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FACTFULNESS 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣 ハンス・ロスリングほか著

1.はじめに

言わずと知れた、ミリオンセラー本です。

いつかは読みたいと思っていましたが、あまりの売れ方に少しアンチに傾いていました。

それでも、ここまで売れているには理由があると思い、ようやく手に取りました。

まず冒頭に、13個の3択クイズが用意されています。私の正解数は3問で、本書にあるように、サルが無作為に選ぶよりも低い正答率です。(ちなみに娘は4問、嫁さんは2問)

以下に1例を出します。

Q.世界中の1歳児の中で、なんらかの病気に対して予防接種を受けている子供はどれくらいいるでしょう?

A.20%  B.50%  C.80%

正解は、本を買って確認いただければと思いますが、どれだけ自分の頭の中が古く、ドラマチックなイメージで占有され、事実を知らないかを認識できる良本です。

以下で、10個の思い込みの中から、印象的な部分を引用します。

2.内容

(1)分断本能:「世界は分断されている」という思い込み

  • 「極端な数字の比較」に注意しよう。人や国のグループには必ず、最上位層と最下位層が存在する。2つの差が残酷なほど不公平なときもある。しかし多くの場合、大半の人や国はその中間の、上でも下でもないところにいる
  • 「上からの景色」であることを思い出そう。高いところから低いところを正確に見るのは難しい。どれも同じくらい低く見えるけれど、実際は違う

(2)ネガティブ本能:「世界はどんどん悪くなっている」という思い込み

  • 暮らしが良くなるにつれ、悪事や災いに対する監視の目も厳しくなった。昔に比べたら大きな進歩だ。しかし監視の目が厳しくなったことで、悪いニュースがより目につくようになり、皮肉なことに「世界は全然進歩していない」と思う人が増えてしまった。
  • 思い出や歴史は美化されやすい。みんな1年前にも、5年前にも、50年前にも、いま以上に悪い出来事が起きたことを忘れてしまう。「世界はどんどん悪くなっている」と考えれば不安になり、希望も失いがちになる。でも、それは思い込みに過ぎない。

(3)直線本能:「世界の人口はひたすら増え続ける」という思い込み

  • 数字がまっすぐ上昇しているように見えても、そのグラフは直線なのか、S字カーブなのか、こぶの形をしているのか、倍増のグラフなのかはわからない。2つの点を線で結ぼうとすると、かならず直線になる。しかし、点が3つ以上あれば、「1,2,3」と増える直線なのか、「1,2,4」と増える倍増なのかを知ることができる。

(4)恐怖本能:危険でないことを、恐ろしいと考えてしまう思い込み

  • 地震・戦争・難民・病気・火事・サメによる被害・テロなどは、関心フィルターを通り抜けやすい。めったに起きないことのほうが、頻繁に起きることよりもニュースになりやすいからだ。こうしてわたしたちの頭の中は、めったに起きないことの情報で埋め尽くされていく。注意しないと、実際にはめったに起きないことが、世界ではしょっちゅう起きていると錯覚してしまう。
  • 子ども向けワクチンや、放射線被ばくや、化学物質について、事実に基づいた理解を広めるのは、いまだにとても難しい。多くの人は、よくわからないものを疑い、反射的に怖がってしまう。データを見せても、なかなか信じてもらえない。
  • 恐怖本能は、正しい使い方をすれば役立つこともある。しかし、世界を理解するにはまったく役に立たない。恐ろしいが、起きる可能性が低いことに注目しすぎると、本当に危険なことを見逃してしまう。「恐怖」と「危険」はまったく違う。恐ろしいと思うことは、リスクがあるように「見える」だけだ。一方、危険なことに確実にリスクがある。
  • リスクは、「危険度」と「頻度」、言い換えると「質」と「量」の掛け算で決まる。リスク=危険度×頻度であり、「恐ろしさ」はリスクとは関係ない

