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心理的安全性のつくりかた 石井遼介 著

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心理的安全性のつくりかた [ 石井 遼介 ]
価格:1980円(税込、送料無料) (2022/3/13時点)

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1.はじめに

心理的安全性」とは、チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態を指し、要は「自由に発言できる職場」だということです。

心理的安全性は、Googleが成功するチームについて分析し公表した、効果的なチームの主要素です。

本書は以下の通り、HRアワード2021で優秀賞を受賞しており、2020年の最優秀賞は「他者と働く」、過去には「GRIT やり抜く力」や「LIFE SHIFT」なども受賞している、HR(Human Resource;人的資源)領域としては著名な表彰制度です。

hr-award.jp

2.内容

(1)チームの心理的安全性

  • 対人関係のリスクとは、「チームの成果のためやチームの貢献を意図して行動したとしても、罰を受けるかもしれない」という不安を感じている状態のこと。心理的”非”安全な職場では、いつの間にかメンバーは必要なことでも行動しなくなってしまう。
  • 心理的安全性が高い=「ヌルい職場」ではない。目標を下げて現実に合わせるのではなく、妥協点を高く保ちながら仕事を進化させていく。このようなリーダーに人は「ハイ・スタンダード」を感じる。そして、ハイ・スタンダードな仕事をするチームのメンバーは、たとえ困難でも達成に貢献しようと努力する一人になる。
  • 日本の組織では、①話しやすさ、②助け合い、③挑戦、④新奇歓迎の4因子があるとき、心理的安全性が感じられる。
  1. 話しやすさ」:みんなが同じ方向を向いて「これだ!」となっている時でも反対意見があればシェアすることができる、「問題」や「リスク」に気づいた瞬間に感じた時に声を上げられる、知らないことやわからないことがあるときにフラットに尋ねられる。
  2. 助け合い」:問題が起きた時に人を責めるのではなく建設的に解決策を考える雰囲気がある、チームリーダーやメンバーがいつでも相談に乗ってくれる、減点主義でなく加点主義。
  3. 挑戦」:チャレンジ・挑戦することが損ではなく得だと思える、前例や実績がないものでも取り入れる、多少非現実的でも面白いアイデアを思い付いたら共有しようと思える。
  4. 新奇歓迎」:役割に応じて強みや個性を発揮することを歓迎されていると感じる、常識にとらわれず様々な視点を持ち込むことができる、目立つこともリスクではないと思える。
  • たとえ相手が”本当に”悪かったとしても、自分を問題の外に置いて相手の悪さを指摘し非難することが、相手の行動に影響を与えることはほとんど無い。少なくとも、あなたが「問題だと考える」相手から深い信頼を得られている状況でない限り、残念ながら役に立たない行動。
  • 「自分の行動は周囲の成長を思ってのことだったが、心理的安全性の観点からは小さな罰を与えてしまった」、「直後の見返りが大事なのに、忙しさにかまけて即座のレスポンスをできていなかった」等、自分自身が変えるべきポイントを見出すことが重要。

(2)リーダーシップとしての心理的柔軟性

  • 心理的安全性にとって、望ましい行動を増やし望ましくない行動を減らすことが、管理職・リーダーなどの組織に心理的安全性を構築しようとリーダーシップを発揮する人の仕事。
  • 心理的柔軟性には、以下の3要素がある。
  1. 必要な困難に直面し、変えられないものを受け入れる。
  2. 大切なことへ向かい、変えられるものに取り組む。
  3. 変えられないものと変えられるものをマインドフルに見分ける。
  • 「善か悪か」「白か黒か」といったことを証明しようとすることは、うまくいけば少し気が済み、うまくいかないうちはイライラするというだけで、多くの場合は決して生産的でなく、役に立つ行動ではない。
  • 何か条件が満たされれば、いつか苦痛などなく嫌な気分が完全に追い出せていい気分でいられる、という幻想を捨てなければならない。「人生には苦痛があることがノーマル」で、「ビジネスでは大変なことが起きるのがノーマル」ということを心底受け入れ、理解していくことが重要。ありもしない幻想にしがみつくのでなく、前を向くために諦め、受け入れることを「創造的絶望という。
  • 「マインドフル」に見分けるとは、今この場で進行中の出来事に気づき続けているということ。気づきが不足すると「心ここにあらず」の状態となり、「目の前で進行中の出来事に集中し体験する」代わりに、頭の中の「思考」や「感情の渦」にとらわれてしまう。
  • 「自分物語」に固執している限り心理的柔軟性は失われ、問題の原因となる。「自分らしさ」や「キャラ」を守るために、役に立たない行動を続けたり、チャンスでも行動を変えられなかったり、自分自身に紐づく、固定化した行動を続けてしまう。その上、自分らしさを守るために、正当化や理由付けを始めてしまう。

