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ティール組織 フレデリック・ラルー著


 

1.はじめに

ティール組織とは、経営者や管理職などが、部下の業務に対して指示出しや管理を行わなくても、組織に所属するメンバーが主体となり目的達成に向けたアクションを起こす組織のことです。

すなわち、組織の目的を実現するために、メンバー全員が共鳴する組織です。

本書は、2018年に書籍部門としてHRアワード優秀賞も受賞しています。

hr-award.jp

2.内容

(1)歴史と進化

①進化型(ティール)
  • 自分のエゴを一定の距離を置いて眺めると、その恐れ、野心、願望がいかに自分の人生を突き動かしているかが見えてくる。支配したい、自分を好ましく見せたい、周囲になじみたいといった欲求を最小化する術を得る。もはや自分のエゴに埋没しておらず、自分の人生がエゴを失う恐れによって反射的に振り回されることはない。このプロセスの中で、私たちは他の自分自身の深い部分にある知恵に耳を傾けられるようになる。
  • 進化型では、意思決定の基準が外的なものから内的なものに移行する。周囲からの反対に直面したり、成功しそうにないと思われたりしても、「誠実さ」や「自分らしさ」という感覚を出発点に、本当は正しいと思えない状況、自分が声を上げ行動を起こさなければならない状況に対する感覚を養う
  • 進化型パラダイムでは、人生における障害物とは、自分自身とは何か、世界とは何かを学べるようい機械なのだ。エゴにとっては有益な防御壁だが、魂にとっては無能な教師となる、怒り、恥ずかしさ、非難を素直に手放せる。そもそもこの問題は自分にあったかもしれないと考え、そこから成長するには何を学べるだろうと調べてみる