(5)過大視本能:「目の前の数字がいちばん重要だ」という思い込み

  • 「人の命が懸かっているときに、時間や労力の優先順位にどうのこうの言うんじゃない。お前はなんて無慈悲なやつなんだ」と思うも多いだろう。しかし、使える時間や労力は限られている。だからこそ頭を使わないといけない。そして限られた時間や労力で、やれるだけのことできる人が最も慈悲深い人だと思う。
  • 何かの重大さを勘違いしないために最も大切なのは、ひとつの数字だけに注目しないこと。もし数字をひとつだけ見せられたら、必ず「それと比較できるような、ほかの数字はないんですか?」と尋ねよう。ある程度ケタの数が増えると、ほかの数字と比較しない限り、どんな数でも大きく、重大に見えてくる。
  • 人口は国によって千差万別なのだから、国全体の二酸化炭素排出量を比べるのは不毛だ。もしそんな論理がまかり通るのであれば、人口500万人しかないノルウェーは、国民ひとりがどれだけCO2を排出しても、多めに見てもらえることになる。つまり、CO2排出量という大きな数字は、人口で割ることによって、比較可能な意味のある数字になる
  • ひとつしかにあ数字をニュースで見かけたときは、必ずこう問いかけてほしい。できるだけ、量ではなく割合を計算しよう。その後で、数字が重要かどうか判断すればいい
  1. この数字は、どの数字と比べるべきか?
  2. この数字は、1年前や10年間と比べたらどうなっているか?
  3. この数字は、似たような国や地域のものと比べたらどうなるか?
  4. この数字は、どの数字で割るべきか?
  5. この数字は、ひとりあたりだとどうなるのか?

(6)パターン化本能:「ひとつの例がすべてに当てはまる」という思い込み

  • 国は違っても所得の同じ人のあいだには暮らしぶりに驚くほどの共通点があることがわかるし、国は同じでも所得が違えば暮らしぶりが全く違うこともわかる。人々の暮らしぶりに一番おおきな影響を与えている要因は、宗教でも文化でも国でもなく、収入だということは一目瞭然
  • ある集団の過半数になんらかの特徴があると言われれば、その中のほとんどの人に何かしらの共通点があるように聞こえてしまう。だが、「過半数」とは半分より多いという意味でしかない。51%かもしれなし、99%かもしれない。
  • とんでもないしくじりをしないためには、あなたの経験が「普通」ではないかもしれないことを肝に銘じておいたほうがいい。くれぐれも、レベル4の経験が世界のほかの場所に当てはまると思わないように。特に、自分の経験をもとに、ほかの人たちをアホだと決めつけないでほしい

(7)宿命本能:「すべてはあらかじめ決まっている」という思い込み

  • 宿命本能を抑えるためには、ゆっくりとした変化でも、変わっていないわけではないことを肝に銘じるといい。1年間の変化率に惑わされてはいけない。たとえ1%だとしても、前に進んでいることには変わりない。
  • 知識をアップデートしよう。賞味期限がすぐに切れる知識もある。テクノロジー、国、社会、文化、宗教は刻々と変わり続けている。

(8)単純化本能:「世界はひとつの切り口で理解できる」という思い込み

  • 病院があっても妊婦がそこにたどり着かなければ何の役にも立たない。救急車もなく、救急車が通れる道路もなければ意味がない。それと同じで、いい教育に必要なのは、教科書をたくさん与えることでも教師を増やすことでもない。学びにいちばん大きく影響するのは電気だ。電気があれば、日が暮れたあとに宿題ができる。
  • やたらめったらとトンカチを振り回すのはやめよう。何かひとつの道具が器用に使える人は、それを何度でも使いたくなるものだ。でも、ひとつの道具がすべてに使えるわけではない。あなたのやり方がトンカチだとしたら、ねじ回しやレンチや巻き尺を持った人を探し、違う分野の人たちの意見に心を開いてほしい。

