管理職おすすめの仕事に役立つ本100冊×2

課長経験者が身銭を切る価値のあるのおすすめ本だけを紹介するページ(社会人向け)

ネガティブフィードバック 「言いにくいこと」を相手にきちんと伝える技術 難波猛 著

1.はじめに

ネガティブフィードバックの本書の定義は、以下の通りです。

「部下は聞きたくない、上司は言いたくない」葛藤状態を解決し、「上司が部下に厳しいことを伝える」「部下も上司と納得できるまで話し合う」双方向のコミュニケーション

しかしながら、単に上司-部下の関係にとどまらず、何らかの関係改善が必要と考えてコミュニケーションを図る相手同士であれば、本書の内容はどのような関係であっても当てはまるものと考えています。それが副題の、”「言いにくいこと」を相手にきちんと伝える技術”そのものだと思います。

例えば親子関係、パートナーとの関係、カウンセラーと相談者、発注元と発注先など、「上司」と「部下」の部分を違う人格に置き換えても汎用的に通じる内容であり、1対1で話をする相手が1人でもいるのであれば、管理職に限らず有用な良書だと思います。

以下では特に印象的な部分だけを引用していきますが、全体感を把握するためにはお手にとって何度か読んでみることをおすすめいたします。

2.内容

(0)はじめに

  • 「厳しいアドバイスをしない」ことは、真のやさしさではない人は、自身の能力不足や欠点など、ネガティブな話も含め周囲から様々な指摘を受けて、自分の行動を修正しながら成長していく。何も指摘がないと、自分の欠点に気づけない”裸の王様”、または耳が痛いことを言われない環境に過剰適応した”ゆでガエル”のままになってしまう。
  • ともすれば上司は、「問題がある相手を変える」意識になりがち。しかし、そういう気持ちは部下の側にも伝わる。「人は変わりたくないのではない。変えられたくないのだ(by,ピーター・M・センゲ)」。「問題がある相手を変える」のではなく、「問題を一緒に解決する」姿勢で臨む。
  • 部下という「人」を変えようとするのではなく、発生している「問題やギャップ」を解決するための行動を、双方向の対話で考えていくことが重要。そのためには、部下に「発生している問題やギャップは何か」に向き合ってもらい、「自分が何をやるべきか、自分の意志で決めてもらう」こと。

(1)部下は「叱る」だけでも「ほめる」だけでも成長しない

  • 「叱る」が一方的な指示なのに対し、ネガティブFBは上司と部下の双方向の合意を目指すコミュニケーションを前提としている。部下も自分で意見を考えて発信するからこそ、内省が生まれ、部下の意識や行動の変化につながる
  • 能力が不足しているからできないというわけではなく、能力はあるのにやろうとしない(やる必要性を認識していない)だけ。その大きな原因となっているのは、認識のズレ。この状態を放置すると、能力が低い人ほど自分の能力や状態を客観的に認知・修正する能力も低いため、自分を過大評価してギャップが修正できず広がり続けるという悪循環に陥る。
  • FBだが見ている先は過去ではなく未来であり、「フィードフォワード」の姿勢が重要。将来の良い状態に向けてギャップを埋めていくことが目的。ギャップがあるのは事実だから、そこから目をそらさないという意味でネガティブなことも言うが、あくまで未来を切り開くための現状把握と共通認識。
  • 上司としては勇気を出してメッセージを伝えた結果、部下の反発や不機嫌な様子を見ると不安になると思いますが、逆にそうした反応を示してくれたほうが、「上司のメッセージが相手に伝わった」と思うようにする。
  • 人は、怒りや不満などネガティブな感情を吐き出せないと残り続けて解消できない。しっかり上司が部下の本音に耳を傾けることで気持ちが浄化されていく(カタルシス効果)。そこから返報性の原理が働き、ようやく「ではこれから自分はどうすればよいのか」と「予期せぬ変化」や「望まない変化」を受け入れる心理になる。
  • 薄々気づきながらも、上司に「それはダメですよ」と言われないことで「何も言ってこないから、これでいい」と解釈して、同じことを繰り返す人もいる。上司の沈黙は肯定と同義。いずれにしても、ギャップが生じている場合はFBをしてあげないと、部下の気づきの機会、そして成長の機会を奪うことになる。

(2)ネガティブフィードバックが難しいのはなぜ?

