1.はじめに
メルカリで「いつでも会社を辞められる自分になる」を探していたとき、本書が2冊セットにされていたので、やや受動的に購入しました。
せっかくなので読み始めたところ、もしかしたら、狙っていた本よりも面白いかも、と思い、あっという間に読み終えてしまいました。
以下では、特に印象に残り、勉強になったところを抜粋して紹介していきます。
2.内容
(1)中高年が職場で肩身が狭い真の理由
- 前半で論じていくのは、中高年の「四ない」問題。「働かない」「帰らない」「話さない」「変われない」。これらが多くの中高年を不幸にしているし、ひいては社会・経済全体に大きな負の影響を与えている。
- 変わらない仕組みの中、「変われ」と迫られる中高年。中高年にとってはあくまで「他人事」でしかない。同じようなことは、「女性活躍のセミナー」でも起こる。素晴らしい経歴を持つ女性の話を聞いた一般女性が「私はとてもあんなふうに活躍はできない」と内心引いてしまう構図と似ている。他の人が見聞きすることで、活躍する人と自分との「違い」も同時に見せつけられるからだ。ロールモデルが語るエピソードには、受け手の意欲を委縮させてしまう「負の効果」もまた存在する。
- 日本の財界から発せられる「キャリア自律」言説もまた、「変化」に対して「個人」のサバイバルを促すもの。結局のところ、日本の中高年に対する「キャリア自律」アプローチの最大の問題点は、実行的な制度上の工夫もこらさず、きちんとした予算もつけない、ただの「呼びかけ」が多い点。経営者でもない従業員に「経営者視点」を求めるような「ない物ねだり」に近いもの。組織的な手立てのないまま経営者、評論家がらがしばしば口にする「キャリア自律への呼びかけ」は、あまりにも空虚に響く。
(2)狭まる「ミドル・シニア」包囲網
- 課長や部長といった役職が上がることを「昇進」、その人の資格等級が上がることを「昇格」と言うが、「職務遂行能力」が上がることは「昇格」に関わる。その資格等級に達している人の中から、役職につく人が選ばれる仕組みになっている。
- 「年功序列」という言葉を単純に捉えると、年齢に応じて給与や処遇が「自動的に」上がるように見える。下の世代にも「必然的に」不利になるように見える。しかし、実際には「査定付き年功」へと実態が変化した日本型雇用の内部では、「大きな差がつきにくいが、それゆえに小さな差が大きな意味を持つ」という認知作用を経由して、評価される側に同僚同士の競争意識を内面化させる。
- 実際、ポスト・オフ経験者の声を拾っていくと、「あまりに理不尽」「夜も眠れなかった」といった企業への怨嗟や悲痛な嘆きが多く聞かれる。それまで一日中会議で埋まっていたスケジュールが、年齢という実力にほぼ関連のない基準によってある日突然ガラ空きになり、組織の意思決定プロセスから急に除外されることになる。年収については急に下がらないような措置を行う企業もあるが、会社の中心から文字通り「弾かれる」ことになることに変わりない。
- シニアの不活性化の状況は、職場の従業員同士の観察を通して、下の世代にもネガティブな影響を与えている。逆にいえば、シニアでも活躍できている会社であれば、若手従業員は離職意向が低くなり、定着する気持ちを強めていく。自社におけるシニアの活躍は、若者の未来への展望を左右する写し鏡ということ。
- 部下が高齢になるほど、そして上司との会話量が少ないほど、人事評価は低くなる傾向がみられる。「年上が先輩、年下が後輩」という安定した秩序が壊れるとき、その二者関係はぎくしゃくしたものになりがち。ミドルシニアに限らず、ある職場で人が確約しパフォーマンスを上げられるかどうかは、職場の人間関係、特に上司との関係に大きく左右されるので、こじれた関係は由々しき問題。
- 包囲される側である中高年にとっては、2000年以降の世間からの逆風を「キャリアの中から」受けてしまっていることになる。時代の変換期における潮流の方向性と従業員個々人のキャリアの蓄積が相反してしまう、そうした歪みから、種々の問題が噴出してきている。
(3)日本の「校内マラソン型」人事が「働かないおじさん」問題の原因
- 中高年になってからモチベーションが欠如する要因の根本には、出世「以外」の動機づけを無化させてしまうような、中高年になるまでの人事管理のあり方そおものがあるから。
- 日本企業におけるキャリアの歩み方をたとえれば、小中学校で多くの人が経験する「校内マラソン」に似ている。スタートが同じですぐに大きな差をつけないという意味で「平等主義的」な体裁を保つ。しかし、後半戦から最後にかけては当然ながらきっちりと差がついて、順位が付く。日本の雇用の独特さは、こうした校内マラソンに似た、未経験からスタートする、広くて長い出世レースにある。
