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1.はじめに
不条理な行動は決して非日常的な現象ではなく、条件さえ整えばどんな人間組織も陥る普遍的な現象であり、現在でも将来においても発生しうる組織現象です。
本書は、旧日本軍の不条理な組織行動を問い直し、その不条理の背後に人間の合理性があることを明らかにします。
そして、このような不条理な組織行動に陥らないように、不完全なわれわれ人間が何をなしうるのかを明らかにすることが、本書の狙いです。
2.内容
- トップの意見を変えることは難しい。様々な取引コストを考えると、独裁者が非効率で不正な方向に進んでいても、現状のまま何もしないでいることの方がメンバーにとっては効率的となる。
- 作戦に反対する人々は部隊を下り、無謀な作戦を実行しようとする人々だけが次々と舞台に登場するという逆淘汰(アドバース・セレクション)が発生する。そして、結果的に成功する見込みのない非効率な作戦が合理的に実行される。
- 良心に頼らず人間の不備に付け込んで失敗を隠蔽することができれば、たとえそれが違法であれ不正であり、自らと他のメンバーの負担するコストは低い。したがって、この場合、組織的隠蔽工作を行うことが合理的となる。
- たとえ既存の戦略や製品が非効率であることに気づいたとしても、より効率的な戦略や製品へと移行するには、巨大な埋没コストと取引コストが発生するので、人間は容易に変化できないような不条理に陥る。逆に、変化しない限りこれら巨大なコストは発生しないので、かすかな勝利の可能性さえあれば留まろうとすることが合理的となる。
- 組織変革によって生み出されるコストがそのベネフィットよりも大きいならば、組織は自生的に変化することはないし、意図的に変革する必要もない。
- 各メンバーが自ら完全合理的であると思い込み、批判的合理的な構造を形成できない傲慢な組織は、絶えず不正と非効率を増加させ、それらを排除する新しい戦略を形成することができず、現状を維持することが合理的となる。「閉ざされた組織」は不条理のなかで淘汰されていく。
- 勝利主義は、勝利した後も勝利に酔いしれ、過去の勝利と無関係な意見には一切耳を貸そうとしはしない。それゆえ、勝利主義者が支配する組織では、自分に批判的な議論は排除され、ドグマ的教説がメンバーに強制され、時間とともに不正な資源配分が繰り返され、最後に組織は淘汰される。
- たとえ偉大な理想に基づいていようとも、不可能なユートピア的改革を目指すのではなく、より現実的で緊急な問題を徐々に解決していこうとする考えに立つ必要がある。
3.まとめ
以下の2点に尽きると考えます。
自分がいる世界がすべてだという傲慢な考え方に陥らないよう注意し、常に周囲に謙虚な気持ちを持ちたいと思います。
- 人間は完全ではなく、常に誤りうることを自覚すること
- 組織内部に非効率と不正が発生する可能性を認め、批判的議論ができる「開かれた組織」を目指すこと
(自身の読んだ本は新品が購入できないようなので、別の本のリンクです)