  • 少なくとも1回目の面談はきれいに終わらせる必要はない。逆に、相手がざわざわした状態で面談を終えて、家に帰って思い出して「あの上司の言うことは腹が立つな。でも言っていることは正しいような気もするな」とモヤモヤしてもらうほうが「認知的不協和」が生じて行動を変えるきっかけになる。
  • ネガティブFBができない上司は、厳しいことを伝えることによる長期的な利益より、伝えることによる短期的な不快さを避けてやらない選択をしている可能性がある。「どうして自分はやらない選択をしているのか」を掘り下げていくと、「できない」という思考停止状態から脱却して、「やるか」「やらないか」にフォーカスできるようになる。
  • 「やるのか」「やらないのか」を真剣に長期的に検討すると、今の状態を放置しておくのは、部下にとっても、自分にとっても、周りの社員にとってもいいことはひとつもないため、「やる」という結論に至ることがほとんど。

(3)ギャップを整理するフレームワーク WILL,MUST,CAN

  • 「この部下を変えたい」など「人」に焦点を当てると感情的に泥沼化する。「認識のギャップを埋めよう」「行動面がズレている問題を解決しよう」など、「発生しているギャップやズレ」に焦点を当てて一緒に解決していく姿勢のほうが対立的でなく協調的に対話が可能になる。
  • 日常業務を遂行するうえでは、「何をしてほしいのか」「それができたのか」というMUSTとCANの確認だけで事足りるため、時間がない上司は悪意無く部下のWILLを把握せずにマネジメントをしているケースがある。しかしWILLの確認は、行動変容を促すうえでは重要なこと。
  • WILLを把握しないまま、部下に「この役割をやってもらわないと困る(MUST)」、「このスキルを身につけてくれないと評価を上げられない(CAN)」などと言ったとしても、部下の心に響くことはないと考えておく。
  • WILLの引き出しに失敗するケースは、「あなたはいったい何をやりたいの?」「仕事のやるがいは何ですか?」「人生どうなりたい?」など、部下のWILLを一方的に、強制的に引き出そうとするコミュニケーション。部下のWILLは、上司が部下へ人として純粋な関心を持ち、自分も本音を開示しながら本音を引き出してこそ意味がある。
  • 「私の仕事のスタイルはこれだ」「私はこの仕事が役割だ」と自分で限定すると、会社の新しい仕事の進め方に対応できなくなる人もいる。頑なに自分のやり方にこだわれば、周りからは「あの人は会社の流れとズレているよね」と思われるようになり、やがて成果も出なくなる
  • 上司とコミュニケーションを繰り返すなかで、部下が「会社が自分に求めていること、自分がなりたい姿、やりたいこと、自分ができること、どこをどのように埋めていき、自分にどういう能力があればこれらを重ね合わせていけるのか」を自ら考えられるようになったときにはじめて、上司からのFBが「叱責」ではなく「助言」と受け入れられ、自発的に自分の能力を磨き始めるようになる。
  • 最初にやってもらうのは内省。「自分が置かれているのはどういう状況なのか」「その状況に自分は何を感じているのか」を考えてもらう。次に、「これからどうしたいのか」「どんな自分でありたいのか」について考えてもらう。WILLを把握できたところで、上司から会社が求めていること(MUST)を文書化して伝え、自分のWILLを実現するために不足していること(CAN)を洗い出してもらう。
  • WILLとMUSTが重なり、CANの課題が見えてきたら、次は行動計画。最大のポイントは、行動計画を立てるのは部下本人で、上司は支援とアドバイスに徹するということ。
  • 部下に対して何の敬意も関心も持てないなら管理職には向いていない。部下に気づきや成長を与えられる上司になるには、部下に対する敬意と関心を持つことが何よりも大切なことを忘れない。

(4)「何を言うか」より「誰が言うか」が重要(日常のマネジメント)

  • FBの効果を高めるには、面談をする当日だけではなく、それ以前の日常的なマネジメントが重要。普段の部下とのコミュニケーションを通して信頼関係を築けていなければ、面談での上司の言葉は賞賛でも注意でも部下の心に刺さらない。その言葉を部下が過度に否定的なニュアンスで受け止めれば、上司との関係性が悪化するだけで、何も行動が変わらないという最悪なケースになる。
  • 日頃のコミュニケーションが不足している状態で、面談当日に予期せぬ問題点を指摘されても、部下は素直に聞けない。ネガティブFBにおいては、「何を言うか」「どう言うか」というテクニックも必要だが、日常の信頼関係有無による「誰が言うか」が成否を分ける
  • 人は自分の言動を否定され続けると、「学習性無力感」が生まれる。「指示待ち部下が多くて困る」という会社には、指示待ちの部下を量産する「細かい指示とダメ出しを続ける」上司や経営者がいる。細かい指示を出せば出すほど、会社が望まない指示待ち人間が増える悪循環が生まれる。
  • 部下の行動をよく見ていれば、「ひとつもほめることがない」という言葉は出てこない。見つけようとしていないだけ。見つけられないのは、上司自身の観察眼が不足している。
  • 1on1のスケジュールは上司でなく部下に設定・調整してもらう。「上司に決められた」ではなく「自分で決めた」感覚を持つことが面談の「やらされ感」を軽減する。目的は部下との信頼関係の構築、そのために接触機会を増やす
  • 期末評価でサプライズを起こさないことは重要。「それならもっと早めに言ってほしかった」「自分の行動は今までそんな風に見られていたのか」と感じさせてしまうと、部下は自分の行動への内省ではなく、上司への不信が先に頭に浮かぶことになる。
  • アドラー心理学の「課題の分離」とは、「自分の課題」と「相手の課題」を分けること。自分が何を言うかということと、相手がそれを聞いて何を感じるかは別問題。まずは上司として「可能な限り事前に関係構築に努める」「その上で伝えるべきことをしっかり伝える」という「自分の課題」に集中して第一歩を踏み出せる。

