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WORK SHIFT ワーク・シフト リンダ・グラットン著

1.はじめに

原題はシンプルに、”The Shift"です。

2011年に発刊され、2025年に人間はどんな風に働いているかを予測し、漫然と迎える未来でなく、主体的に築く未来に向けどうすれば好ましい道に進めるのかが記載されています。

既に10年が経過し2025年に近づいてきていますが、①直接対面して接する機会が減り、自宅でオンライン会議がつながる、②データやアプリをサービスの形で利用するクラウドが急速に発展する、③ごく一握りの成功者が莫大な富を独占する「勝者総取り」の社会が出現する、④石油・石炭への依存から脱却するための対策を講じるなど、2021年時点で驚くほどこの本に書かれていることが現実になっています。

そのうち、まだ発展していない、立体映像電話や遠隔手術も2025年には大きく広がっているかもしれません。

2.内容

(1)未来を形づくる5つの要因

  1. テクノロジーの進化:①テクノロジーが飛躍的に発展する、②世界の50億人がインターネットで結ばれる、③地球上のいたるところで「クラウド」が利用できるようになる、④生産性が向上し続ける、⑤ソーシャルな参加が活発になる、⑥知識のデジタル化が進む、⑦メガ企業とミニ起業家が台頭する、⑧バーチャルな空間で働き、「アバター」を利用することが当たり前になる、⑨人工知能アシスタントが普及する、⑩テクノロジーが人間の労働者に取って代わる
  2. グローバル化の進展:①24時間・週7日休まないグローバルな世界が出現した、②新興国が台頭した、③中国とインドの経済が目覚ましく成長した、④倹約型イノベーションの道が開けた、⑤新たな人材輩出大国が当時しつつある、⑥世界中で都市化が進行する、⑦バブルの形成と崩壊が繰り返される、⑧世界の様々な地域に貧困層が出現する
  3. 人口構成の変化と長寿化:①Y世代(1980~1995年生まれ)の影響力が拡大する、②寿命が長くなる、③ベビーブーム世代の一部が貧しい老後を迎える、④国境を越えた移住が活発になる
  4. 社会の変化:①家族の在り方が変わる、②自分を見つめ直す人が増える、③女性の力が強くなる、④バランス重視の生き方を選ぶ男性が増える、⑤大企業や政府に対する不信感が高まる、⑥幸福感が弱まる、⑦余暇時間が増える
  5. エネルギー・環境問題の深刻化:①エネルギー価格が上昇する、②環境上の惨事が原因で住居を追われる人が現れる、③持続可能性を重んじる文化が形成され始める