(2)進化型(ティール)組織の構造、慣行、文化

①自主経営(セルフマネジメント)/組織構造
  • 社内全体にモチベーションの欠如が広がっている組織をよく見かけるが、これは権力の不平等な分配によって生まれる、破壊的な副作用の1つである。職場とは、自分らしさを失わず楽しく振舞え、有意義な目的を目指しながら同僚たちと仲間意識を育めるような場所だ、そう感じているのは少数の幸運な人たつだ。圧倒的多数の人々にとって、職場は苦役に服する場所なのだ。毎日いくらかの労力を提供して、その引き換えに給料を得る場に過ぎない。これは、才能と情熱の無駄遣いにほかならない。
  • 上司がいない組織では、チームの方針と優先順位を決め、問題を分析し、計画を立て、メンバーの実績を評価し、時に厳しい判断を下す、といった仕事を一人のリーダーに負わせるのではなく、チームメンバーの間で分担している。チームとは実質的に、メンバーで自主的に編成された自治組織なのだ。
  • 部下を支配する上司という上下関係が存在しない代わりに、自然発生的な階層、つまり評判や影響力、スキルに基づく流動的な階層が発生する余地が生まれる。
  • コーチの役割は、仮に自分の方が優れた解決策を知っていると思っても、チームに自分たちで選択させること。予想できる問題を防ぐことではなく、問題解決をしようとするチームを支援することなのだ。
  • スタッフ機能を担う人々は、ルールや手続きを改正したり、専門技術を積み上げたり、解決すべき問題を探したりといった「付加価値を出す」方法を見つけることで、自分の存在意義を証明しようとする傾向がある。そのうち、現場から離れたところに権限と意思決定権を集中させるようになる。これに対し、進化型組織は、スタッフ機能を極力小さく抑えている。
  • 信頼の対象が広がると、その見返りとして責任も広がっていく。他人を見習う習慣と、仲間からのプレッシャーが、階層性よりもはるかにうまくシステムを統制する。チームが目標を設定し、誇りを持ってそれを達成する。誰かがこのシステムを悪用し自分の分担をしっかりと果たそうとしなかったり、サボったりすると、チームの仲間たちがすぎに「そういうことはやめてほしい」という気持ちを伝える。
  • 無数の参加者がちょっとした変化に注意を払い、意思決定をし、参加者同士で調整する自由市場というシステムの方がはるかによく機能することを誰もがよく知っている。ところが、数多くの組織では、どういうわけか今でも中央計画委員会に等しい仕組みが正しいと信じられている。自主経営とはつまり、組織内に自由市場経済を成功させる諸原則を持ち込むということなのだ。
  • 固定化されたスタッフではなく、ボランティアによるタスクフォースを使う方が多くの利点がある。従業員たちは、自分の本業では必要ないかもしれない才能や天分を表現する方法を見つけられる。会社を変えていく実質的な権限を自分が持っていることに気づくと、誰もが「この会社は自分のものだ」という意識と責任を強く感じるようになる。
  • 自主経営組織では、重要な意思決定を行い、新たな取組をはじめたり、成績の悪い同僚に説明を求めたり、紛争を解決したり、成果が出ずに何らかの行動が必要となってリーダーシップを引き継ぐ必要がある場合には、誰もが「トップ」という帽子をかぶることができる。
②自主経営(セルフマネジメント)/プロセス
  • 助言を求めることは謙虚さを示す行為で、これは楽しい職場の最も重要な特徴。この行為自身が「私はあなたを必要としている」という意思表示にほかならない。意思決定者と助言者は必然的に親密になる。その結果、意思決定者が助言を無下に無視することはまずできない。
  • コンセンサスの考え方は、実際には参加者全員がめいめいに勝手なことを主張する、集団的なエゴの嵐にに陥ってしまうことが多い。全員の希望を満足させようとする試みは、往々にして出口の見えない苦行になる。そして最後には、ほとんどの人がどうでもよくなり、「何でもよいから早く誰かに決めてほしい」という状況になることも珍しくない。
  • コンセンサスにはもう1つ、責任の所在が希薄になるという欠点がある。多くの場合、最終判断に責任を感じる人がいない。多くの決定事項が実施されないか、実施されても「決まったことなので仕方がない」といった姿勢になってしまう。物事が予定通りの結果にならないと、責任の所在がさらにあやふやになる。助言プロセスでは、意思決定の責任は明確に1人に帰属する。
  • 階層式組織では、エンジニアが分析をして機械のモデルを選定すると、工場労働者は新しい機会に不平を漏らすことが多く、操作方法もなかなか学ぼうとしない。しかし、自分たちでモデルを選ぶということになれば、機種変更に対する抵抗は起こらない
  • 結局、根本をたどっていくと「我らが刈り取るのは蒔いた種から育った物」、つまり自業自得なのである。恐れは恐れを生むし、信頼は信頼を育てる。従来の階層型組織と、そこに組み込まれたおびただしい数の統制システムの核心は、恐れと不信を育てるほど強力な機械だ。自主経営構造と助言プロセスは、長い時間の間に「同僚同士の信頼」という広大な共同貯水池を作り上げる
  • 自主経営とは、さまざまな組織慣行が互いに連動して物事が進んでいく仕組みである。紛争解決プロセスは、同じ職場に働く仲間たちが相互に結んだ約束について互いに説明責任を負う仕組みである。従来型企業では、社員の誰かが約束を果たさないと、同僚たちは不平不満を抱くとしても、どう対処するかについては管理職に任せる。自主経営組織では、仲間たちが声を上げて約束を果たさない同僚に向き合わなければならない
  • 目的は完璧で確かな答えを出すことではなく、実現性のある解決策を見つけ、必要があればすぐに練り直すことだ。新しい取組を試し、それらがどの程度うまくいきそうかを見るときに完璧な答えを持っているわけではない。役割は、環境変化に適応するために常に有機的に進化する
  • 「この問題については誰かが何かをしてくれるはずだ」と言ってそのままにしておくことは、進化型組織では受け入れられない。あなたが何かの問題や機会を見かけたら、それについて何かをする義務を負う。そして多くの場合、その「何か」とは、問題に関連する役割を担っている同僚のところに行き、それについて話すことなのだ。
  • 自主経営組織では、人々は自然に多くの機会に触れて学び育つので、社員が正しい機会に触れているかどうかを経営陣が悩む必要がない。自由に仕事をできる人々は何でも熱心に学びたがる。そして彼らは、学んだことを仲間たちと共有するはずだと期待されている。自主経営組織でのキャリアは、人々の関心、強い衝動、そして自由な職場に常にあふれているさまざまな機会から自然と醸成されていく
  • 進化型の視点から見ると、正しい問いは「どうすれば全員が同等の権力を握れるか?」ではない。「どうすれば全員が強くなれるか?」なのだ。進化型組織では、権力の獲得を、誰かが持つと他の人の分が減るという「ゼロサムゲーム」とは見ていない。全員がお互いにつながっていることを認め合い、あなたが強くなれば私も強くなれると考える。組織の目的を達成するために自分が頑張れば頑張るほど、自分自身が貢献する機会もどんどん増える。