(9)犯人捜し本能:「誰かを責めれば物事は解決する」という思い込み

  • 世界の深刻な問題を理解するためには、問題を引き起こすシステムを見直さないといけない。犯人捜しをしている場合ではない。もし本当に世界を変えたいのなら、犯人捜し本能は役に立たない。
  • 便利なものをすべて手放して、ジーンズやシーツを手洗いする覚悟が、あなたにはあるだろうか?あなたにそれができないのなら、どうして彼らに不便でもがまんしろなんて言えるのだろう?犯人を探し出して責任を押し付けても仕方がない地球温暖化のリスクから地球を守るのに必要なのは、現実的な計画だ。
  • 犯人ではなく原因を探そう。物事がうまく行かないときに、責めるべき人やグループを捜してはいけない。誰かがわざと仕掛けなくても、悪いことは起きる。その状況を生み出した、複数の原因やシステムを理解することに力を注ぐべきだ。

(10)焦り本能:「いますぐ手を打たないと大変なことになる」という思い込み

  • データそのものの信頼性と、データを計測し発表する人たちの信頼性を守ることがとても大切。わたしたちはデータを使って真実を語らなければならない。たとえ善意からだとしても、拙速に行動を呼びかけてはいけない
  • 「いましかない」という焦りはストレスの元になったり、逆に無関心につながってしまう。「なんでもいいからとにかく変えなくては。分析は後回し。行動あるのみ」と感じたり、逆に「何をやってもダメ。自分にできることはない。あきらめよう」という気持ちになる。どちらの場合も、考えることをやめ、本能に負け、愚かな判断をしてしまうことになる。
  • 小さな歩みを重ね、計測と評価を繰り返しながら進んでいくしかない。過激な行動に出てはいけない。どんな社会貢献に携わっていても、すべての活動家はこのリスクを肝に銘じておいたほうがいい。リスクに関してオオカミ少年になってはいけない

(11)ファクトフルネスを実践しよう

  • 何よりも謙虚さと好奇心を持つことを子供たちに教えよう。
  • 謙虚であるということは、本能を抑えて事実を正しく見ることがどれほど難しいかに気づくこと。自分の知識が限られていることを認めること。堂々と「知りません」と言えること。新しい事実を発見したら、喜んで意見を変えられること。謙虚になると、心が楽になる。何もかも知っていなくちゃいけないというプレッシャーがなくなるし、いつも自分の意見を弁護しなければと感じなくていい
  • 好奇心があるということは、新しい情報を積極的に探し、受け入れるということ。自分の考えに合わない事実を大切にし、その裏にある意味を理解しようと努めること。答えを間違っていても恥とは思わず、間違いをきっかけに興味と持つこと。好奇心を持つと心がワクワクする。好奇心があれば、いつも何か面白いことを発見し続けられる
  • いくら良心的な報道機関であっても、中立性を保ってドラマチックでない世界の姿を伝えることは難しいだろう。そんな報道は、正しくても退屈すぎる。メディアが退屈な方向に行くとは思えない。ファクトフルネスの視点でニュースを受け止められるかどうかは、わたしたち消費者次第だ。世界を理解するのにニュースは役に立たないと気づくかどうかは、わたしたちにかかっている。

3.教訓

改めて書くまでもありませんが、自分の意見や考えを持つことは、非常に重要です。

仕事においては、その考えや理論を元に仮説を立て、それが正しいのかを検証することになりますが、世界でさかんに報道されている題材となると、もの珍しい極端な事例に脳内が専有されてしまい、実際の姿とかけ離れたイメージが出来上がってしまいます。

同じことが、昔の経験にも言えると思います。

「昔の自分たちのやり方はこうだった」というイメージが強く残っていると、当時の記憶が美化されてしまい、過去からの改善の積み重ねによって今では当時と全然違う業務フローになっているのに、「常識的にはこのやり方だよね」とか「昔の方がよかった」と、ついつい言ってしまうことがあります。

