1.はじめに
カウンセラーの先輩からは「理論や技法は継続的に学ぶといい」、というアドバイスをいただいています。中でも、「認知行動療法(CBT)」「解決志向アプローチ(SFA、ブリーフセラピー)」とともに、「交流分析(TA)」が挙がります。
産業カウンセラー試験でも、交流分析の問題が毎回3問前後は出題されます。よって、主催団体でも学ぶべき内容と捉えているものと推察しています。
このような理論や技法について学ぶと、単にカウンセリングの場で活用するだけではなく、日常生活での会話や自分の考え方を振り返りに本当に役に立つ、と毎回感じます。
そして、本書のプロローグには、交流分析の考え方が以下のように示されています。
交流分析(トランザクショナル・アナリシス=TA)は、自己発見と人間理解、よりよい人間関係を求める「気づき」の科学です。交流分析では、相手を変えるよりも、まず自分に気づき、自分を変えることが先決だと考えます。「自己主張の原理」を脱して「自己理解の原理」を把握するとき、本当の意味の人間らしいコミュニケーションが始まるといえましょう。
以下では、第1章以降で特に印象に残った点を引用して紹介していきます。
2.内容
(1)3つの私
- 「人間はみな自分の内部に3つの私をもっている」-これが交流分析の基本になる考え方。それぞれの私は感情、思考、行動様式に一連した特徴があり、これを自我状態と呼ぶ。
- 交流分析は、人間の心理や対人関係の問題などを、誰の中にもある、この3つ私に基づいて考えてゆくもの。この3つの人格を十分に自覚し、さまざまな生活状況の下で、それらを自由に駆使できるように、自分を訓練してゆくことが目的。
①親の自我状態(P)
- 両親、またはあなたを育ててくれた人(養育者)たちが、感じたり、行動したりしたのと同じように感じ、行動する部分。すなわち、あなたの中にあって、いまだに生きていて、あなたに影響を与えている親の行動や動作。
- 批判的な親(Critical Parent):主として、批判・叱責・非難を行う。一般に非合理的で、Aの冷静な評価を受けたことがなく、しばしば偏見に満ちている。宗教・政治・伝統・性別などについても、自分なりの意見に基づき、必ずしも事実にそぐわない形で、行動基準を設定しようとする。
- 保護的な親(Nurturing Parent):子どもの成長を助ける母親的な親。同情的、保護的、養育的。慰めや親切な言葉をかけ、相手を快適な気分にしてあげる。しかし、度が過ぎると、親切の押し売りとなって、他人から敬遠されることもある。
②大人の自我状態(A)
- 主な仕事は、事実に基づいてデータを収集し、それらを整理、統合することにある。得られたデータは、過去の知識や経験に照らして評価、修正される。このような意味から、Aは理性と深く関係する部分で、Pの偏見、Cの感情・本能的な態度に影響されない限り、それら2つの間の冷静なレフリー役を演じることもできる頼りになるパートナー。Aによる人格の統合は、交流分析が目指す目的の1つ。
③子供の自我状態(C)
- 自由な子ども(Free Child):親のしつけの影響を受けていない、もって生まれたままの自然な姿。本能的、自己中心的、積極的で好奇心や創造性に満ちている。
- 順応した子ども(Adapted Child):自由なCとは別に、成長過程において、親の影響を受けた部分。順応したCは、対人関係をスムーズに営むための適切な技術を身につけているが、反面、自由なCを犠牲にして、本当の気持ちを抑えたり、劣等感を抱いたり、現実を回避したりとマイナス面に作用することも多いもの。
(2)愛は貯金できる
- 精神分析では、愛とは相手のために、相手本位に時間を与えることにある、と考える。自分が相手を完全に独占でき、他者の介入の心配もない時間-子どもが成長するうえでも、”徹底的に自分本位の時間”を親が共有してくれる体験が必要。
- 相手の存在や価値を認めるようなさまざまの刺激をストロークと呼ぶ。人間はなぜ、人を求め、コミュニケーション(交流)をしたがるか。それはストロークを交換するため。言い換えれば、自分本位の時間を与えられず、十分なストロークをもらえない人間は、うまく生活がしていけないといってもよい。
- 人は肯定的なストロークを欲しがるが、これを十分に得られない場合は、否定的ストロークを求めて行動する。”背に腹は代えられない”、ないよりはましということ。叱責や罵詈雑言でもいいから、私をかまってくださいというシグナルを出す。
- 子どもは親から大事にされると、「自分はOK-大事な存在である」、また、「自分以外の人や自分をとりまく世界も、きっとOKに違いない」と感じ、「基本的信頼」が確立できる。そして、このように心が一番安定した状態が、PACのバランスのとれた成長を促す。
- 子どもは、人生を自分の存在という、小さな空間から感知するから、その判断が多少ゆがんでいたり、非合理的であるのは当然。お父さんが何かに腹を立て、怒りを爆発させれば、子どもおその方法でいいのだと判断して、同じような怒りの処理の仕方を覚えていく。もし、このお父さんが爆発しそうな怒りを、そこに間をおいてコントロールするのを見れば、子どもは、親のまねをして育つ。
