管理職おすすめの仕事に役立つ本100冊+

現役課長が身銭を切る価値のあるのおすすめ本だけを紹介するページ(社会人向け)

カウンセリングの技法を学ぶ 玉瀬耕治 著

1.はじめに

カウンセリングの勉強をすると、実際の面談時の対応スキルとして、おそらく「アイビイのマイクロ技法の階層表」を勉強することが多いかと思います。

(実際の階層表は以下のリンクをご参照ください)

shokugyo-kyokai.or.jp

その技法の1つ1つについて細かい定義や実習形式の練習課題、カウンセラーとクライエントの応答例が豊富に記載されていて、カウンセリングの勉強をするには相当参考になる良本です。

2.内容

(1)技法を学ぶための基礎知識

①カウンセリングの考え方
  • ただ援助すればよいという考えは、必ずしも本来のカウンセリングの目的を達成するものとはならない。自律ということを念頭におくならば、たとえ援助が求められたとしても、それが本当に必要な援助かどうかを見極め、必要なときに、必要なだけ援助するという姿勢が求められる
②カウンセリングの理論
  1. 純粋性:自分自身が不安定な状態になると、相手を理解する際の理解の仕方がゆがむし、自分自身をどこまで示せばよいかについても的確な判断をすることが難しくなる。
  2. 尊重性(受容性):カウンセラーは相手を受け入れることができなければならない。相手を受け入れ、相手を尊重することができなければならない。それは相手に対する思いやりであり、相手を大切にしようとする思い。クライエントは、自分がカウンセリングにおいて大切にされ、尊重されているかどうかについては非常に敏感
  3. 共感性:「あなたの気持ちがわかります」と言っただけでは共感を伝えたことにはならない。カウンセラーがクライエントのことをどのようにわかったのかを適切に伝え返してはじめてクライエントは「わかってもらえた」と思う
③発達・文化とカウンセリング
  1. 感覚運動的スタイル:日頃から感情的に物事をとらえる人は、この定位が優位。このスタイルの特徴は、論理的に物事をとらえて、筋道を立てて表現することができないところにある。
  2. 具体操作的スタイル:起こった出来事を、限られた見方ではあるが、順序立てて説明することができる。
  3. 形式操作的スタイル:自己を見つめ、自己を探求する場合のスタイル。1日の出来事を振り返り、自己反省したり、自分の弱点は何かと考えたりしている。冷静に自己を見つめ、どんな特徴があるのかを知ることによって、自己を変革させていくことが可能になる。
  4. 弁証体系的スタイル:自己の思考様式や感情の特徴、行動傾向などを分析し、その繰り返されるパターンに気づくとともに、そのパターンの由来がどこにあるのか、なぜそのようなパターンになっているのかを分析する。さらに、それらを変えるためにはどうしたらいいのかについても考えていく。

(2)基本的なかかわり技法を学ぶ

カウンセリングにおいては、まずクライエントを受け入れ、話したいことが思う存分話せるように導くことが重要。そのために慎重に関係づくりをしなければならない。カウンセラー側にクライエントを受け入れようとする姿勢が保たれているかどうかが問われることになる。