(3)行動分析でつくる心理的安全性

  • 人々の行動は、「きっかけ」と「みかえり」によって制御されている。次回、同じような「きっかけ」があったとき、「みかえり」の影響により、同じ行動を取る確率が上がると考える。同じ行動を取る確率が上がる「増えるみかえり」のことを「好子(こうし)」、「減るみかえり」のことを「嫌子(けんし)」と呼ぶ。
  • 相手に言われたことや状況に単に反応するのではなく、自分がこの行動を選択することは、相手にどのような「きっかけ・みかえり」をもたらすのだろうかと考えることが重要。
  • 例えば、ミスの報告を受けた上司は、ミスを減らしたいと思って「問い詰める」という「みかえり」を与えると、意図と異なり、ミスを減らすのではなく報告を減らす効果を持つ。嫌子を使うことで行動をやめさせようとすることは、あまり役には立たないので、問題行動を減らしたい時は、代わりとなる望ましい行動への「好子出現」が使えないか、まずは検討する。
  • 「個人攻撃の罠」の本質は、結局、個人の内面(やる気、自身、性格、能力など)を責めたところで、解決・行動変容にはつながらない
  • 「行動の品質」と「歓迎したい行動自体」を切り分ける技法を導入する。なぜかというと、「行動の品質」を評価すると、望ましい行動(品質は低くても、その行動自体は歓迎すべきもの)に、すぐ罰を与えてしまうから。
  • 出てきた意見に対して、いきなりディスカッションするのでなく、他の意見も洗い出し、可視化したうえで、優先順位の高そうなものからアプローチする。「意義ある意見の対立」はむしろ推奨すべきで、相手に指摘・フィードバックするときは、「あなたはこうすべき」ではなく、「私にはこう見えた・私はこう感じた」という「I message」で伝えることが役に立つ。
  • 結局のところ、チームで働くことの利点は、強みを発揮し弱みをカバーし合うこと。上席者自身が「完璧を捨て、強みで輝き、弱みを委任する」ことや、メンバーの「困難や逆境があっても行動を取り続けられる領域を知る」ことによる最適な配置は、よい「きっかけ」となる。

(4)言葉で高める心理的安全性

  • 言われた通り、ルール通りに行動することに強く従うことは、自分の人生を他者に委ねることになってしまうという問題がある。さらに、他者から与えられる言語的な「みかえり」を重視し、実際に行動から得られる「みかえり」を無視するという問題もある。現実や顧客の反応は「このままではダメだ」と示しているにもかかわらず、心理的柔軟性に欠けた、硬直した役に立たない行動パターンを取り続けてしまう可能性がある。
  • 言われた通りの行動が実行されてしまうのは、ルール策定者やマネージャーが説明をさぼってしまうことが大きな原因。「こうすればいい」「こうしてはいけない」といった行動ルールだけを伝えるのではなく、そのルールがどういうときに活用できるのかという「きっかけ」や、推奨された行動するとどんな結果になるかの「みかえり」とセットで伝えると、目的地にたどり着くための適切な行動が模索できる。
  • 実際に行動が起きるかどうかは、ルールを提示する人の影響力、信頼性に依存する。「リーダーの言う通りにやってみたが、はしごを外された」「言う通りにしたが、感謝やフォローも無かった」といった、過去の歴史が影響力・信頼性を左右する。ルールを守らなくても何も起きない状況が続くと、ルールではなく「ただ言っているだけ」となり、メンバーの行動を変容させる力をやがて失う。