すると、「あの人はわかっていない」と直近の現場を知る人の心の中で思われてしまいます。

そうならないために、今ここで何が起こっているのかの現実を把握することと、常に新たな情報を意識的に取り込むことをしっかり意識していきたいと思います。

短く深く瞑想する法:最高の「休息」と「気づき」を得るマインドフルネス入門  吉田昌生 著

 

1.はじめに

どうしても、「瞑想」というと、どこか宗教的な匂いがして、これまで敬遠してきました。

しかし、書店に行くと、マインドフルネスに関するさまざまな書籍が売っていますし、Googleその他で導入されているという記事もあることから、少し興味を持ち始めました。

そこで、会社でも希望者向けに入門の研修が開催されたので参加してみました。

しかし、実際に「瞑想」してみても、何が正しい状態なのか、1度の研修ではほとんど自己理解に到達することができませんでした。

そのため、一度、入門書を読んで、自分なりの理解を得ようと思い、本書を手に取りました。

2.内容

(1)瞑想で「気づきが増えていく」

  • マインドフルネスは、「いま」「ここ」に100%の注意を向ける「心の在り方」のトレーニン
  • 瞑想と聞くと、多くの人が「”無”にならなければいけない」と思う。しかし、それ自体が目的ではなく、大事なのは「気づく」こと。自分の内面に起こっていることに「気づく力」を高めること。
  • 自分の意識が、過去や未来にさまよっていることに気づいたら、「いま」「ここ」に戻す。瞬間、瞬間に、意識を向けていく。そのための方法が、瞑想(マインドフルネス)。
  • 瞑想によって「気づき(アウェアネス)」の力を養えば、思考を止めることはできないが、「思考を切り替える」ことができるようになる。
  • 目を閉じて、1分間、呼吸の感覚(息を吸うとお腹がふくらみ、息を吐き出すとへこむ)に意識を向ける。たった1分でも思考が鎮まり、気持ちが落ち着き、感情が安定するようになる。そして、さまざまな気づきが増えることで、自分の心とうまく付き合うコツがつかめるようになる。
  • より深く瞑想する方法は以下の3点。
  1. 調身:姿勢を整える。骨盤を安定させ、背筋を伸ばす。
  2. 調息:呼吸を整える。ゆっくり呼吸し、時間をかけて息を吐く。
  3. 調心心を整える。呼吸の感覚に注意を向ける。自然な呼吸によるお腹の動きをただ感じる。

(2)瞑想で「ストレスが消えていく」

  • 私たちは、1日の半分近くの時間をマインドワンダリング(マインドレスネス)状態で過ごしている。「いま」「ここ」に集中せず、過去の怒りや未来への憂いといったネガティブな感情を頭の中で繰り返してはストレスを受けている。ネガティブな感情の反芻こそ、精神的な疲労を蓄積させる原因
  • そうするうちに次第に心も体も元気がなくなっていく。「過去」と「未来」に振り回されないためには、自分の意識が「過去」や「未来」に向かってしまっているのにまず「気づく」こと
  • 瞑想では何もしない。何もしないからこそ価値があり、効果がある。何もしないからこそ、心が休まり、エネルギーが養われる

(3)瞑想で「心が前向きになる」

  • 人生では、たしかに失敗することもあるし、うまくいかないこともある。その人は「どうせ私は」という言葉で切り捨てられるのではなく、ほとんどの場合は勘違い。過去の経験から形成された誤ったセルフイメージであり、妄想に過ぎない。
  • 同じ勘違いなら、「私なら大丈夫」とポジティブな方向に思い込んだ方がよい。よい思い込みを作りたければ、意識的に、何度も何度も、自分自身に伝えていけばいい
  • 自分に対して思いやり深く接していくと、自分を卑下したり、自己防衛的になったりせずに、自分の過ちや弱さに向き合う勇気が持てる。その結果、自分をより高めるモチベーションへとつながりやすくなる。