(5)ネガティブフィードバックを成功させる心の整え方(5つのマインドセット

①嫌われることを覚悟する
  • 面談で厳しいことを伝えれば、部下には大なり小なり反発されるのが自然。ネガティブFBは「いかに嫌われないか」ではなく、「嫌われる可能性を織込済み」で行うコミュニケーション。部下自信が気づいていないことがあれば真剣に向き合って伝える。それが部下の成長に最も効果的で、一時的に反発されても部下との信頼関係を構築する最短ルート。
  • 上司の役割は、「部下に好かれること」ではない。部下を成長させることで組織の成果を最大化すること。嫌われないが部下を成長させられず組織の成果を達成できないのでは、厳しい言い方をすれば、上司としての役割放棄
②期待するが期待しない
  • ネガティブFBは「お前はダメだ」「ここが足りない」と決めつけたいわけではなく、「ギャップや問題点は存在するが、あなただったら解決できるはず」「あなたは必ず成長できる」などという性善説に立っている。
  • 部下の可能性(改善・気づき・変化・成長)には期待するが、100%上司の思い通りの行動は期待しない。
③感情をこめるが感情的にならない
  • こめるべき感情は「相手軸の感情」、避けるべきは「自分軸の感情」「感情的な対応」「無感情な対応。
  • その感情のベクトルはどこに向いているかを一度冷静に確認してみる。ネガティブな感情の場合、ベクトルが部下ではなく自分に向いている場合がほとんど。隠したとしても「上司の自分の都合」や「自己保身」と相手に伝わってしまう
④真剣に業務に取り組む
  • ネガティブFBでは、普段の業務姿勢を通じて「この人に言われたら仕方がない」と相手に思わせることも重要。部下に「お前が言うな」と思わせてしまう原因は、上司の普段に姿にある。
⑤自分で決める
  • ネガティブFBは「言えば嫌われるのはわかっているけれど、本人のために言っておいてあげたい」「本人のキャリアを考えると、この行動はどうしても変えてほしい」「組織全体のマネジメント上、この状態は黙認できない」など、誰から言われたわけでもなく、上司自身のしっかりとした意志と覚悟で伝えると決めたときに行う。言い訳を考えてしまうような優柔不断さで臨むのは現金。

(6)ネガティブフィードバックを成功させる技術(5つのスキルセット)

①「ギャップが存在している」ことに合意を得る
  • 合意を取らずに騙し討ちで厳しいFBをすると、相手は身構えていない状態でその話を聞くことになる。文字通り「耳が痛いこと」を「寝耳に水」で聞かされる状態。そのため感情的になる可能性が高く、その後にどんなに理論的にFBしても、まったく刺さらなくなる。
②「認知的不協和」を創らないと人は変わらない
  • 部下を気遣って不協和を与えないコミュニケーションを考えるのではなく、意図的に健全な不協和を創ることがネガティブFBのポイント。「相手と認識がズレている点」をしっかり伝えきることで、相手の認識に「このままではマズい」という健全な危機意識を醸成する必要がある。
③「きれいに終わる面談」には要注意
  • 1回目のネガティブFBではむしろハッピーで終わらせず、少しモヤモヤがの来るほうが、部下の行動が改善される可能性が高いと思っていい。自問自答する時間が面談終了後に続く
④話すより聴く
  • やるべきことは、誠実な傾聴により部下のモヤモヤを言語化してもらうこと。上司は、相手が話し始めるまでひたすら黙って待つ。伝えるべきことは話し合っているはずなので、それ以上は話したい欲求を押さえて何分でも黙る。
  • 一般的に2~3分上司側が沈黙していたら、部下は「ここは自分が話さないと終わらない」と認識して必ず相手が話し始める展開が訪れる。部下が話し始めたら、「どんなにズレた発言や身勝手に思える言い分でも、遮らずに最後まで徹底して聴く」ことが何よりも重要。上司が沈黙に耐え切れず次の話題にいかないことが重要
⑤諦める(明らかに見極める)
  • 一定期間本気で向き合って改善しなかったら、お互いのために諦める。ネガティブに突き放すのではなく「諦める」の語源でもある「明らかに見極める」。

