1.はじめに
本書は「こころの健康を育てること」に焦点を当て、こころの健康を形づくる5つの要素――①ポジティブな感情、②エンゲージメント、③良好な人間関係、④人生の意味、⑤達成感――について、それぞれの意味や高めるための実践方法を紹介しています。
タイトルに“ノート”とある通り、自分自身と向き合い、考え、書き込みながら進めていく構成で、実質的には「ワークブック」に近い内容です。
これまでどんな場面で不安やストレスを感じてきたのか、どんなことに没頭してきたのか、自分にはどんな徳性があるのか、人生の意味をどう捉えているのか――。ときにはライフラインチャートを作成しながら、これまでの人生を丁寧に振り返っていきます。
各エクササイズは、解決志向アプローチに見られる3つの原則に基づいて構成されています。
- うまくいっていることは、それを増やす
- 過去にうまくいったことは、もっとそれをする
- うまくいっていないことは、何でもいいから違うことをする
さらに、現在の状態を10段階でスケーリングし、「あと1点上げるとしたらどんな状態が想像できるか」「そのためにどんな小さな行動が取れるか」「いつから始めるか」などを言語化することで、次の一歩を踏み出すきっかけをつくっていきます。
また、自分自身のためだけでなく、Chapter3「『こころの健康』を支援しよう」では、身近な大切な人のこころの健康を促進するために、私たちがどのような言葉がけや関わり方をすればよいのかを学べる内容も用意されています。
今回は、そのChapter3に焦点を当て、特に印象に残った部分を引用しながら紹介していきます。
2.内容
(1)こころの強さに目を向ける
- どんな人間にも、レジリエンス(こころの強さ)があると信じることがとても大切になります。悩んでいる人の話を聞く際には、こちらが一方的に決めつけず、彼らが経験している、しんどい、辛い経験に耳を傾けることが重要です。「どうやって、ここまでやってこれたのか?」というその人がもつ「こころの強さ」にも着目してください。
- 「しんどいよね。それにもかかわらず、ここまでどのようにやってきたの?」「何が役に立っていたの?」と質問をしてみましょう。ネガティブな状況でも、自分を支えている力があることに目を向ける手助けをしましょう。キーワードは「にもかかわらず」です。
(2)ポジティブな出来事に気づくきっかけを作る
- 帰宅した子どもは、「何が良かった?」と質問されることによって、脳は記憶の中から「良かった出来事」を検索し始めます。「良かったことはあった?」と聞いてしまうと、「ある・ない」の会話になってしまう。
- もし「何もない」「別に」という返事が返ってきたときは、「そういう日もあるよね。また今度教えてね」と相手が面倒くさいと思わないようにひとまず引き下がれる余裕を持ちながらやってみてください。
- 忘れがちですが、大切な人のポジティブな感情を促進するために最も大切なことは、ご自身が機嫌よくいることです。自分が行う何気ない小さな言動も相手がポジティブな感情を持つきっかけとなることがありますので、意識して実践してみたください。
(3)コミュニケーションの循環を把握する
- 身近な人との人間関係を良好にするために、積極的-建設的反応を意識してみましょう。良い話を聞いたら、「それいいね。詳しく聞かせてよ」と自分の話に持ち込まず、相手のお話に耳を傾けたい。
- 「うまくいっていないことは、何でもいいから違うことをする」に従い、誰かが異なる行動を取って、この悪循環を断ち切ることをお勧めします。相手を変えることはできませんから、自分が異なる行動を取ることで、人間関係を良好な方向へと持っていきましょう。
(4)プラスの行動の目標を立て、勝因分析をサポートする
- 目標設定で重要なことは、「〇〇しない」というネガティブな目標ではなく、「○○する」というポジティブな行動の目標を設定すること。もし相手が「○○しなくなりたい」と言っていたら、ぜひ「その代わりに何をしたいの?」と聞いてください。キーワードは「その代わりに」です。
- 成功するためには、なぜできなかったのかという原因分析よりも、うまくいった時のことを思い出し、なぜうまくいったのかを分析した方が効果があることが報告されています。ぜひ「勝因分析」というキーワードも頭の片隅に入れておきましょう。
3.教訓
ここでは紹介しなかった”Chapter1:「こころの健康」を理解しよう”、”Chapter2:「こころの健康」を高めよう”は、ポジティブ心理学やブリーフセラピー(解決志向アプローチ)、ナラティブ・アプローチなどの考え方に沿って、自分自身を丁寧に見つめていくためのワークブックになっています。
しっかり向き合おうとすると、1日では書き終わらないほどの分量があります。また、こうした作業に慣れていないと、書き進めること自体が難しく、しんどさを感じる人も少なくないでしょう。
でも、それでいいのだと思います。自分のことを客観的に理解し、次に何をすべきかが明確になっている人は、そもそも悩んだり、この本に頼ったりする必要がないはずです。けれど、世の中にはそんな“強い人”ばかりではありません。この本や周囲のサポートを借りながら、自分や周囲への理解が少しでも深まれば、それだけで確かな一歩を踏み出したことになります。
さらに、一度書き終えたとしても、時間が経ってステージが変わったり、新しい世界が見えてきたりすると、自分の価値観や目指したい方向が変わることもあります。そんなとき、この本を振り返り、必要に応じて書き換えながら、こころの豊かさを育てていける。そんなふうに思える良書でした。