(4)瞑想で「自信が湧いてくる」

  • 自分を責める気持ちは、体を緊張させる。筋肉はかたくなり、呼吸は浅くなる。すると、自律神経が乱れて、心が弱くなっていく。
  • どんな自分もそのまま受け入れるのが「自己受容。「自分を肯定できない自分」も「そのまま」受け入れていく。等身大の自分を認め、すぐに変えられないことを受け入れながらも、「いまの自分で精いっぱいがんばろう」と思える。
  • 他人を責めることは、じつは自分を責めることになる。他人を責めてばかりいると、周りに誰もいなくなり、孤立します。すると、仕事でも家庭でもうまくいかなくなり、自身がなくなっていく。すると、そんな自分を必ず責めるようになる。

(5)瞑想で「人間関係もよくなる」

  • 自信がない人は、人間関係もうまくいかない。自信がないと、人は「反応的」になりやすくなる。反応的になるとは、周囲の影響・刺激を受けて行動しがちになるということ。つまり、能動的ではなく受動的になるということ。
  • 自信がない人は、「自分はこの状況を乗り越えられない」という恐れに支配されたり、過剰なストレスを感じたりする。そして、逃げ出したり、他人のせいにしたりする。
  • 自信がない人は、やりたいことをやれなくなる。自信がない人は、他人からいい評価を得るために、やりたくないことまでやろうとしてしまう。自信がない人は、自分らしく生きることが難しくなる。そういう人はなかなか輝くことができない。
  • 私たちは「根拠のない自信」こそ必要。自信を持てないのは、「自己受容」できていないから

(6)瞑想で「幸せ体質に変わる」

  • 瞑想を続けると、心の状態が安定し、内側の幸福感が高まる。幸せでいるということは、仕事のパフォーマンスの向上や、心身の健康長寿にもつながる。
  • 大切なのは、「未来」の自分の理想や目標を持ちながらも、「いま」の自分を愛すること。瞑想やヨガに夢中になる人にありがちなのが、よりよい自分になろうと頑張りすぎること。
  • ありのままの自分を許し、認めると、自分の内側に安心感が広がる。その安心感があなたの魅力となり、周りからも大切にされるようになる。自分を愛し、自分との関係性が変わることで、自分を取り巻く現実もまた変わっていく
  • 内なる情熱、内発的動機とつながり、”want to"で行動している人は、その波動に合ったものが人生に招かれるようになる。だから、自分の可能性を最大限発揮して自己実現するためには、「自分は本当はこんなことを望んでいる」という本当の気持ちに「気づく」ことが大切

3.教訓

この本を読むまで、瞑想では「無」になることに近づかなければならない、と思っていましたが、それだけが目的ではないという記載があり、少し気持ちが楽になりました。

なかなか「無」に近づけない自分を自己受容することも、改善に向けた1つのステップと捉え、前向きに考えていきたいと思います。

心にも体にも適度な休息が必要で、時には何もしないことが重要であり、常に何かをしていないといけないとあせることなく、心を落ち着けたいと考えています。

瞑想の仕方だけでなく、心の持ち方や自己受容の考え方など、参考になる記載が多く、忙しい現代だからこそ、本書がマッチする方も多いと思います。

外交談判法 カリエール著

1.はじめに

本書は、立派な交渉家となるために必要な資質と知識について書かれた、1716年にフランスの外交官により記された書物です。

本来は外交官としての心得を説いた内容ですが、現代の一般社会人に向けて、部門長に代わり組織を代表して行動することにも応用が利く、非常に示唆に富む内容となっています。

以下に、いくつか引用してみたいと思います。

(主君=自国の代表、君主=敵国の代表)