(2)「漫然と迎える未来」の暗い現実、「主体的に築く未来」の明るい日々

  • 変化に押しつぶされないために私たちは3つの「シフト」を行う必要がある。
  1. 広く浅い知識しか持たないゼネラリストから、高度な専門技術を備えたスペシャリストへのシフト
  2. 孤独に競い合う生き方から、他の人と関わり協力し合う生き方へのシフト
  3. 大量消費を志向するライフスタイルから、意義と経験を重んじるバランスの取れたライフスタイルへのシフト
  • シフト①:専門分野こそ違っても、専門技能を習得した人々に共通する性質は、技能を磨くために長期間集注して打ち込むことが苦にならないこと。あまりに仕事が忙しくなると、仕事の作業の手を休めて、自分より高度な技能の持ち主の振る舞いを観る時間も無くなる。自分の技能を高めるのは、達人たちの仕事ぶりを観察し、自分との細かな違いを知ることが不可欠。ゆでガエルにならないために、専門技能を身に付けるという「シフト」を選択する必要がある。
  • シフト②:目指すべきは、自分を中心に据えつつも、他の人たちの強い関わりを保った働き方を見出すこと。私たちがあまりに多忙な日々を送らざるをえないのは、多くの場合、あらゆることを自分でやろうとしすぎるのが原因。強力な人的ネットワークを築ければ、自分の方にのしかかる負担をいくらか軽くできる
  • シフト③:消費をひたすら追求する人生を脱却し、情熱的に何かを生み出す人生に転換すること。ここで問われるのは、どういう職業生活を選ぶのか、そして思い切った選択を行い、選択の結果を受け入れ、自由な意思に基づいて行動する覚悟ができているのかという点。
  • 友人がいつも遅刻し、共同課題でほぼ確実に失敗するとわかっていれば、あなたはその友人を信頼しないだろう。コミュニティや社会で信頼が担う役割は極めて大きい。信頼は、仕事上の人間関係の潤滑油。私たちは誰を何を信頼するかという決断を日々下している。他の人や組織を信頼できれば、私たちは不確実な状態を抜け出せる。人と人が強力し合うためには信頼が欠かせない。
  • 2025年の世界では、どこで生まれたかでなく、才能とやる気と人脈が経済的運命の決定要因になる。聡明で意欲があれば、グローバルな人材市場に加わり、豊かな生活を送れる可能性がある反面、アメリカや西欧に生まれても、聡明な頭脳と強い意欲の欠けている人は、下層階級の一員になる
  • 人々の健康と幸福感を大きく左右するのは、所得の絶対値でなく、他の人との所得の格差。何を買い何を身に付けたり使ったりするかによって、その人の社会階層が判断される面が大きい。物質主義的傾向が強い世界では、所有物がその人の成功の度合いを判断する物差しになる。
  • 2025年に企業で指導的立場に就く世代の調査で、最も好ましいニュアンスで用いられた言葉は「フィードバック」だった。上司や同僚や仕事上の知人が自分のことをどう思っているかをもっと知りたいと熱望していた。社会に向けて自分のイメージを構築することが常に求められる時代には、自分のイメージに関してフィードバックを得ることが極めて重要。
  • イノベーションは、特定のグループなり企業なり政府なりが単独で行うものではなく、コラボレーション的・ソーシャル的性格が極めて強くなり、多くの人の努力が重なって実現するものになる。異なる専門技能や世界観、意見を持つ人たちがアイデアを共有し、それを発展させていくケースが増える。
  • 一言でいえば、ダイバーシティモノカルチャーを凌駕する。多様な視点を持つ人々のグループと、同じ視点を持った人ばかりが集まったグループが競い合えば、たちまち前者のグループが後者に大きな差をつける。人々が互いに結びつき、協力し合い、アイデアや知識を共有するようになる変化は、働き方の未来に大きな影響を及ぼす。

(3)働き方を「シフト」する

仕事の世界で必要な資本は三種類ある。

  1. 「知的資本」:未来の世界では、キャリアで成功を収めるうえで知的資本の役割がますます大きくなる。ただし、特定の一つの分野だけで専門知識と技能を育むことには危険が伴う。職業人生が長くなれば、まず、ある分野の知識と技能を深めていき、やがて関連分野への移動や脱皮を遂げたり、全く別の分野に飛び移ったりする必要が出てくる。つまり、いくつかの技能を連続的に習得していかなければならない。⇒第一のシフト
  2. 「人間関係資本」:孤独が深まる未来の世界では、活力を与えてくれる人間関係が不可欠。私たちは、孤独に競争するのではなく、他の人たちとつながりあってイノベーションを成し遂げることを目指す姿勢に転換する必要がある。⇒第二のシフト
  3. 「情緒的資本」:自分自身について理解し、自分の行う選択について深く考える能力、加えて勇気ある行動を取るために欠かせない強靭な精神を育む能力が必要となる。大量消費より上質な経験をすることが望まれる時代には、情熱を持って何かを生み出す生活に転換する必要がある。⇒第三のシフト
①第一のシフト