  • 自由は責任を伴う。あなたはもはやさまざまな問題やつらい決断、難しい判断を経営陣に丸投げし、面倒なことを管理職に頼めない。非難や無関心や怒りに逃げ込むわけにはいかない。誰もが成長し、自分の考えや行動に全責任を負う必要がある
③全体性を取り戻すための努力/一般的な慣行
  • 自分の魂の知恵と本当の声に耳を傾けたいのなら、仕事のペースを落として、職場の騒音や喧噪の中で、沈黙を守る時間を見つけ出さなければならない。皆で沈黙すると、同僚たちとの人間関係に質的な変化が起こる。これまでとは違ったレベルの気づきが必要となる。同僚が言うことに耳を傾けるのではなく、彼らの存在や感情、考えに耳を傾けなければならない。その結果、仲間たちとの人間関係の質が変わる。
  • 全員の意見を聞くことと、一人の意見が議事の進行を支配しないことが重視されると、複雑な問題に対しても現実的で実行可能な意思決定がすぐに下される。話し合いと意思決定の仕組みによって、人々は自分の個人的な「エゴ」をミーティングに持ち込むことができないため、かえって自分のエゴがいかに頻繁に出てくるのかに気づくことになる。
  • 紛争がないと、私たちは他人の言いなりになりすぎるか、そうでなければ防衛的になりすぎてしまう。そしてどちらの場合も、同僚たちと接するときに本当の自分でいることをやめてしまう。進化型組織では、職場で必要な対立を表面化し、それに対処するための方法の1つとして、人々が緊張や対立を表面化しやすい環境を整えることだ。
④全体性を取り戻すための努力/人事プロセス
  • 役職がないと、「自分は何者か」というアイデンティティと職場での地位を結びつけることがかなり難しくなる。役職と職務記述書がないと、自己や他者を何よりもまず一人の人間ととらえるようになる。そしてその自分が、たまたまある期間中に特定の役割を果たすことに情熱を注ぎこんでいると考えるようになる。
  • 実際には、同僚たちが助け舟を出してくれることが多い。なぜならば、いつかは自分にも同じことが起こる、つまりお互い様だということを知っているからだ。その結果、社員同士が力を貸しあい、プライベートで重要な問題が生じたときには周りに助けを求めるという文化が生まれる。
  • 古くからの知恵によると、失敗というものは存在せず、あるのはただ、学び、成長するための誘いである。特定の仕事に向かないと気づく(あるいはそう言われる)ことは、「あなたはただ、ある贈り物をもらった」という人生の教訓にほかならない。解雇ですら、愛と思いやりを示す1つの機会になりうる。
  • 進化型組織の観点からすると、職が人為的に維持されるというのは全く意味がない。人は身分の安定を重視しがちだが、突き詰めて考えると、それは恐れに発した概念で、ありとあらゆるものが変わっていくという基本的な真実を無視している。また、モノや人が豊富にありすぎる可能性を考慮に入れていない。つまり、ある人の才能が、人数の多すぎる組織の中で浪費されているのならば、必要とされるところに移ってそれを発揮する方がよい、という可能性に思いが至らない。
⑤存在目的に耳を傾ける
  • 進化型組織に転換すると、人々は自分のエゴを抑えられるようになる。その過程で、自分自身の問題としても、組織全体の問題としても、「私が人生でなすべき使命は何か?」「本当に達成しがいのあることは何か?」といった、意義や存在目的に関する問いについて深く考えるようになる。進化型組織には、もはや生き残りへの執着はない。本当に重要なのは自社の存在目的なのだ。
  • 進化型組織は、組織を生きたシステムと考えている。自らの情熱を持ち、自らが何者かを認識し、自らの創造性を発揮し、自らの方向感覚を持った独立した存在なのだ。そのシステムに何をすべきかを指示する必要はない。ただその存在の声に耳を傾け、連携し、それが私たちをどこに連れていってくれるかを悟ればよい。
  • 進化型組織の慣行を実践している組織がよく使う言葉に「感じ取る(センシング)」がある。人間はみな、自然の感知器を備えている。何かうまくいっていないとき、あるいは新たな機会が開けたときには、それに気づく能力を生まれつき持っている。自主経営組織では、誰もが組織の感知器になり、変革に着手できる
  • 自主経営組織では、変化はそれを必要と感じている人が起点となる。こうした現象は、まさに自然が過去数百万年にわたって機能してきた方法と同じである。イノベーションは、組織の中心から計画に従って起こるのではなく、常に組織の末端で起こる。しかし、組織内の有機体が環境変化を感じ取り、適切な反応を見つける実験をしたときに始まる。うまく行かない試みもあるだろうが、うまくいけば生態系の隅々まで急速に広がる。
  • 組織は、集団的な知識の形成プロセスに対応して、進化、変身、拡大、縮小していく。現実こそが偉大な審判であり、判断を下すのはCEOでも取締役会でも経営委員会でもない。うまく作用したものが、組織内で勢いとエネルギーを得る。そうでなかったものは定着せずにしぼんでいく
  • 大きな飛躍を何度か図るのではなく、高速反復を何度も行う企業の方が、自社の存在目的に向けてスムーズに進歩できる。ベストと思われる判断を見極めるために無駄なエネルギーが使われることはなく、多くのデータと確信を得られるまで判断を保留するという、時間の浪費もない。また、小さな判断を何度も修正することに慣れていれば、判断が間違いだと判明したときにそれをただすことがずっと容易になる。
  • 将来の予測から得られる「統制している」という幻想をあきらめ、現実の進行に合わせて物事を進める世界の方が安全に感じる。進化型組織の観点からすると、目標設定をすることには少なくとも3つの問題がある。標数値がないと、人々は自由に内なる動機と相談しながら、自分たちができるベストの仕事をするだけ。
  1. 自分たちは未来を予測できるという前提に立っている。
  2. 内なる動機から遠ざかった行動をするようになる。
  3. 新しい可能性を感じ取る能力が狭まりがちになる。
  • 現在多くの組織は、自分たちの仕事は物事を遂行するためであって、自分の使命を見極めたい人々を助けるためではないと感じている。しかし、個人の目的と組織の目的には密接な関係がある。本当に驚くべきことが起こるのは、まさに組織の存在目的と個人の人生でなすべき使命が互いに共鳴し、補強しあったときなのだ。組織が何をなすべきか明確であるほど、共鳴できる人々の数は多くなる。
⑥共通の文化特性
  • 組織文化は組織の文脈と存在目的によって形作られるべきもので、創業者やリーダーの個人的な前提や規範や関心事によって決まるべきものではない。自主経営の組織構造では、組織文化は誰から強制されることもなく、自然発生的に生まれる。というのも、トップだけでなく全員が組織に必要なものを感じ取る作業に参加しているからだ。