2.内容

  • 無経験の交渉家は、人が彼に敬礼すると、それが彼が代表している主君の地位に対して敬意を払っているのに過ぎないことを忘れて、得意になるのが普通。
  • 大使の主たる目的は、主君と任国の君主の間の良好な関係を維持することであるべき。大使は、任国の君主の権力を保ち、または増大させる手段としてのみ、おのれの主君の権力を代表するのが筋合いであって、任国の君主に屈辱を与えたり、その恨みや妬みをかきたてるために主君の権力を使ってはならない。
  • ことに大国を統治する主権者にとって、近くや遠くの国々と、公然とまたは秘密裏に、平時と戦時とを問わず、絶えず交渉を続けているということがいかに有益なことであり、また必要欠くべからざることでもある。
  • どんなに強い国でも、他の諸国がこの国に敵意を燃やし、またはその繁栄を妬んで、団結してやってきたときに、同盟国無しでは、これらの諸国の軍隊に抵抗できるほどに強くはない。
  • 立派な交渉家にとって必要なことは、何を言うべきかをよく自分で検討していない状況では、話したくてむずむずしていても、その欲望に抵抗できるような自制心を持つこと。相手の提案に対して、即座に、よく考えもしないで、返答しようと見栄を張らないこと。
  • 情報を買いたければ、与えざるを得ない。この取引から一番大きな利益を得るのは、相手よりも限界が広いので、訪れる機会を一層上手に利用できる人。
  • スパイに使うほど、適切で必要な金の使いみちはない。かかる出費を要路の大官がおろそかにするならば、それは弁解の余地のない過ちである。
  • 優柔不断ということは、大きな問題を処理する場合には極めて有害である。不利な点を色々と比較考慮したうえで決心して、その決心を粘り強く貫くことのできる果断の精神が必要
  • あまりに有能な人は、かえって凡人にしばしばうまく逃げられてしまう。時々、自分の手腕を信じ過ぎて凡人にだまされる。凡人を味方にしようと思うならば、彼らの役に立つように、彼らから好感を持たれるように自分の手腕を用いるべき。
  • ぺてんはいやしむべここと。一生の間には何回も交渉事を扱うため、嘘をつかない男だという定評ができることが彼にとっての利益であり、この評判を彼は本物の財産のように大切にすべき。
  • 感情を抑えていつも冷静な人は、気短で怒りやすい人と交渉する場合に極めて有利。勝負にならないような違った武器で戦っているようなもの。この種の仕事で成功するには、口を動かすことより、耳を働かせることの方がはるかに必要。沈着で控えめで大いに用心深く、いかなる場合にも忍耐強いことが必要。
  • 人間というものは、自分に対して役に立とうとしてくれている者に対しては、こちらも進んで親切にしたくなるもの。そして、相互に親切にしあうことこそ、友情の最も確実で長続きする基礎。
  • 君主を研究して、彼の性癖、愛着の対象、美徳と弱点を知り、必要な場合にはこの知識を利用できるようにしておくことが大切。交渉家は、任国の君主と同時に、君主の大臣や腹心の人たちを研究しなければならない。彼らの痛いところはどこか、彼らの意見や情熱や利害関係はどんなものかを見抜かねばならない。また、彼らが君主の考えに対し、どの程度の影響力を持っているか、そこでなされる決定に対してどのような関与しているかを見抜かねばならない。
  • 主権者たちは、あまりいつも褒められているので、通常、大抵の人よりは一層鋭く、賛辞の良し悪しを味わい分ける。彼らに喜ばれるためには、賛辞は機智にあふれていて、その場にピタリとふさわしいものでなければならない
  • 我々に対して愛情を示してくれる人々に対して、こちらも愛情を抱かないでいるということは難しい。そして、愛情というものは、大掛かりな献身的行為よりは、むしろ不断の心遣いを怠らず、世話や親切やちょっとした尽力をしばしば繰り返して行うことから生まれるのが普通。
  • 自分の個人的な情熱を満足させるために振る舞うならば、それは自分の感情のために主君の利益を犠牲にすることによって、自分の無能力や不忠実を証明する。