以下の二つの資質が重要。

  1. 専門技能の連続的習得:未来の世界でニーズが高まりそうなジャンルと職種を選び、浅い知識や技能ではなく、高度な専門知識と技能を身に付ける。その後も必要に応じて、他の分野の専門知識と技能の習得を続ける。
  2. セルフマーケティング:自分の能力を取引相手に納得させる材料を確立する。グローバルな人材市場の一員となり、そこから脱落しないために、そういう努力が欠かせない。
  • ゼネラリストがキャリアの途中で労働市場に放り出されるケースが増えている。そうなると、一社限定の知識や人脈と広く浅い技能を持っていても、大した役に立たない。
  • 今必要とされているのは、昔の職人のように自分の専門分野の技能と知識を深める一方で、他の人たちの高度な専門技能と知識を活かすために人的ネットワークを築き上げること。仕事は複雑化しており、いくら専門技能や知識があっても、一人では仕事を仕上げられない。私たちには、産業革命前の職人のような専門性と、産業革命以降の分業体制の両方が求められる。
  • 他の専門技能より高い価値を持つ技能は、①その技能が価値を生み出すことが広く理解されていること、②その技能の持ち主が少なく、技能に対する需要が供給を上回っていること、③その技能が他の人に模倣されにくく、機械によっても代用されにくいこと。
  • 未来の世界では、知識と創造性とイノベーションを土台に置く仕事に就く人が多くなる。そういう職種で成功できるかどうかは、仕事が好きかどうかによって決まってくる面が大きい。仕事を単調で退屈だと感じている人は、日々の世界はさしあたり無難にこなせるかもしれないが、大好きなことに取り組むときのようなエネルギーはつぎ込めないはず。
  • 中世の職人のように、私たちも学ぶべき点のある人たちのそばに身を置く必要性が高まる。どこで生活し、どういうコミュニティの一員になるかが、これまで以上に大きな意味を持つようになる。
  • キャリアの脱皮をはかるコツは以下の3点。
  1. 新しいチャンスが現れたとき、未知の世界にいきなり飛び込むのではなく、新しい世界を理解するために実験をする。
  2. 自分と違うタイプの大勢の人たちと接点を持ち、多様性のある人的ネットワークを築く。潤沢な情報や視点が手に入るだけでなく、他の専門分野で活動している人の生き方を見ることにより、自分がその分野に脱皮できるかどうかを判断するヒントを得られる。
  3. はじめのうちは本業をやめず、副業という形で新しい分野に乗り出す。既存の仕事をフルタイムで続けて収入を確保しつつ、新しい分野の経験を積み、専門技能や知識を磨き、信用を築き、同時に新分野での自分の適性を試す。
  • 大勢の中で自分の存在を際立たせる、セルフマーケティングが重要になる。自分の仕事に自分の刻印を押すなり、署名をするなりすること。あなたの手掛けた仕事が誰の目にもあなたの仕事だとわかるように、明確な特徴を持たせる。
②第二のシフト
  • 同じ志を持つ仲間(ポッセ)は、以前一緒に活動したことがあり、あなたのことが好きで、あなたの力になりたいと思ってくれる人であることが重要。充実したポッセを築きたければ、他の人と協力する技能に磨きをかけなくてはならない。他人の上手にものを教え、多様性の強みを最大限生かし、うまくコミュニケーションを取る技能が不可欠。
  • ポッセの基盤をなすのは信頼関係。親友だからとか大好きな人だからという理由でメンバーを選ぶわけではなく、課題を処理する能力があると信頼できる人物。ポッセのメンバーとして認められるためには、他のメンバーと同等の能力を持っていると信頼される必要がある。お互いのために時間を割くつもりがあるメンバーである。
  • ポッセを築くことは、単なる人脈作りとはまるで違う。ポッセの土台をなすのは、アイデアと知識を深く共有すること。そういう関係は、相手の言葉に耳を傾け、相手から学ぶ姿勢、そして、自分と考え方が近く、力になってくれそうな人を引き付ける能力があってはじめて確立できる。
  • ポッセのメンバーを引き付けるには、まず自分が積極的に発信しなくれはならない。その際、自分が何を成し遂げたかだけでなく、どういう難題にぶつかっているかを語ることが重要。あなたが何に関心があり、どういう課題を抱えているかを語ってはじめて、他の人たちはどうすればあなたと共同行動を取れるかがわかる。
  • 人との付き合いの面ではカメレオン人間になること。自分と極めて異なるタイプの人たちのグループに加わるときには、そのグループの流儀に合わせて自分のスタイルをある程度変更するつもりでいるべき。また、プッシュばかりでなくプルを心掛ける。多様な人たちに自分に興味を持ってもらい、向こうからアプローチしてもらう必要がある。
  • 自分と違うタイプの人たちが集まるグループに人的ネットワークを広げたいのであれば、そのグループを丁寧に観察し、グループの暗黙のルールを見出し、その一部を真似するべき。そうやってグループに適応しなければ、あなたはいつまでもよそ者扱いされたままで、ビッグアイデアクラウドの重要な構成要素になるかもしれないグループから締め出され続ける。
③第三のシフト
  • 漫然と過ごしていては、新たなチャンスを活かせない。選択肢が広がることの恩恵に浴するためには、自分がどういう人間でありたいのか、そして恩恵と引き換えに何をあきらめる覚悟があるのかについて、厳しい選択をしなくてはならない。仕事とそれ以外のバランスを取り、新たに重要になる活動に時間を割かない限り、これらの「シフト」は実現できない。
  • バランスの取れた生活、やりがいのある仕事、専門技能を段階的に高めていくことを重んじるのであれば、それを可能にするための「シフト」を実践し、自分の働き方の未来に責任を持たなくてはならない。そのためには、不安の感情に対する考え方を変える必要がある。自分が直面しているジレンマを否定するのではなく、強靭な精神を育んで、ジレンマが生み出す不安の感情を受け入れなくてはならない。
  • 私たち一人ひとりにとっての課題は、明確な意図を持って職業生活を送ること。自分がどういう人間なのか、人生で何を大切にしたいのかをはっきり意識し、自分の前にある選択肢と、それぞれの道を選んだ場合に待っている結果について、深く理解しなくてはならない。そのためには、自分が望まない選択肢にきっぱりとNoという勇気が必要。「普通」でありたいと思うのではなく、他の人とは違う一人の個人として自分の生き方に責任を持ち、自分を確立していく覚悟が必要。