(3)くり返す人生ゲームー人生ゲームの分析
- くり返し人間関係をこじらせたり、非建設的な結果を招いたりする行動のパターンが「ゲーム」と呼ばれるもの。ゲームと呼ぶのは、このような行動パターンの裏には必ずおかしなルールと隠された目的が潜んでいるから。
- ゲームに気づく最も有効な方法は、自分の感情に注目すること。ある人との人間関係で、くり返しくり返し不快な気分を味わうときは、ゲームを演じていると考えてよい。怒りをこらえたあげく、逆にこちらの”堪忍袋の緒が切れて”相手を罵倒してしまい、そのあとで自分も罪悪感にかられるようであれば、相手のゲーム(怒りの挑発)に乗ってしまったと見るべき。
- 子どもによっては、親から自分の存在を認めてもらうために、常に人騒がせな事件を起こしたり、何でもないことをひとひねりしてこじらせるなど、不快な、非建設的な人間関係をこしらえる癖を身に付けてゆく場合がある。幼いころのストロークの求め方が根深い習慣となり、ゲームの原型をつくりあげると考える。
- ゲームを演じる人は、相手が自分の思い通りになってくれるまで、怒り続けたり、悲しみ続けたりするもの。しかし、残念なことに、この期待はほとんど100%裏切られる。だから、長々と心配したり、恨んだりするのはやめる方が賢明。どんなに憂鬱になってみせようと、悲しい顔を見せようと、他人を変えることはできないという大原則を肝に銘じる。
(4)あなたの人生ドラマには筋書きがある―脚本分析
- 交流分析では、人生を一編のドラマのようなものとみなし、その中であなたが演じている役割を人生脚本と呼ぶ。脚本とは、あなたの子ども時代に、親を中心とする周囲の影響のもとで発達し、その後の対人関係などを含めた人生経験によって強化され、固定化された、いわば人生の青写真。
- ごく幼時にできあがる「基本的構え」の上に構築される脚本は、人生の最も重要な局面ー例えば、職業の選択、結婚、育児、事業拡大の決断、定年退職、死に方などで、あなたの行動を左右する大きな力をもっている。
- しかし、交流分析では、この脚本を書き直すことができる、と考える。あなたの性格のナゾ、とくに物心つかない幼児期につくられる性格の基本的な部分の仕組みを系統的な方法で知ると、脚本に縛られない自分独自のドラマが描けるようになり、人生計画を自分で決定できるようになる。これを「脚本分析」という。
(5)エピローグ
今の生活の中で、十分なストロークを得て、より豊かな人間関係をつくる方法。それは、ストローク・プランを立てること。肯定的なストロークを交換し、自分のストロークを赤字にしないためには5つの鍵がある。
- 与えるべきストロークがあったら、それを他人に与えること
- 欲しいストロークがあったら、それを相手に要求すること
- 欲しいと思っているストロークが来たら、喜んで受け取ること
- 欲しくないと思っているストロークが来たら、上手に断ること
- ストロークが不足したら、自分で自分によりストロークを与えること
3.教訓
冒頭でも触れたように、カウンセリングの理論や技法を学ぶことは、単にカウンセリングの場面に役立つだけではありません。日常の会話や自分自身の思考を振り返るときなど、さまざまな場面で本当に力になると、学ぶたびに実感しています。
例えば、子どもがまだ小さい頃、期待が大きすぎるあまり強く当たってしまったことがあり、「自分の子育ては間違っていたのかもしれない」と感じるようになりました。本書に出てくる「はい、でも(水かけ論)」のように、気づけば「でも」を連発する話し方になっていたのです。意図せず押しつけがましい態度になり、子どもに弁解を求めるような関わり方になっていたのかもしれません。
そのことを妻に話すと、「気づけただけで十分。これから変えていけばいい」と言ってくれました。私が「本当に変われるのかな。コミュニケーションは相手あってのものだから、自分だけ変わっても子どもの受け止め方が変わらなければ意味がない」と返すと、妻は「それでも、まず自分が変わらないと何も変わらないよ」と言いました。
そこで私は子どもに対し、「これからは言い方に気をつけるようにする」と宣言しました。また、「“でも”が多いと、相手はあまりいい気持ちがしないんだよ」とも伝えました。ただ、それを子どもがどう受け止めたのかはわかりません。それでも、伝えなければ相手の気づきを促すこともできません。少しでも自分がP・A・Cのどの立場で話しているのかを自覚し、人生脚本を少しずつ書き換えていく意識を持ち続けたいと思っています。
なお、本書にはエゴグラム・チェックリストの50項目や、得点から導かれるグラフの形状による性格傾向、人生脚本のチェックリストなど、まだまだ紹介したい内容が多く含まれています。全体を通して、さまざまな気づきを与えてくれる良書でした。
(エゴグラムのセルフチェックは、以下の厚生労働省のホームページでもできます)