  • 状況は変化するものであって、どれほど決心が固く、強情な人でも、実は長続きせず移り気であるに過ぎない。彼らの考えも決心も、すべてその時々の彼らの想像力の状態によって左右されるものでしかない。
  • 立派な交渉家に必要な資質の中で最も必要なものは、人が言おうとすることを、注意深く噛みしめながら傾聴することができ、相手が述べたことに対して、的外れでないその場にあった返事はするが、こちらの知っていることや望むことをせかせかと全部言ってしまおうとは決してしないこと。交渉の主題を説明するにあたって、最初は相手の事情を探るのに必要な程度に留める
  • いくら自分にとって有利な企てでも、最初からその全貌と、それから起こりうるすべての結果を見せられると、やろうという決心がつかない人間が世の中には多い。しかし、そういう人たちでも、少しずつ順を追って入らせると、こちらの誘導するがままになる。なぜならば、一歩歩くともう一歩、さらに何歩も歩いてみたくなるから。
  • 有能な交渉家にとって必要なことは、ずるくて抜け目ない人だと思われたいなどというバカな思い上がりを気を付けて避けること。でないと、交渉相手に警戒心を抱かせる。反対に、彼は実があり、うそをつかず、彼の意図は公正なものであるということ相手に納得させるよう努力すべき
  • 腕利きの交渉家ならば、条約の条項の起草を引き受けるべき。なぜならば、条項を文章にする人間には、既に合意をみた条件を、当事者間で決めた事柄に違反しない範囲内で、主君にできるだけ有利な言い方で表現することができるという利点があるから。
  • どんな国民や国家にも、悪い法律もあろうが、よい法律もたくさんある。彼はそのよい法律を褒めるべきで、よくない法律のことは口にすべきではない
  • 交渉家は、軽々しく約束をしてはならないが、一旦約束したことは几帳面に実行しなくてはいけない。人は断られた場合よりも、約束が守られないことに対して、一層激しく腹を立てるもの。
  • 有能な交渉家ならば、主君の権利や主張に有利なすべての条件を、極めて明瞭に条文の文面に表現させなければならない。一点の疑いも残さないように、詳しく的確に規定させなければならない。そのためには、彼がその条約に使われている言語を十分に知っていて、そこで用いられる言葉がどれだけのことを意味しうるかを承知し、最も適切で表現力に富んだ言葉を選べることが必要
  • 思慮のある交渉家ならば、公信を書くときには、報告の対象である君主や大臣の目に触れるかもしれないから、最もな苦情の種を彼らに与えないように書くべき。
  • 彼の振る舞いが悪く、横柄で筋が通らず、人聞きの悪い行状があって憎らしがられるようになると、君主までがその国で憎まれるおそれが大いにある。
  • 問題になるのは、通常、何を報告するかということよりは、どのような言い回しで、また、どういう意図で報告するのかということ。
  • 無学で主君の権勢を笠にきてのぼせ上がっている交渉家は、自分を権威づけるために、主君の利害とは無関係の事柄に関して理由もなく主君に名前を出すきらいが強い。これに反して、分別のある交渉家は、主君の名前と権威に累を及ぼすことを避け、本当に然るべき場合でない限り、決して主君の名前を引き合いに出さない

3.教訓

本ブログを見ていただける方は、むしろ部門長よりも、中間管理職や責任者クラスの方が多いものと推察します。私もその一人です。

社内外の関係者と交渉・協議を行う際には、個人的な利害や一時的な感情に左右されることなく、常に組織を代表しているという自覚を持ち、誠実に対応したいと考えます。

また、今は社内通達や取扱マニュアルなど、文章を起案することも多いので、自らの意図をしっかり伝えることができる言葉・表現を選び抜きたいと思います。

その他、メールやツイートをする際にも参考になる、現代にも通じる内容が盛りだくさんです。 自分の能力を過信して短絡的に発言すると、いわゆる”炎上”してしまう可能性があり、充分留意したいと考えています。