3.教訓

目まぐるしく技術が進歩する現代において、いつ自分の知識や持っている技術が陳腐化するのかはわかりません。そのため、常に学ぶ姿勢を保ち、実力を維持できるよう努力することが必要です。

自分の判断基準で考えたり、過去の栄光に固執したりすることなく、時代や属する集団に合わせて変化し、自分から押し出さなくても相手から求められるような人間であり続けたいと思います。

また、しっかりと自分の置かれた立場を周囲に説明できる発信力を高め、自分が助けてもらえる状況を作り出すことも一つの実力であると考えます。

 

知識創造企業 野中郁次郎・竹内弘高著

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知識創造企業(新装版) [ 野中 郁次郎 ]
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1.はじめに

初版は1996年で、その当時は最先端であった、実企業での実製品開発のケーススタディをベースに、以下の3つを野心的な目的として書かれています。

  1. 西洋の学者とマネージャーに日本生まれの知識創造理論を提示すること
  2. 日本企業の絶え間ないイノベーションはなぜうまくいったのかを新たに説明すること
  3. 日本と西洋の経営実践を統合し、それに基づいて企業経営の普遍的モデルを作り出すこと

形式知」と「暗黙知」の変換による知識スパイラル、ミドルマネージャーに求められる役割、通常業務をこなしながらプロジェクトチームを掛け持ちし違った知識文脈の間を柔軟に移動しながら知識のダイナミック・サイクルを作り出す能力など、多くの示唆に富む内容となっています。

