管理職おすすめの仕事に役立つ本100冊×2

課長経験者が身銭を切る価値のあるのおすすめ本だけを紹介するページ(社会人向け)

越境人材 個人の葛藤、組織の揺らぎを変革の力に変える 原田未来 著

1.はじめに

著者の原田未来さんは、ローンディールという会社を立ち上げ、社会人を別の会社に「レンタル移籍」する仕組みを実現した方です。

loandeal.jp

私も、社外ではありませんが、ほぼ未経験の事業領域への異動を直近で経験しており、「越境」についての理解を深めたいと思い、手に取りました。

以下では強く印象に残ったところを引用して紹介していきます。

2.内容

(1)今なぜ「越境」なのか

  • 越境のプロセスは、まず、個人が所属している組織(ホーム)から外に出る。そして、アウェイな環境に身を置き活動することで、未知なものと出会い、学びを得て、大きく成長する。さらにその学びを持ち帰って組織に影響を与える。この一連のプロセスが越境の全体像。
  • 未知なものとの出会いとは、これまでの自分の常識が通用しないということ。その経験によって自分の存在価値が揺らぎ、葛藤が生じる。そして、内省や行動を通じてその葛藤を乗り越え、学びを得ていく。この越境による「学び」には2つの側面がある。まず、未知の環境で行動することで、ホームにはない新しいものを学ぶ。それに加えて、内省を通じてこれまで見えていなかったホームに「あるもの」に気づくという学びがある。この学びの2面性が越境の特徴。
  • 外に出ることで、自分が今置かれている環境を相対的に評価できるようになる。「越境」という発想を持って、自分の様々な経験を意識的に意味づけ、融合させていくことで、ビジネスパーソンとしての存在を「独自のもの」「その人らしいもの」にしていくことができる。
  • 越境による成長のプロセスには次の2つの側面がある
  1. 内なる発見未知との遭遇」をきっかけに、自分がもともと持っていたものの価値や強みに気づくこと。「これまでの経験は無駄ではなかった」という実感を得ること。今の自分を認識することが、新たな変化に踏み出す原動力となっていく
  2. 知の拡張:これまでの自分にはなかった思考や行動を通じて、新たな知を得ていくこと。その経験が、変化を前向きな力に捉える力となっていく。

(2)越境で個人はどう成長するのか

  • 同じ組織に長く所属していると、自分のスキルの汎用性や価値に気づきにくくなる。なぜなら、周囲のメンバーも同じようなスキルを持っており、「それくらいできて当然」という共通認識があるから。つまり、自分のスキルやその価値を言語化できない環境になってしまう。
  • ミッションがないから、ビジョンが見えないから行動を起こせないのではなくて、行動していないからミッションとも出会えないし、ビジョンが描けない。この状態を打破するのが越境。越境という選択肢があれば、今いる場所を捨てて外に飛び出さなくても、リスクをコントロールしながら、可能な範囲で行動を増やすことができる。
  • 異なる価値観や行動様式に触れること、会社の看板を外して社会と向き合うことを通じて、自分や自社の果たすべき役割をリフレーミングし、複数の視点から捉えられるようになる。「何が正しいのか」ではなく、様々な立場と視点があることを認識し、理解できるようになる。
  • 実際に越境して正解がない環境に身を置くことで、自分が何を拠り所にして、どのように目の前の課題と向き合うのかという問いに直面する。その時には、あるはずもない正解を探すのではなく、「正解はない」ということを受け入れ、必死に自分の頭で考えて意思決定をするしかない。自分の頭で考える習慣が、意思決定力を高めていくことになる。

(3)組織にとって越境の価値とは

  • 越境には「ものさし」を変える効果がある。例えば、自分が認識したスキルをより高いレベルで持っている人に出会うこと。WILLの実現に向けて行動をしているのマインドに触れること。これらの経験が自分の「ものさし」をアップデートとしていく。
  • 組織の常識とは異なる発言が出た時の周囲の反応は、多様性の発揮に大きな影響を与える。越境を通じて「そもそも組織の当たり前は社会の当たり前ではない」という感覚を得ていれば、ニュートラルにその意見に向き合うことができる。さらに、越境によって自分の発言がマイノリティになる経験をしたことがある人ならば、異質な立場を理解することができる。だから、多様性の受容度を高める際に、その組織に越境経験者がいるかいないかで、大きく状況が変わってくる。
  • 越境で経験したことを、周囲に理解してくれといっても限界がある。それにもかかわらず、過剰に「ベンチャー企業ではこうだった」「MBAではこういう考えを学んだ」と語り、頭ごなしに自組織を批判するようなことは、無用な摩擦を引き起こす原因になる。