④マイクロカウンセリング
  • このプログラムは、1セッションごとに1技法のみに焦点を当てて実習するところに最大の特徴がある。筆者の理解では、「マイクロ」の意味には、単に面接時間が短いということだけではなくて、基本となる技法群の中から単一技法だけが扱われること、わずかな時間ではあるが実際の面接実習が行われることなどの意味が含まれていると思われる。
  • マイクロカウンセリングがきわめて効果的な訓練プログラムである一因は、モデリングを巧みに用いる点にあるといえよう。よいモデルと悪いモデルを示し、それらを比較することによって、何が重要であるのかを浮き彫りにする
  • マイクロカウンセリングにおける肯定的資質の探求は、クライエントの優れたところに注目することを意味している。技法訓練の全体を通じて、クライエントの肯定的資質に焦点を当て、それを拡大し、活用することが求められている
  • カウンセリングでは、クライエントが今までつくり上げてきたクライエントの物語を聴き、それを肯定し、そこから導かれる新しい物語を創り出していくことに努めなければならない。カウンセラーは自分がクライエントに対して行っている行為が見えていなければならない。
⑤よい雰囲気をつくる かかわり行動
  • カウンセリングは単なる技術ではない。本書では、主に技法を扱うが、それは技法の実が重要であるとか、技法が正しければそれでよいということを意味するものではない。技法の背後にある知識や物事に取り組む態度、価値観や生き方など、カウンセラーの全身から発信されるものが常に重要。コミュニケーションの手がかりとしては、言葉よりも言葉以外の要因のほうがはるかに多い。
  • 言語的追跡は、話し手の話題に従っていく技法。うなずきや話し手が話した最後の言葉を繰り返すなどによって先を促すもの。ただそれだけで、話し手は自分が話そうとしたことを遮られることなく話し続けることができる。
  • カウンセリングにおける信頼関係は、その大部分がかかわり行動によって決まるといっても過言ではない。何と言われたのかよりもどんな言い方をされたのかによって、受け取る側の印象は大きく左右される。自分が大事にされているのか、いい加減に扱われているのか、見下されているのかは、話している間に示される相手の態度によって読み取れる。
⑥発話を促す 質問技法
  • 質問によって、クライエントの話す内容と構えはさまざまに変化する。クライエントは、カウンセラーの質問の仕方によって、自分が話したいことを自由に話せるようにもなれば、カウンセラー側に主導権を握られてしまうことにもなる。
  • 明らかに答えが言えると見込める場合でない限り、「なぜ?」「どうして?」という質問は差し控えるべき。「どうしてだろうね?」と言って、クライエントとともに考えようとする姿勢を示すのがいいかもしれない。
  • 閉ざされた質問は、あくまでも聴き手に主導権があり、聴き手が意図する方向に面接は進められていく。質問の仕方によっては、クライエントを防衛的にしてしまうので、求める情報が十分得られなくなってしまうこともある。
⑦事実を明確化する はげまし、いいかえ、要約
  • クライエントは多くの場合、自分の感情をあまりよくコントロールできない状態であり、自分が言っていることとしていることに矛盾を感じている。カウンセラーは、この矛盾したままのクライエントの状態を受け入れることを覚悟しなければならない。クライエントの言っていることに焦点を当てていると、実際にその人がしていることのずれが感じられ、そのずれこそ大切にしなければならない。
  • マイクロカウンセリングでは、うなずきや相づちを最小限のはげましまたは単にはげましと呼んでいる。それは、「もっと話し続けてください」とか「わかりますよ」という意味を表している。クライエントが語った中でキーワードとなるような短い言葉を繰り返すこともこの技法に含まれる。
  • クライエントが表現したことを、カウンセラーは自分の言葉に置き換えて表現することが求められる。いいかえ(Paraphraging)では、クライエントが使った重要な言葉、すなわちキーワードだけを残して、他の部分は別の言葉で短く表現する場合が多い。
  • 抽象的にしか表現しないクライエントの場合は、内容を確認しながらより具体的な言葉に置き換えて表現することも必要。逆に、具体的なことばかりを長々と話すクライエントに対しては、要点を押さえて少し抽象化して返すのが効果的である場合もある。
  • クライエントは何かとすぐに質問してくることが多い。しかし、その質問にすぐに答えるのがいいか、もう少し聴いてから答えたほうがいいかを考えなければならない。すぐに答えなくても、適切ないいかえをすれば、クライエントは話を続けることができる。本当はクライエントもここでは明確な答えを期待していないと思っていいかもしれない。
  • クライエントにもカウンセラーにも先が見えないことは多いが、少なくともカウンセラーはクライエントの選択に意図的にかかわっていることに気づいていなければならない。どのような要約をするのかによって、クライエントの理解の仕方や進む方向が決定づけられていくので、要約技法は重要。その意味で、カウンセラーの意図が面接に反映されると考えなければならないし、面接の責任は常にカウンセラー側にあるといわなければならない。
⑧情動を安定させる 感情の反映技法
  • 感情(feeling)という言葉は、広く情動、気分、情操などを含む総称的な用語として用いられている。情動(emotion)とは、いわゆる喜怒哀楽に相当する狭義の感情を意味している。感情を表す別の用語として気分(mood)という言葉も用いられている。気分はより長期にわたる勘定で、憂うつとか爽快な気分などが挙げられる。
  • クライエントの情動への関心を示すとともに、どうしてその情動が起こってきたのかをより具体的に理解することが重要。「あなたは・・なので・・と感じているのですね」と表現する練習をしてみることが役に立つだろう。
  • クライエントの感情を理解することは重要であるが、その感情を受容しつつ、あくまでもクライエントが勇気づけられ、自らの力で立ち直っていけるように方向づけることが必要。マイクロカウンセリングでは各種の技法を用いる際に、たえずクライエントの肯定的資質に目を向け、その資質を増幅することに努めていく。
⑨技法を組み合わせて使う 基本的傾聴の連鎖
  • 練習ではいくらうまくできていても、本番になるとぎくしゃくし、練習したはずの技法がなかなかうまく使えない。このような体験を味わうことも練習の過程では必要。面接では、技法を意識しすぎるとそちらに気を取られてクライエントへの注意が拡散してしまいがちになる。面接の流れに沿って、練習したマイクロ技法がごく自然に、適切に使えるようになるまで技法を組み合わせてさらに練習を重ねる必要がある。
  • ラポールを形成するのに、ときには長い時間を要することもある。あせらず、ゆとりをもって取り組まなければならない。クライエントはどんなところが優れているのか、何に興味や関心を持っているのか、どんなことで頑張ってきたのかをよく理解することが必要。
  • 悩みの内容が深刻であればあるほど自分自身や周囲への見方はゆがみやすい。ここでは、クライエント自身の「物語」を聴く姿勢が求められる。深刻な悩みでは、クライエントは自己否定に陥りがち。感情の反映技法は、そのような否定的感情について受容し、クライエントが否定的感情から解放されるように導こうとするもの。肯定的資質はたとえわずかな芽であっても、そこに注目し、その芽を育てることによってクライエントの潜在的な力を強めていくことが求められる。
  • 多くの場合、クライエントは初めから自分がどうしたいのか、どうなりたいのかがわかっているわけではない。むしろ、本当は今の自分を変えたくない、現状のままでいたいと思っている場合も多い。たとえ小さな目標であっても、現実に立ち向かい、自らの力を最大限に発揮して、変化を達成してこそ成功への道は開かれる。