ホンダのシティ、パナソニックのホームベーカリー、キヤノンのミニコピア、シャープの電子辞書など、若者からすると実物にピンと来ない人もいるかもしれませんが、実物がわからなくても、本書の内容を十分に理解できると思います。

読書大全で紹介されている200冊の中にも、数少ない日本の書籍として選ばれています。

 

2.内容

(1)知識とは

  • ドラッカーの「ポスト資本主義社会」は、新しい経済においては、知識は単に伝統的生産要素としての労働・資本・土地と並ぶもう一つの資源というより、ただ一つの資源であると論じている。知識が一つのというより唯一の資源であるということが新しい社会の特徴。
  • 暗黙知を組織内部で伝達・共有するには、誰にでもわかるように言葉や数字に変換しなければならない。このように暗黙知形式知へ、また逆に暗黙知へ変換されるときにこそ、組織の「知」が創られる。
  • 組織観からすれば、会社は何のためにあるのか、どこを目指しているのか、どんな世界に住みたいのか、どうすればその世界は実現できるのか、といったことを社員全員が理解していることの方が、客観的な情報を処理することよりもはるかに重要。
  • 日本のマネージャーは、直接体験や試行錯誤から学ぶことの大切さを重視する。日本人は「心」と「体」の両方を使って学ぶ。この「心身一如」を強調する伝統は、禅仏教が確立されて以来の日本的思考の特徴。
  • 知識創造の3つの特徴とは以下の通り。
  1. 表現しがたいものを表現するために、比喩や象徴が多用される。
  2. 知識を広めるためには、個人の知が他人にも共有されなければならない。
  3. 新しい知識は曖昧さと冗長性のただ中で生まれる。
  • メタファーによって、人々は既知のものを新しく組合せ、わかってはいても言葉にしにくいものを表現し始める。アナロジーはメタファーと比べると、2つのアイデアあるいはモノの特徴を明らかにする方法としてはやや論理的。それは2つの事物のどこが似ていてどこが違うのかをはっきりさせる。その意味で、アナロジーは純粋な想像と論理的な思考を媒介するもの。
  • 新しい知識はいつも個人から始まり、個人の組織が組織全体にとって大事な知識に変換される。
  • 曖昧さは、ときに新しい方向感覚の源泉として有意義であるばかりでなく、物事に新たな意味を見出したり、新しく考え直すきっかけともなる。この意味で、新しい知識はカオスから生まれてくる。
  • 冗長性を持つ組織を作ることは、頻繁な対話とコミュニケーションを促進する。冗長性は、社員の間に「認識上の共通基盤」を創り、暗黙知の移転を助ける。組織成員は情報を重複共有してこそ、お互いが四苦八苦しながら表現しようとしていることを分かり合える。この情報共有という冗長性によって、新しい形式知が組織全体に広まり、一人ひとりのものになる。
  • ドルマネージャーの役割は、トップの現実を超える理想とビジネスの最前線のときに混沌たる現実の間を橋渡しすること。中間的なビジネス・コンセプトや製品コンセプトを創り出し、トップの「かくあるべきだ」という思考と第一線社員の「現実はこうだ」という思考を仲立ちする。彼らは、第一線の社員の暗黙知とトップの暗黙知を統合し、形式知に変換して、新しい製品や技術に組み入れる。
  • 日本語では、メッセージがそれだけで了解できる文法的な決まりによって伝達されることは少なく、文脈(コンテキスト)に頼ることが多い。したがって、この日本語の特徴である曖昧さは、人々にその時々のコンテキストについての暗黙的な知識を持っていることを要請する。
  • 西洋社会では、個人の自己実現を人生の目標とすることが奨励されるが、日本では和を大事にしながら全体の一部として生きることが理想とされる。日本人にとっては、他人のために生きることは自分のため。他人との関係において自己を実現することが、日本人に備わった性向。

