1.はじめに
キャリアコンサルタントの勉強をしていて、自身が一番関心を持ったのは、ダグラス・ホール教授による「プロティアン・キャリア」という考え方です。
それは、予言と変身の能力を持つギリシャ神話のプロテウスにちなんで、変幻自在なキャリアとして、従来の伝統的キャリアとは一線を画す理論です。
例えば、以下のような考え方を取ります。
- 階層を上がっていくことだけがキャリアではない
- 成功や失敗があるとしても、キャリアを歩む本人が評価する
- キャリアは結果でなく、仕事に関連した経験の連続のプロセスである
すなわち、昇進や地位・給与といった外面的なものではなく、自身の興味や価値観・満足などをベースとした「心理的成功」を目指すものです。
その内容を法政大学の田中研之輔教授が現代版に捉えなおしたもので、以下では特に印象的だった部分について引用していきます。
2.内容
(1)なぜいま、プロティアンなのか-終身雇用は限界を迎えた
- プロティアン・キャリアという考え方で大きな学びを与えたのが次の3つの視点
- キャリアは組織に預けるものではなく、自分で育て、形成する
- キャリアは昇進などの結果ではなく、生涯を通じた全過程である
- キャリアは変化に応じて、自分で変えることができる
- キャリアは「結果」ではない。キャリアとは、個人が何らかの継続経験を通じて、能力を蓄積していく「過程」を意味する。そして、これまでの経験の「歴史」でありながら、これからの「未来」でもある。
- スーパーの14の命題の中でキャリア形成を考えるうえで、特に2つがカギ
- キャリア発達のプロセスは本質的には職業的自己概念を発達・実現するプロセス
- 人々が仕事から到達する満足の度合いは、自己概念を実行することができた程度に比例
- プロティアン・キャリア論の理論的革新性は、1つの組織にとらわれず、組織内のキャリアにも拘泥することなく、自分で主体的にキャリアを形成する、「自律的キャリア」の重要性に焦点を当てていることにある。
- 大切なのは、自分らしく働いてアイデンティティを確立することと同時に、それが市場や組織から求められていること。そのために重要になるのがアダプタビリティ。仕事にやりがいを感じて没頭できている人は、アイデンティティとアダプタビリティのバランスが取れたプロティアン・キャリアを形成している過程にある。
- キャリアにつまずいたときは、「こんなはずじゃなかった」と誰かを恨みたくもなる。けれど精神的に自立し、アイデンティティを確立できていれば、尊厳を持ったまま組織の中で働くことができる。そしてその姿勢が、プロティアン・キャリアをより実践させやすくなる。
(2)「キャリア資本」の構築-組織を活かし、変幻自在に生きる
- プロティアン・キャリアが目指す方向は、昇格や昇進といった組織内の成功ではない。提唱者であるダグラス・ホールは、プロティアン・キャリアで大切にするのは、「自らのやりがいや目的を達成したことで得る心理的な成功」だと述べている。
- キャリアとは働くことを意味するのではなく、生きることすべてを意味する。ダグラス・ホールもその点を重視して、キャリアとは生涯にわたる経験の積み重ね、個人が学び続ける場と捉えるべきだと述べている。
- カメレオンのように表面的に「姿」を変えるのがプロティアンなのではなく、変化しながら、経験を蓄積する内面的な変身こそ、プロティアン・キャリアの本質。
- 人生100年時代には、親などから受け継いだ資本よりも、自分の行動によって生み出される資本の総体が、あなたのキャリアを形成していくことになる。
- キャリア資本は、転職や離職をしても減らない
- キャリア資本は、同じ仕事を日々繰り返しているだけでは微増にとどまる
- キャリア資本は、働く環境や生活環境を変えることで増加する
(3)「ビジネス資本」の蓄積-仕事に没頭し、自己を磨き上げる
- ビジネス資本を形成するうえで最も大切なのは、目の前の仕事に没頭できているかということ。
- フロー状態で課題に向き合い、解決策を見つけ出すこと。これがビジネスプロダクティビティを養う。もしあなたが今、職場で不満を感じているなら、それは恐らくフロー状態に入れていないから。フロー状態に入れる仕事を生み出すことが、ビジネス資本を蓄積するには欠かせない。
- 新しい職場の働き方に自分自身を適応させること。これまでのキャリアにあぐらをかくことなく変幻自在に進化すること。これによってビジネスアダプタビリティは格段に養われるはず。
- プロティアン・キャリアを構築するための次の一歩は人生の計画を立てること。
- 3年後までに、どんな仕事を増やしていくのか
- 5年後までに、増やすべきビジネス資本は何か
- 10年後までに、どんな社会的資本を蓄積しておきたいか
(4)「社会関係資本」の形成-本当の豊かさを育てる
- 不満とはアイデンティティかアダプタビリティが足りないときに生じるもの。自分らしくない環境で働いているとか、環境にフィットできていないと感じたときに、人は不満を感じる。「心に沿った道」を進むには、まずは不満と言う自分の心の声に正直になる必要がある。
- 長く同じ会社に勤めていると、いつの間にか、誰もがあなたの仕事ぶりを知っているというような錯覚に陥る。あなたのことを知らない人との、ゼロからのコミュニケーションが気づきを与え、同時に社会関係資本の蓄積にもつながる。
(5)「経済資本」に転換する-稼ぎ方を戦略的にデザインする
- あなたのキャリアを、1つの組織に預けることはもうやめましょう。自分で主体的にキャリアを形成するからこそ、組織や社会の変化に対応でき、結果的には人生100年時代を生き抜ける稼ぐ力が身につく。それがいま求められているプロティアン・キャリア。
- キャリアの”オーナー”を組織から個人に移すということは、私たち一人ひとりが人生の経営者となって戦略を練り、実践していくこと。言い換えれば、それはこれまで私たちがビジネスの現場で実施してきたプロジェクトマネジメントを、あなた本人のキャリア、そして人生で実践するということ。
- キャリアは1本の真っ直ぐな線ではなく、らせん状にぐるぐると回りながら上へと登っていく線を描くはず。ここで私たちが意識しなくてはならないのは、変幻自在に「変わる」ことそのものではなく、変わりながらどのようなキャリア資本を形成していくのか、ということ。
3.教訓
同期のトップ集団を走り、社内で順調に部長や役員を目指して昇格を続けている人にとっては、おそらく興味も関心もない考え方だと思います。プロティアンは1つの理論であって、従来の伝統的キャリアの世界で生きていくという方がいてもいいと思います。
それでも、入社して3年くらい経ったとき、マネージャーになる前後、50歳前後で少し先が見えてきたときなど、自分の”キャリア”に悩むタイミングは誰にでも訪れます。そんなとき、プロティアン・キャリアの考え方を知っていると、世間一般で言われている「成功」だけが目指すべき唯一解でなく、自分が選んだ道を正解にすればいい、という考え方ができます。
これからも寿命が延び、定年も70歳までになる世界が遠からずやってきます。そのときに、今の仕事や会社だけが人生ではないという考え方を持っておくことは、今から重要です。