(3)積極技法を学ぶ

⑩自己開示とフィードバック
  • カウンセラーの自己開示がクライエントの理解のレベルに合わなかったり、自己開示が長すぎたり、一方的であったりした場合はむしろ有害な効果を及ぼす可能性もある。不適切な自己開示はクライエントの不安を増進し、相互性を損ない、自己表現を中断し、関係性を破壊することにつながりかねない。したがって、自己開示はある意味で「諸刃の剣」であるといってよい。
  • クライエントについて、カウンセラーから見てどのように見えているかを伝えることをフィードバック(feedback)という。クライエントは人から自分がどのようにみられているのかを知りたいに違いない。ただし、そこにはあくまでも承認を得たいという意味が含まれている。好ましくない状態のクライエントに対して好ましくないと言ってクライエントを傷つけてしまったのではカウンセリングにならない。
  • 効果的なフィードバック
  1. 具体的・限定的に:単なる主観的な印象でフィードバックを与えてはならない。これではクライエントはどこをどう改めればいいのかわからない。
  2. 非評価的に:ダメだとかよくないとか悪いというマイナスの評価的な表現はできる限り避けたほうがよい。
  3. 長所に焦点を当てて:弱点に焦点を当てるのではなく、長所となるところに焦点を当ててフィードバックするのがよい。
  4. 事実に焦点を当てて:聴き手の印象を述べるのではなく、冷静にその場を振り返ることができるように伝える。
⑪意味の反映と解釈
  • 共感的理解の最も深い水準では、感情の意味づけが行われる。その感情はどこから生じてきたものであり、何を意味しているのかを理解し、クライエントにそれを表現していく作業が必要。クライエントが自分の問題をどのように意味づけているかを的確にとらえていない限り、効果的な意味の反映はできないだろう。
  • いいかえや感情の反映は現実に起こっていることに焦点を当てているが、それらの事象を抽象化し、概念的に全体としてとらえたときに、それらの事象についてのクライエントに意味づけが見えてくる。
  • ともすれば否定的になりやすいクライエントの意味づけを、カウンセラーの解釈によってより肯定的な意味づけに転換し、クライエント自身が新しい物語をつくっていけるように促すことが必要。技法としての解釈は、クライエントとの共同作業のうえに成り立つと考えることができる。
  • 解釈は、クライエントがそれまでの間に培ってきた生き方や考え方、行動様式を変える1つの手がかりを与えるもの。カウンセラーから今までにない新鮮な視点を示されることによって、新しい洞察が得られ、今までの見方を変えるきっかけがつかめることは大いにありうる。
⑫対決による自己矛盾への気づきの促進
  • カウンセラーの役割は、クライエントが安心してこの自己の内部にある矛盾に立ち向かえるように環境を整えること。現状を十分に受け入れ、ゆとりのできた状態でこそ、変化に挑戦し、先に進むことができる。カウンセラーの援助によってクライエントに状況を打開させ、成長を促すのが対決とよばれる技法。
  • カウンセラーは、クライエントの話をよく聴き、クライエントがあまり意識していない矛盾点に気づかなければならない。そのような感受性を持ち合わせていなければ、効果的なカウンセリングを行うことは難しい。
  • クライエントが言葉で言っていることと実際にしていることの間にずれがある場合がある。小さな矛盾の背後に思わる大きな問題が潜んでいることもある。そのことをいつ、どのような表現でクライエントに意識させるかが技法としての対決の重要な点。
  • 「一方では・・、他方では・・」という葛藤状態を明確にとらえることが重要。カウンセラーはそれを認識しつつ、いつ、どのような形で表現するかを常に考えていなければならない。その過程で当初の矛盾のバランスは崩れていく可能性がある。そのことが解決への手がかりになると考えられる。