(3)進化型組織を創造する

  • 進化型組織のリーダーが認識していること、それは個人的な成功も、集団的な成功も、意味のある目的を追求した結果として得られるものであって、成功自体を目標にしないよう気を付けなければならない。そして、自分のエゴは満たすけれども心には響かないような、また、会社の利益にはなるが存在目的には寄与しないような競争心へと戻らないように注意しなければならない。
  • 自主経営組織は楽なシステムではない。誰もが自分の行動と他の社員との関係の維持に責任を負うし、不愉快なニュースやトレードオフが発生した場合の困難な選択から逃げるわけにはいかない。自分を守ってくれる上司も、責任を転嫁する相手もいないからだ。自主経営の自由に伴う責任を背負いきれない人は、従来型の階層的組織へ去ることを選ぶことが多い
  • 仕事と組織に対する社員の思い入れを高めようとする際、整っていなければならない条件が1つある。それは自主経営を導入したいリーダーが信頼されていなければならない。たいていの職場では、上層部から売り込まれる変革への取組を、労働者は本能的に信じなくなっている。リーダーを信頼していない労働者に対して、自主経営方式を上から押し付けると、彼らは自由を享受するが責任を取ることは拒絶し、会社は倒産の方向に向かう
  • もしあなたが組織変革の中心的な役割を果たすのであれば、自分が社内でどう見られているかについて可能な限り意識するように努めてほしい。他の人々が、あなたがそこにいることから意識的、または無意識的に何かを受け取るだろうか?どのような恐れ、願望、ニーズであなたは動いているのか?社内外の人々に、あなたがどう映っているかを教えてくれるよう依頼し、自分の組織内における位置づけを十分意識するよう心掛けてほしい。周りを信頼し、愛し、思いやり、明晰な心と決断力を持っているという印象を与えれば与えるほど、組織変革は容易に進むだろう。

3.教訓

進化型組織(ティール組織)や自主経営組織がどういうものか、どのようなメリットまたデメリットがあるかは、よく理解できたと思います。

一方で、上場企業グループのいち末端組織のミドルマネージャーの立場では、現実的に導入はできないとも感じました。それは、本書の第Ⅲ部でも、「無駄な努力はやめた方がよい」とも指摘されています。

しかしながら、本書の考え方である例えば以下のようなことについては、今の組織でも実践できると考えています。自分自身の考えや行動の仕方にとっても、チームを運営していく側にとっても十分有益で、今後も意識していきたいと思います。

  • 自身のエゴを抑えて、本来正しいと思う信念に従う
  • 誰の指示が無くてもメンバーが主体的に行動する
  • 誰かに責任を転嫁するのではなく、自分事としてとらえ責任を持つ
  • 必要な紛争、対立を表面化したうえで対処する
  • 試行錯誤を繰り返し、その都度判断して修正する