないトップダウンの文化でおのずと生まれる副産物である。そして、そのような文化と、過去に練られた素晴らしい戦略は未来永劫続くのだという思い込みが組み合わさると、確実に失敗することになる。
④危険な沈黙
  • 心理的安全性が低いときに起きる問題は、ビジネス上の失敗などという生易しい問題ではない。多くの職場で、人々は不安を感じる出来事や不正を目にしながら、怖くて報告できずにいる。私たちは、発言をしないことが健康に害をもたらす、そんなコミュニティや文化や組織の中で生活し、仕事をしている。
  • 多くの人が、厳格なヒエラルキーが存在するときには発言できないと感じると述べている。一方、耳を傾け学ぶべき立場にいる上層部の人々は、自分の存在が下位層の人々を押し黙らせてしまうことに、なかなか気づかずにいる
  • 回避できたかもしれない悲劇を分析する多くの人が、人々はもう少し勇気を持つべきだと指摘する。この主張には賛同できても、効果的な主張かどうかは別問題だ。正しいことだからという理由で人々に率直な発言を促すことは、倫理観に訴えており、確実によい結果をもたらす戦略とは違う。勇気を出して行動すべきと主張すれば、そうしてもらえるだけの状況を作らないまま、人々に責任を負わせることになってしまう。
  • 上の者に服従することは業務、とりわけ判断に迷った場合における「当たり前」になってしまい、ひいては「トップに立つ人間は最良の策を常に知っている」と誰もが信じる状況を生み出しかねない。
  • なんとかして避けるべきものは、人々がひたすら沈黙し、情報の提供が不可欠かもしれないときでさえ保身と恥ずかしい思いの回避を無意識に優先し、それが重大なリスク要因になってしまう環境である。
  • 懸念を表明したが杞憂だったとわかることによって、率直に発言する人にも耳を傾ける人にも学習の機会がもたらされる。その結果、両者は状況や課題について皆が理解している、あるいは理解していないきわめて重要な情報を収集できるようになる。
⑤フィアレスな職場
  • 失敗したときにそれを認め、この先は避けたいものだと願いながら歩み続けるだけでは不十分だ。私たちは失敗を、不安に思ったり避けようとしたりするのではなく、学習と冒険に必ずついてくるものだと理解する必要がある
  • 学習プロセスにはミスや賢い失敗が欠かせない。誰もがミスをするし欠点もあること、それらにどう対処するかで決定的な違いが生じることを学んだ。失敗するのは構わないが、失敗に気づき、分析し、そこから学ばないのは容認されない。
  • 職場のプロセスを変えたためにかえって仕事が難しくなり従業員の怒りを買って今うような事態は誰も招きたくないが、その事態を招く指示があまりに頻繁にトップから出されてしまっている。それよりはるかに賢明なのは、実際にその仕事をする人にプロセスの再デザインをしてもらうことだ。フィアレスな組織では、「改善」のための提案が積極的に採用・導入されている
⑥無事に
  • 手順は存在していても確実に使用されるとは限らない。もし心理的安全性がなかったら、えてして対人関係のリスクを取れず適切な対応ができなくなってしまう。発言できたはずの場でためらったり沈黙したりしてしまった意味にも気づくことができない。ゆえに、心理的に安全であることが、緊急時の手順を効果的に使うための前提条件だと言える。

(3)フィアレスな組織をつくる

⑦実現させる
  • 率直に発言することは、最初の一歩に過ぎない。人々が実際に率直に発言したときにリーダーがどう反応するかが重要な岐路なのだ。土台をつくり、参加を求めれば、たしかに心理的安全性を築くことができる。だが、部下がなんらかの問題について勇気を出して発言しても、もし上司がすぐさま怒ったり見下したりして対応したら、安全性はあっという間に消えてしまう。生産的に対応するためには、感謝し、敬意を払い、前進する道を示さなくてはならない。
  • 目的意識を際立たせることも、心理的安全性の土台づくりには欠かせない。説得力ある目的をはっきり伝えて人々の意欲を高めることは、リーダーとして当然の務めである。自分の仕事がなぜ顧客や世の中にとって重要なのかをリーダーがみんなに思い出させると、困難を乗り越えるエネルギーが生まれやすくなる。
  • 気さくで話しやすく、自分が完璧ではなくミスをする人間であることを認識し、他者から積極的に意見を求めるリーダーは、組織に心理的安全性をつくり、高めていくことができる
  • 危険な、あるいは有害な、もしくはまずい結果をもたらしかねない、非難されても仕方のない行動に対し、公正で思慮深い対応をすると、心理的安全性は損なわれるどころか強化される。
⑧次に何が起きるのか
  • 発言より沈黙を好む心理的・社会的な力の基本的非対称性、つまり自己表現より自己防衛しようとする性質は、今後も変わらないだろう。だが発言と沈黙では、見返りもまた非対称である。自己防衛したところで空虚な勝利しか手に入らないのに比べ、自己表現すれば意欲的な目標を実現しうるチームの一員になって野心的な目的に積極的に貢献し、それによって充実感を得られる。
  • どのような組織においても、そこから「不安を追い払う」旅は長い道のりになる。このことについて、私たちは現実的にならなければならない。心理的安全性を一夜で実現してくれる魔法の杖などない。リーダーは、実現しようという熱意を持ち、着実に話し合いを重ねることによって、第一歩を踏み出す。
  • 心理的安全性は時間の浪費でなく節約になる。心理的安全性が欠けているせいで話が長引き(まわりくどい発言内容に遠回しな批判と個人的な当てこすりが加わるため、率直に発言するより時間がかかる)、ミーティングがだらだらと続き、重要な戦略的問題について採択ができない。
  • あなたの考えに対する周囲に反応が、期待ほどには好意的でない可能性もある。その場合は、ほかの人にあなたの意見が必要であるのと同様、あなたにもほかの人の意見が必要だということだ。これを学習するチャンスととらえ、あなたのは発言や行動のどんなところが基準に満たないのかを知る機会と考えよう。
  • 心理的安全性をつくることは、大小さまざまな調整を絶えず繰り返しながら、最終的に前進となるプロセスである。ヨットが風上に向かってジグザグに進むのと同様、あなたは、望み通りの方向へ進むことも風向きがいつ変わるかを知ることも決してできないなか、右へ左へ適宜方向を変えつつ、前へ進んでいかなければならない

3.教訓

心理的安全性は、会社の制度だったり、誰かが宣言したりしたところで、突然に確保されるわけではなく、他の誰でもない自らが作り出さなければならないものとはっきり認識できました。

この本を読んでも、「心理的安全性なんて関係ない」という考えを変えられない人はいないんじゃないか、と思うくらい説得力がありました。

最近では、いろんな会議に出る際に、ファシリテーターやマネジャーの振舞いを見て、「この人の話し方だと意見を言いやすいな」とか、「こういう雰囲気になると意見を出しづらくなるな」ということを意識して観察するようになりました。

上司である自分には話をかけにくいもの、と思われていることを認識し、話しかけてくれたことに感謝し、しっかり話を聞いて、「次からも声をかけていいんだ」、と思ってもらえるようにすることを意識していきたいと考えています。