(2)組織的知識創造の理論

  • 知識創造には2つの次元(①認識論的次元、②存在論的次元)がある。
  1. 存在論的次元:厳密にいえば、知識を創造するのは個人だけ。組織は個人を抜きにして知識を創り出すことはできない。組織の役割は、創造性豊かな個人を助け、知識創造のためのより良い条件を創り出すこと。
  2. 認識論的次元:「暗黙知」と「形式知」との区別による。暗黙知は特定状況に関する個人的な知識であり、形式化したり他人に伝えたりするのが難しい。一方、明示的な知すなわち「形式知」は、形式的・論理的言語によって伝達できる知識。
  • 知識変換モードは4つに分類される。
  1. 「共同化」:個人の暗黙知からグループの暗黙知を創造する
  2. 「表出化」:暗黙知から形式知を創造する
  3. 「連結化」:個別の形式知から体系的な形式知を創造する
  4. 「内面化」:形式知から暗黙知を創造する
  • 形式知暗黙知に内面化するためには、書類・マニュアル・ストーリーなどに言語化・図式化されていなければならない。文書化は、体験を内面化するのを助けて暗黙知を豊かにする。さらに文書はマニュアルは、形式知の移転を助け、ある人の経験を他の人に追体験させることができる。
  • 内面化は、実際に他の人の経験を追体験しなくても起こりうる。例えば、あるサクセスストーリーが組織のメンバーにその話の本質と臨場感を感じさせることができれば、過去の経験が暗黙的なメンタル・モデルになることもありうる。そのようなメンタル・モデルが組織の多くのメンバーに共有されると、その暗黙知は組織文化の一部となる。
  • 個人の暗黙知が組織的知識創造の基盤。組織は、個人レベルで創られ蓄積される暗黙知を動員しなければならない。その動員された暗黙知が、4つ知識変換モードを通じて「組織的に」増幅され、より高い存在レベルで形にされることを「知識スパイラル」と呼ぶ。存在レベルが上昇するに連れて、暗黙知形式知の相互作用がより大きなスケールで起こる。
  • 組織的知識創造を促進する要件は以下の5つ。
  1. 「意図」:企業が知識を創り出すためには、意図を明確にしてそれを組織メンバーに提示し、彼らのコミットメントを育成しなければならない。トップやミドルは、「真実とは何か」「人間とは何か」「生きるとは何か」といった本質的な疑問を問いかけることによって、根本的価値へのコミットメントの重要性に組織の関心を引き付けることができる。
  2. 「自律性」:組織のメンバーには、事情が許す限り、個人のレベルで自由な行動を認めるようにすべき。そうすることにより、組織は思いがけない機会を取り込むチャンスを増やすことができる。また自律性によって、個人が新しい知識を創造するために自分を動機付けすることが容易になる。
  3. 「ゆらぎと創造的なカオス」:トップの経営哲学やビジョンがはっきりしないとき、その曖昧さは実行スタッフのレベルで「解釈の多義性」を生み出す。「創造的カオス」の恩恵は、組織成員が自らの行動について考える能力があって初めて実現される。そういう内省が無ければ、ゆらぎは破壊的なカオスになりやすい。
  4. 「冗長性」:組織的知識創造が起こるためには、個人やグループの創り出したコンセプトが、それを直ちに必要としない他の人たちにも共有される必要がある。情報を重複共有することは、暗黙知の共有を促進する。他のメンバーが言語化しようと努力しようと努力していることをお互いに感じ取ることができるからである。この意味で、情報の冗長性は、知識創造プロセスを加速する。
  5. 「最小有効多様性」:複雑多様な環境からの挑戦に対応するには、組織は同じ程度の多様性を内部に持っていなければならない。最小有効性を持っている組織のメンバーは、数多くの事態に対処できる。最小有効性は、組織の全員が情報を柔軟に様々な形ですばやく組み合わせたり、平等に情報を利用できるようにすることによって強化される。
  • これまでの諸概念を使い、さらには時間の次元をも組み込んだ組織絵的知識創造のファイブ・フェイズ・モデルを提示する。①暗黙知の共有→②コンセプトの創造→③コンセプトの正当化→④原型の構築→知識の転移である。