- 「ジョブ型で専門性を」といった発想は、人事制度の枠組みを変えればみなエキスパートになっていく(だろう)という絵に描いた餅でしかない。人事制度を変えたこうらいで十分な育成経験と自主的な学びが引き出されるという発想は、「海外はスペシャリスト、日本はゼネラリスト」といった表面的理解から生み出される勘違い。
- ジョブ型雇用世界のワーク・ライフ・バランスを見るときは、その裏にある格差構造にも目を配る必要がある。「正規雇用であれば平等に出世機会が与えられる」という日本の職務横断的な平等感覚を(都合よく)保ったまま、昇進の天井が早めに見えていることで可能になる「家庭重視」の働き方を羨ましがってみても仕方ない。
- 実際にどこまで異動するかどうかは個別性が高いものの、異動主導権が企業にある限り、「キャリアの先が見えない」という状況が長く続く。専門性を磨きたいと思っても、3年後にはその職務についているかわからない状態では特定の職業への教育コストを投じる動機が生まれにくくなる。
(4)「話さない人」の落とし穴
- 中高年の「話さない」問題はつながりのある人の人数や交流といった量的なものだけではない。交流の「質」の面でも、より表面的で形式的であり、自分自身を他人に見せることに消極的なコミュニケーションを取る傾向がある。
- 男性の期待の多くは独りよがりなもの。女性は子育てや学校行事などを通じてママ友や地域との社会関係資本を蓄積している一方で、男性側のそれがあまりにも「職場」に偏っていることで、定年後にその差が現れるということ。
- 純粋な関係性はお互いのコミットメントによって初めて成り立つものであるがゆえに、終わらせることもまたお互いの選択次第、という厳しい側面を持つ。「純粋な関係」は、「解放」であると同時に、相対する人たちと相互選択的に構築していくものになる。そうした外的強制力の欠如は、人とのつながりが「相互の自己決定」によって決まるという、いわば「檻なき檻」となって私たちの社会を覆っている。
- 自分についての正確な認識は、「自己認識=セルフ・アウェアネス」と呼ぶが、他者との自己開示を含む対話は、その自己認識の高さとも密接に紐づいていることがわかっている。
- セルフ・アウェアネスには、自分自身を明確に理解する「内面的自己認識」と周囲が自分をどう見ているかを知る「外面的自己認識」がある。自分のことをじっくり振返ってよくわかっていることと同時に、外からどう見えているかもわかっていなければ、認識は独りよがりになってしまう。
- 中高年の「話さない」問題-交流からも対話からも遠ざかり、話したとしても自己開示しないという「量と質」の面でのコミュニケーションの希薄化-は、自己を明確化し、セルフ・アウェアネスを向上させる機会を奪う。
(5)「変われる」ことはキャリアの価値
- ミドル以降のキャリアは、一見安定しているようだが、ポスト・オフや再雇用、独立、早期退職、職域の変更などの大きなターニングポイントはいくつも存在する。もちろん、結婚・子育て・介護といったライフイベントもあるし、急な人事異動や統廃合もありえる。「変化適応力」がない状態では、予見しにくいそうした環境変化を乗り切るのは難しくなる。
- 変化適応力の背景には、3つの促進心理がある
- 自分なりの目指すべき目標を見つけて進んでいく「目標達成の志向性」。常に自分で目標を作っていく力と、その定めた目標に向かって集中して行動していくことが含まれる。同じ仕事をするにも自分なりの目標をセットするかどうかによって、取り組み方は大きく変わってくるもの。
- 「新しいことへの挑戦や学びへの意欲」。職業人生において、ますます「学び」の大切さは増している。そのこと自体に異議を唱える人はおそらく少ない。環境変化と技術発展の速度が速くなれば、新しいことを学び続けることの必要性は高まり続けていく。
- 自分自身の興味関心の範囲を決めつけないという「興味の柔軟性」。終身雇用傾向が強く、安定した雇用の企業で勤めている人は、この「興味の柔軟性」が低いという傾向があることがわかった。解雇の心配がない人ほど、「自分はこういうものだ」という好奇心の限界を設定してしまう。
(6)企業はどうすればよいか
- キャリアにおける自律性や意思は、組織が待っていれば勝手に現れるものでもない。また「人がもともと持っているもの」でもない。個別の意思には「掘り起こし」と「発芽」が必要であり、環境次第で従業員の個性は条件づけられる。
- ほとんどの場合問題になるのは「そもそものWillのなさ」。多くの従業員は異動してまで「やりたいこと」のような主体的な意思を持っていないことが多いのが現実。この問題を解くヒントこそが「対話」。実は、変化適応力の高い人のもう1つの得票が、他者との「対話」の経験が豊かであること。