(5)心理的安全性導入アイデア

  • できることしかできない。自分の役割、責任、強みで輝き、弱みは正しく委譲した方がチームとして最大限の成果が出る。あまり背負いこみすぎず、助けてもらう、メンバー相手でも相談にのってもらうことは、むしろチームを話しやすくし学習を推進する。人に頼られるとうれしく思う人は多いもの。
  • 過去の失敗について素直に語る自己開示をする。単なる失敗談ではなく、「その失敗から学んだおかげで今がある」というような文脈に接続することが望ましい。
  • 自分でもすぐ解決できないような、困ったニュースが報告されたら、メンバーと目線を合わせる。叱ったり問い詰めたり、逃げたりするのではなく、「それは困った、どうしようか」と一緒に困る。
  • 「誰に何をもたらすのか」を問い直す。例えば、プロジェクトのゴールを「新システムを導入すること」に置くのか、「組織の営業マンをシステムを通じてサポートし、欲しい情報を欲しいタイミングで迅速に提供すること」に置くのかによって、プロジェクトの意味が違ってくる。

3.教訓

この本を読むことにより、リーダーは完璧でないといけないとか、チームの理想像としてこうあるべき、といったハードルを下げることができました。

変に自分の立場に固執することなく、変えられないものを変える努力をやめ、自分の信頼性を高める行動を取る意識を大切にしたいと考えます。

そうすることで、メンバー間の交流が活発になると思いますので、今後も以下を念頭においたチーム運営を心掛けたいと思います。

  1. 行動分析の観点から「やらなかったら罰を与える」よりも「やったら褒める」仕組みへ変える
  2. 望ましくないことを禁止するより、望ましいことをやり続けたくなるように設計する
  3. ルールや制度の意味意図が伝わり、そのルールを守ることが意味がある状況を作る

 

地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」 細谷功 著

1.はじめに

本書を通じて一貫して記載されていることは、「結論から」「全体から」「単純に」考えることの重要性です。

地頭力とは何か、フェルミ推定とは何か、ということよりも、フェルミ推定的発想を生み出すためにはどのような考え方をすればよいか、という発想法に関する土俵への上がり方が中心です。