(4)越境による個人の成長を最大化する

  • 越境先には越境先の文化があり、歴史がある。だから、まず最初にするべきは越境先の組織を知ること。どういう仕事の進め方をするのか、どんなコミュニケーションが取られているのか、社員のみなさんはなぜこの会社で働いているのか…それらを受け入れることが大切。
  • 越境期間を通じて、たくさんの「未知との遭遇」があるはず。しかし、時間が経って慣れてくるとそれが当たり前になってしまい、最初の驚きを忘れてしまうもの。だから、越境して気づいたことを、例えば日記のように書き留めておく。事実だけでなく、その時にどう感じたのか、それはなぜなのかも含め言語化することを習慣化しておくとよい。
  • 越境中にどれだけ成長できるか。そのカギは、「経験からどう学び取るか」という点にある。経験はそれだけでは学びにならない。経験をどう受け止め、どう振返り、どう言語化するか。そのプロセスを表したのが「経験学習サイクル(コルブ)」。挑戦→経験→内省→教訓のサイクルを回しながら、個人の経験や知識やスキルの獲得につなげていくための学習プロセス。

(5)越境によって組織風土を醸成する

  • 越境後に組織風土に影響を与えてほしいという観点では共通して見るべきポイントがある
  1. 成長の源泉となる「素直さ」:好奇心を持って越境先から新しいことを学ぼうとする意欲があるか、弱みも含めて自己開示をできるか、周囲からのフィードバックを受け止める姿勢があるか、などが成長の鍵になる。「あなた自身が感じている自分の課題はなんですか?」「これまでの経験の中で、大きな壁はなんでしたか? それをどうやって乗り越えましたか?」「越境を通じて、何を得たいですか?」といった質問をしながら本人の素直さを見立てていく。
  2. 組織に対する「還元意欲」:「なぜ越境しようと思ったのですか?」「あなたは自分の会社のどんなところが好きですか?」「なぜあなたはうちの会社にいるのですか?」という会話の中から、組織に対する想いが垣間見えてくる。
  3. これまで積み重ねてきた「信用貯金」:「これまでやってきた仕事の中での成功体験って、どんなものがありますか?」「今回越境をするにあたって、上司や同僚に相談しましたか?」「上司はなんと言っていますか?」という問いかけから、上司や周囲への影響を意識しているかどうかが見えてくる。
  4. 基礎的なビジネススキル:コミュニケーション力や思考力など、ビジネスパーソンとして必要最低限のスキルが備わっていなければ、越境先にとって負担になりかねない。

(6)越境によって生まれる「しなやかな社会」

  • やりたいことがあるから越境するのではなく、やりたいことを出会うために越境する。越境人材だからこそリソースを配分するという発想を持ち、自分の「旗を立てる」ことができる。1社に依存していないからこそ、否定的な評価を恐れることなく行動できるという側面もある。
  • 越境を経験した人は、異質な環境に身を置いた経験があるので、組織や肩書を超えて心理的な共感を生みやすい。そして、自分とは異なる立場の人に対しても想像力を働かせ、想いを馳せることができる。だからこそ、今ある枠組みを当てはめるのではなく、お互いの立場や価値観を理解し、一緒に意味をつくっていこうと考えるようになる。
  • 越境は若手だけのものではない。「人生100年時代」と言われ、健康寿命が伸びていくし、ミドル・シニア層は人口の多い世代でもある。そんな世代が越境し、豊富な経験というリソースを配分していくことで、新たな価値を生み出すキーパーソンになり得るのではないかと思う。

3.教訓

私自身、未経験の現部署への異動通知をもらい、とても葛藤しました。

それは以下のようなものですが、挙げていけばキリがありません。

  1. 今までの経験や知識を活かせる場面が少ないこと
  2. 仕事の進め方や価値観がこれまでの業務と全く異なること
  3. そもそも希望をしておらず、伝えていたキャリアプランから外れていること
  4. 管理職から、いち担当者へと役職や立場が変わったこと

一方で、これまでとは異なる価値観・仕事の進め方や関係する相手方に触れることで、自分自身について振り返る機会を得られたことも確かです。また、管理職でなくなり、人の話を聴く立場から聴いてもらう立場に変わったことで、コミュニケーションの取り方についても、思うところがあるのも事実です。

異動してしばらくして、思い悩んで社内のカウンセリング室に相談にいった際、担当いただいた方から、こんなことを言われました。

「将来、他者支援の立場で仕事をすることになった際に、順風満帆でない経験をしているほうが、実感を持ちながら相手に接することができる。」

この言葉は本書と共通の教訓を含んでいます。経験をしたからこそ、社会には違う「ものさし」があると知れたことは、ありがたく受け取りたいと思います。それを自身としてどう理解し、今後の行動につなげていくのか、考える機会につながる良書でした。