(3)知識創造のためのマネジメント・プロセス

  • 知識が専ら個人の心の中で創られ、他人との相互作用を通じて増幅あるいは洗練されないということは、別の問題を引き起こす。トップダウン・モデルの場合は、数人のトップマネージャーの運命が会社の運命になってしまう危険性がある。ボトムアップ・モデルの場合は、個人の優位性と自律性のために、知識創造に大きな時間がかかる。知識創造のペースは、特定の個人の忍耐と才能次第。
  • ミドル・アップダウン・モデルでは、トップはビジョンや夢を描くが、ミドルは第一線社員が理解でき実行に移せるようなもっと具体的なコンセプトを創り出す。ミドルは、トップが創りたいと願っているものと現実世界にあるものとの矛盾を解決しようと努力する。つまり、部下たちにある概念的枠組みを与え、自らの経験の意味を理解できるよう、彼らを助ける。
  • 知識創造企業が新しい知識を創るには、全員の参加が必要で、一人ひとりがナレッジ・クリエイティング・クルーである。
  1. ナレッジ・プラクティショナー:第一線の社員。基本的な役割は、知識を体得すること。
  2. ナレッジ・エンジニア:ミドル・マネージャー。トップが持っているビジョンとしての理想と第一線社員が直面することの多い錯綜したビジネスの現実をつなぐ「橋」の役割を果たす。会社のビジョンに従って、新しい知識を工夫しながら創り出す。
  3. ナレッジ・オフィサー:トップ・マネージャー。会社はどうあるべきかについてのグランド・コンセプトを創り出し、企業ビジョンや経営方針声明の形を取った知識ビジョンを確立し、創られた知識の価値を正当化するための基準を設定することによって、会社の知識創造活動に方向感覚を与える。

(4)新しい組織構造

  • ビュロクラシー官僚主義)によるコントロールは、個人の自発性をそぎ、不確実で急激に変化する時代には逆機能になるコストを伴う。その外にも、組織内部の抵抗、緊張、責任回避、手段の目的化、セクショナリズム、組織成員の動機付けの阻害といったことも挙げられる。
  • タスクフォースは、その時限性から、創られた新たな知識は、プロジェクト完了後ばらばらになり、他の組織成員へは容易に伝わらない。したがって、知識を組織全体に幅広く伝えながら連続的に利用するのには不向き。多数の小規模なタスクフォースだけで構成された企業組織は、企業全体のゴールやビジョンを設定し達成する能力がない。
  • ビュロクラシーとタスクフォースを互いに排除するというより相互補完的と見る「ハイパーテキスト型組織」構造が目指すゴール。知識は、伝統的な階層組織であるビジネス・システムと、典型的なタスクフォース組織であるプロジェクト・チームの2つのレイヤーの間で、ダイナミックに変換される。2つのレイヤーで創られた知識は、次に第三のレイヤー知識ベースで再分類され、新しい文脈に組み込まれる。

3.教訓

まさに、自身がミドルマネージャー職にいるので、期待され果たすべき役割を再認識することができました。

そして、自身が非製造業に務めているので、製品開発の場面については、システム開発の場面に置き換えながら読みました。実際、通常業務を担いつつ、複数のシステム開発プロジェクトを掛け持ちしながら仕事をすることが多いので、他部門の方との接点も多く、本書で推奨されているような恵まれた環境で仕事ができていると感じることもできます。

さらに、最小有効多様性については、経験談としても納得感があります。これまで担ってきた業務経験の違いで、通常運営を遂行するには得意不得意が生じることがありますが、突発事象やイレギュラー案件が発生した場合には、むしろ通常業務外の知識が役に立つこともあり、最近の言葉としての「インクルージョン」を大切にしていきたいと考えています。