(7)パワハラにならない伝え方のポイント

  • 性格面の問題を部下に突きつけると、①パワハラになりやすい、②部下の行動が変わらない、という2つのリスクがある。性格にフォーカスされても、部下としては具体的な解決策を考える手立てがない。しかし、行動と事実に基づいて指摘すると、何を期待されているのかが具体的に見えてくる
  • 厳しい言い方をすれば、部下の感情だけを配慮して部下の成長に必要なメッセージを伝えられない上司は、管理職としての職務を半分放棄しているともいえる。「嫌われるのが怖い」というのは「自分の都合」「自分軸の感情」であり、部下側を見ていないと同義になり、それは真の優しさではない。
  • ネガティブFBは、まず部下の話を聞くことから始まる。部下が話やすい環境をつくるには、上司が怒りをあらわにしたり、イライラした態度を見せたりしないこと。不機嫌な相手に本音を語る人はいない
  • 「WILLがそもそもない」という上司がいるが、そうではなく「WILLを言うと損をしそう」「本音を言っても無駄」と思わせている上司自身のコミュニケーションや組織風土に問題がある場合もある。

(8)部下から上司へFBする(ボスマネジメント、受ける側のポイント)

  • 想像していなかった指摘を受けたときは一瞬イラっとしても、「自分が完ぺきではない」「必ず相手の正しさではない」「実は相手の意見が正しいかもしれない」と考え、冷静に対話して深掘りしてみる。意外な自分の姿が見えてくる。
  • 言われたことを100%鵜呑みにするのが良いFBではなく、自分の価値観と照らして「合意しないことに合意する」ことも時には必要。ただし、「合意しない」選択をする場合、その旨は上司に伝えて違うゴールで合意できるまで対話する。「面従腹背」は双方のミスリードにつながり後々問題になり、自身の評価を著しく低下させる。
  • 不満があるなら、陰口でなく本人に表口で直接言う。「納得できない点がある」ことを相互認識することが問題解決のスタートライン
  • 中には「言えないので察してほしい」と思っている人もいるようだが、上司が超能力者でもない限り、直接伝えなければ上司の言動や行動が変わることはない。部下の沈黙は上司の行動を容認していることと同義。「自分も問題を構成する一部」と認識し、「自分の行動で問題を解決する」姿勢は必要。
  • 改善してほしいことを伝えても、上司や組織には使えるリソースに限りがあり、改善されるとも限らない。ただ「伝える」という自分の課題をクリアしない限り、改善されないことが確定する
  • FBできない理由ではなく、FBをしない目的を掘り下げてみる。そして、FBをしないとどんなことが起こるのかを考えてみる。Win-Winでない状態は、少なくともサスティナブルではないはず。

3.教訓

たしかにこれまで、チーム運営上、改善してほしい部分があっても、「言っても変わらないだろうな」「1言うと10返ってきて面倒なことになりそうだな」「伝えるとしても年1回の業績評定時でいいかな」と思って、必要なときに必要なことを言わずにやり過ごしてきたことがあります。その意味で、本書の内容は耳の痛いことばかりでした。

特に、赤字の部分だけを改めて抜粋すると、本当に自分に向けて書かれていると感じます。

  • 「厳しいアドバイスをしない」ことは、真のやさしさではない
  • 部下に対して何の敬意も関心も持てないなら管理職には向いていない
  • 嫌われないが部下を成長させられず組織の成果を達成できないのでは、厳しい言い方をすれば、上司としての役割放棄
  • 部下の感情だけを配慮して部下の成長に必要なメッセージを伝えられない上司は、管理職としての職務を半分放棄している
  • 「伝える」という自分の課題をクリアしない限り、改善されないことが確定する

そのため、日常的に、自分からも相手からも言いたいことを言える状態を整えておくことが重要と考えています。自身でもメンバー1人1人と、最低月1回以上の1on1を設定して、自分から一方的に考えを押し付ける場でも、業務進捗状況を詰める場でもなく、その時に話したい内容、業務上で困っていることの相談などについて話をしています。

1on1の場で気をつけていることは、必ず第一声は自分からでなくメンバーからかけてもらうことです。自分から「今日は何から話す?」と聞くことはありますが、「あの話なんだけど」と自分から話題を限定することは避けるように意識をしています。

しかしながら、一定数は関係性に変化が見られないことも起こります。その場合は諦める選択肢もある、ということは頭の片隅に入れておきたいと思います。