(4)技法をきわめるために

⑬発達カウンセリング・療法とマイクロ技法
  • 例えば、職場での不満について考えているクライエントが、今の仕事や人間関係について不満に思っていることをあれこれと話したとしよう。この段階ではクライエントは自分の考え方を変える必要性を感じていないし、まだ変えようともしていない(均衡化)。あくまでも自分の視点で物事を見ており(同化)、不満の種は自分のまわりにあると考えている。
  • しかし、カウンセラーに受け入れられ、今までよりも柔軟な考え方ができるようになってくると(同化→調節)、今までとは違う視点で物事を考えてみようとする動きが現れてくる。ときには、自分が変わることによって職場での人間関係を変えることができると思うようになるかもしれない。そうなるとカウンセラーが提案するストレス・マネジメントやアサーションの方法なども受け入れやすくなり(調節)クライエントの新たな行動様式が身につく可能性も出てくる。さらに実際にそれらの行動を練習し身につけることによって(同化)、新たな自分を発見することができるかもしれない(新たな均衡化)。
⑭日本人に合ったカウンセリング
  • 自分の「甘え」にまったく気づいていない人は、もしかすると感覚運動的であるのかもしれない。誰かに甘えたい気持ちが強く、それを行動に表す傾向にある人は、具体操作的であるとみなしていいだろう。こんな人には甘えたいが、こんな人には甘えたくないなど、自分の「甘え」のパターンに気づいている人は形式操作的スタイルであるといえる。自己の「甘え」のパターンに気づき、かつそれをカウンセリングの場面に生かせているならば弁証的スタイルとみなしてよい。
⑮カウンセリング研究における測定の問題 尺度の作成と利用

感覚運動的スタイル

  • 外面的要素の羅列にとどまっている
  • 話していることが断片的で因果的でない
  • 経験が「見える」「聞こえる」「感じる」など感覚的にとらえられている
  • 警官が感情的要素の強い表現で述べられている
  • 事実の外面的なことだけが述べられている
  • 経験のとらえ方が自己中心的で、一方的なものである
  • 勝手に作り上げたイメージや思い込みが表現されている
  • 限られた経験が、過度に一般化して表現されている

具体操作的スタイル

  • 根拠がはっきりしていて、因果的に述べられている
  • 自己の複雑な内面の感情や思考は述べられていない
  • 経験が順序良く具体的かつ詳細に述べられている
  • 過去の感情が冷静に述べられている
  • 具体的経験が自分の視点で整理されている
  • 自己の内面的な感情や思考が述べられている
  • 感情や思考の分析が行われ、その根拠が示されている
  • 特定場面の分析のみで、他の場面との比較はされていない

形式操作的スタイル

  • 複数の関係が比較され分析されている
  • いくつかの場面が比較され分析されている
  • 自己の思考・行動・感情のパターンが述べられている
  • 自己のパターンが分析・評価され、抽象的な言葉で表現されている
  • 過去の分析もされ、現在とのかかわりが述べられている
  • 自己の思考や行動について、さまざまなパターンが述べられている
  • いつくかの異なる状況を比較・対比してこれを1つの形態にまとめている
  • いくつかのパターンに共通するパターンが表現されている

弁証体系的スタイル

  • 自己の感情について、さまざまな視点から分析・評価されている
  • 感情や思考のパターンが自己のシステムとして表現されている
  • 自己の統合されたシステムにさまざまな視点が導入され、その進化の方向が述べられている
  • システムを変えるための行動計画が述べられている

3.教訓

カウンセリングをする人にとって、本書を読んで頭で理解するだけでなく、実際の場面で適切に使えるかどうかで、相談者の満足度が大きく変わると思います。

キャリアコンサルタント養成講座の授業でわからなかったことについても、本書を読めば「ああ、こういうことか」ということがわかるので、繰り返し読んでいます。(それでも、”言語的追跡”と”はげまし”の違いがまだわかっていませんが)

実際の試験に向けても、試験合格後の実践の場でも、ずっとお世話になる良本だと考えています。