- 時空間的な分業が導く男性の「家計の大黒柱」意識を背景にして、「長くて平等な出世レース」から降りることができず、そのプライドから人に「自己開示をしなくなり」、結果的に「自らの興味を閉じてしまう」というスパイラルが変化適応力を下げるとすると、これは極めて重大な副作用。
- ときには厳しい意見であっても、他者から客観的にものを言ってもらわなければ、変化に対応する前向きさにはつながっていない。自分で考えず、ただ人の指示や情報に従嘔吐したり、苦労を分かち合って感情的に慰めあっているような相談の仕方は、「変化適応力」をむしろ下げてしまうほうこうに働く。
(7)成功する早期愛職を迎えるために
- 働く中高年の活躍を導く行動の因子は、次の5つ(PEDAL)にまとめられる。
- 仕事を意味づける(Explore)
- まずやってみる(Proactive)
- 学びを活かす(Learning)
- 居場所を作る(Associate)
- 年下とうまくやる(Diversity)
- このような行動因子がミドルからのパフォーマンスに影響するということは、逆に言えば、ミドルになるとこうしたことが「できなくなってくる」人も多くなるということ。キャリアカウンセラーから話を聞いても、ミドル向けのキャリア面談では、「仕事の意味づけなど考えたこともない」という方が実に多くいる。転職を目指すもミドルはもちろん、これから差し掛かってくる人もPEDAL行動は重要な要素。
- ジョブ・クラフティングには、以下の3つの側面がある。
- 作業クラフティング:仕事のやり方を工夫したり変えたりする
- 人間関係クラフティング:仕事で関係する人々との関わり方を調整する
- 認知クラフティング:仕事の目的や意味を捉え直したり、自分の興味関心と結び付けて考える
- 行動因子の4.居場所を作るや5.の年下とうまくやるは「人間関係クラフティング」に、2.まずやってみるや3.学びを活かすは「作業クラフティング」にあたる。1.仕事を意味づけるは「認知クラフティング」に当てはまる。
- ビジネスの発展によって、仕事は高度に分業化され、バラバラになってきた。そうした仕事を目の前にして、「やりがいがない」と感じている人は中高年に限らずどの世代にも多いものだが、そうしたときこそ個人にとっては自らが引いてしまっている「境界」を変えるような、主体的な関与が必要になってくる。
(8)私たちはどう転職すればよいか
- 転職には本当の意味でのプロはいない。自分自身の転職というのは、ほとんどの人が人生で数回しか行わないこと。そうしたことを考えると、転職にまつわる想定外のショックは、「避けるべきもの」というよりも「覚悟するもの」と見たほうがよさそう。それよりも大事なことは、そうしたリアリティを乗り越えて、いかによい転職に近づいていけるか。
- 転職後の職場への適応にこそ、「変われない」問題が立ちはだかる。ポイントは前職での仕事のやり方や慣習、コミュニケーションの取り方などをいかに「捨てられるか」。「いかに過去へのこだわりを捨てられるか」こそが中高年の転職後の活躍を左右すると言っても過言ではない。
- 「自分のスキル・技術が入社してすぐに活かせる」と感じている人ほど、「同僚からの支援」を、「入社してすぐに実力を発揮しなければいけない」と感じている人ほど、「上司からの支援」を、受けられていなかった。
- 転職活動は「うまくいかなくて当たり前」の心構えで
- 「孤独」に転職しないこと
- マネープランは「ライフプラン」と合わせて考える
- 「肩書」「名刺」を求めすぎない
- 転職への「想い」は話してつくる
- 「人づて」転職は紹介者以外の人と会う
- 「即戦力」を目指さない
- 入社後も日々の細かな「アンラーニング」を
- 出羽守(ではのかみ)にならない(前の会社では・・)
- 「前の会社」とつながり続ける
3.教訓
「キャリア自律」「役職定年」「年功序列」「ジョブ型雇用」「ワークライフバランス」「自己認識」「ジョブクラフティング」など、最近よく語られるキーワードについて、理想だけでない現実的な課題を含めて様々な観点から解説されていて、非常に勉強になりました。
日本型雇用について多面的な分析がなされ、中には自分自身が経験したこともある内容もあり、何度もうなずきながら読みました。
主なターゲットは40代以降という印象で、帯には2.の最後にも挙げた「後悔しない転職、10のポイント」が記載されていますが、転職をメインに考えていない人にとっても、まだ30代以下の人にとっても、日本型雇用の裏表がわかるので、読んでおいて損はない良書だと思います。
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