 

 

考える技術・書く技術 板坂元著

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1.はじめに

本のタイトルだけ見ると、以下の本をイメージされる方が多いかと思います。

今回紹介するのは、これとは別の本です。

初版は1973年ですが、全く古さ感じられない、現代にも通じる内容となっています。

2.内容

(1)視点・整理・発想

  • 我々は毎日経験していることを、型として捉えることを怠けている。珍しい出来事も一生に一度しか起こらないものは少なく、ほとんどが型に分類できる。そして、頭が良いとか悪いとかいうことも、型を早く見つけるかどうか、また型をたくさんもっているかどうかの差に換算できることが多い。
  • ものを考えたり書いたりする場合でも、自らを知ることが最も難しい。自分の視点が決まってしまうと、それだけの視野でしか外界が見えなくなり、マンネリズムに陥っていく。慣習に支配され、新しい見方考え方を開発できなくなっていく。
  • 視点の供給を外から仰ぐだけではいけない。絶えず自分の中にも、視点を変化させてみる心掛けが必要。「わしの若い頃は」を連発するようになったら、知能の発達が止まったことを意味する。老化を防ぐためには、自分の観察を怠らないことが必要。
  • メモを短く書き過ぎると、後になって「何のことを書いたつもりか」と考え込まなければならない。それに名詞文よりも動詞文の方が、動的な印象を与えるので、メモを繰りながら考えをまとめるときに、頭の働きを刺激する力が強い。
  • 情報社会では情報を集積するよりも、情報を上手に捨てることが必要だから、時間をおいて読み返して、不要なものは思い切って捨てるべき。この捨てる作業は、ファイルのときだけでなく、書き物をしたり報告したりするときなどに、改めて捨てるべきものは捨てて、常に役立てるような状態に保つことを継続して行わなければならない。
  • それまで人の考えなかった新しいことを生み出すためには、多かれ少なかれ引力を吹っ切る力を要する。独創や創造について書かれた本のすべてに共通することは、型にはまった考え方から離脱するために心身を訓練することであった。

(2)説得・説明

  • 人間の頭の活動は、知的なものと情動的なものが、切り離せない状態となって行われるものだから、相手に理解し同調してもらうためには、相手の心の情動的なレベルに働きかけねばならない。
  • 説得のために数字を使うことは、情動のレベルで相手を信じさせる有力な手段。「いつも」「ほとんど」等々の表現を避けて、何パーセントとか何分の一とか数字に直して考え、かつ表現することは、誤解を防ぐうえにも大事なこと。
  • 肯定・否定の両説を挙げる場合、自分の支持する説を後に出す。聞き手の判断に委ねるより、結論をはっきり示す
  • 文章に受身形をなるべく避ける。能動形は、ふつう、受身形よりずっと直接的で力強い。能動にする方が、文が強く、かつ短くなり、生き生きする
  • 余分な飾りを取る方が、文は生き生きとしたものになる。形容詞は、ものの状態・性質を表す言葉であるため、使い過ぎると文全体が静的な印象を強めることになる。特に情意を表す形容詞が多くなると、主観的な内容になりがちで、説得力も乏しくなる。
  • 知らないとは言いにくい。けれども、それを公然と言えるようにならなければ一人前とは認められない。

3.教訓

この本を読んでから、文章を短くしようと無理やり体言止めをしていたのを止めたり、助詞を入れたり動詞で終わらせたりして、自分が読んでも他者から見てもわかりやすい表現にするなどの意識が変わりました。

何かの変更点を説明するとき、「●●するようになりました」と言うよりも「●●することにしました」と表現した方が、また余計な修飾語をそぎ落として文章をスリム化する方が、確かに相手に伝わりやすいと思い、実践しています。

発行年度が古くても重刷になっている本は、長い間支持される理由があると思いますので、これからも意識的に読み込んでいきたいと考えています。