事実、本文中に採り上げられているお題は「日本全国に電柱は何本あるか?」という1題のみです。

フェルミ推定の課題の具体的な解き方についての解説が知りたい方は、以下で案内するような別の本を探した方がよいと思います。

bookreviews.hatenadiary.com

2.内容

(1)地頭力とは何か

①「結論から」考える仮説思考力
  • 「結論から」考えることによって、最終目的まで最も効率的な方法でたどり着くことができるようになる。
  • 仮説思考を鍛えるポイントは、①どんなに少ない情報からでも仮説を構築する姿勢、②前提条件を設定して先に進む力、③時間を決めてとにかく結論を出す
  • 仮説思考の本質とは、「ベクトルを逆転して考える」「逆算して考える」こと。「はじめ」からでなく「終わり」から考えること、「手段」からでなく「目的」から考えること、「できること」からでなく「やるべきこと」から考えること、「自分」からでなく「相手」から考えること。
  • 「せっかくだから」「どうせなら」という言葉が聞こえたときには要注意。常に本来の目的を強く意識して、関係ない手段は思い切って捨てることが重要。目的を常に最終到達地として強く意識し、手段と混同しないこと。
  • 課題というのはあいまいだらけであり、ここでいちいち立ち止まって前提条件を人に確認しながら進める、あるいは確認できるまで進められないという態度で課題に臨むのと、あいまいなことは本来の目的に立ち返って現実的な線で「勝手に」決めてどんどん前に進んでいくという姿勢で臨むとでは、積み重ねていくと天と地ほどの差が出てくる。いちいち前提条件を決めてもらえないと先に進めない人たちが、いわゆる「指示待ち族」である。
  • 大切なのは、最初の仮説を検証していきながら精度を上げるという意識を常に持って、最新の情報でフレキシブルに仮説を「進化」させていくこと。当然それには当初の仮説を否定しなければならない場面も出てくるが、これを「ここまでそう考えてきたから」と当初の仮説に固執してしまっては判断を誤ることになる。
②「全体から考える」フレームワーク思考力
  • 「全体から」考えることの最大のメリットは、コミュニケーションにおける誤解や後戻りの最小化である。部分から考えるということは、個人の思い込みや思考の偏りを排除できずに、途中で誤解が発生してコミュニケーションの後戻りによって非効率になる。
  • 全体俯瞰している人は他人に説明するときも必ず誰もが共有している全体像から当該テーマにズームインして入ってくるために誤解が少ないが、全体俯瞰力が弱い人はいきなり自分の視座・視点から説明を始めて、必要に迫られて思いついたように全体像に話を広げていく(ズームアウト)ので、初めて話を聞いた人にはどこの話をしているのかわからないことが多い。
  • 「話が長い」とは、以下の3つのいずれか、あるいはそれらに組み合わせに分類できる。
  1. 話の中身の問題:「話がつまらない」、「わかりにくい」、「聞き手の興味に合っていない」あるいは「趣旨から脱線している場合。相手のことを考えない、一方的で自己中心的なコミュニケーションスタイルの場合に起きる状況。
  2. 所定の時間をオーバーする:同じ10分の話でも、予定が20分であれば短いと感じるが、5分であれば長いと感じる。
  3. いつ終わるかわからない:話の全体像が示されるままに進行すると、聞き手は「一体この話はどう展開していつ終わるのか」と苛立つことになる。
  • 分類をするときには作ってはいけない箱がある。それは「その他」という箱。これは一見「先に箱を用意している」ように見えるかもしれないが、実はそうではない。「その他」という箱は確かに箱には違いないが、これはこの分類はMECEでないことを示す象徴。なぜなら、きちんとした分類の元である軸で切断された断面であれば「その他」という箱自信が登場することはありえない。「その他」とはある意味でフレームワーク思考における思考停止の兆候である。
③「単純に考える」抽象化思考力
  • 「単純に」考えることによって、意思統一が図りやすくなるとともに、抽象化思考の本質である、「応用力を広げることによって少ない知識を様々な範囲に応用して、新しいアイデアの創造や効率化等を飛躍的に図っていくこと」ができるようになる。
  • 図解して考えることは、特にモデル化する力を鍛えるためにも非常に有効。図解するというのは、問題解決であれ何であれ、対象とする事象の特徴をとらえて簡略化し、特定の図形で代表させるという点でモデル化の発想そのものであり、図形化の訓練をするということはモデル化の訓練そのものと言ってよい。
  • モデル化、一般化するには、事象の本質を見抜くとともに、その本質とは関係のない枝葉の部分をばっさりと切り捨てて物事を考える習性が必要となる。
  • 分析をする際、「こんな顧客もいる」「あんな商品もある」といったごく少数の例外に注意が向いてしまったり、「十把一からげで考えるのは無理だ」「現実はそんなに単純でない」という話になって、いつまでも結論が出なかったという経験はないだろうか。スピード重視の時代にあって「単純に考える」ことの効用は大きい。ところが事象を単純に捉えるというのは実は非常に難しい
  • 真の地頭型多能人に求められるのは、500ページの調査報告書の内容を、①相手に応じて、②30秒で説明できること。だらだらと長時間、複雑な資料を説明するのは、実は何も「地頭力」を使っていないと思った方がよい。
  • 我々が直面する課題というのは、表面的には違った形に見えるが実は既に同じ原因やメカニズムで起こっているというのがほとんど。したがって「先人の知恵」を拝借することによって、一から問題を解決しなくても問題解決を図ることが可能。これを有効に実施する方法が「アナロジー」。
  • アナロジー、あるいは抽象化思考にあっては、「対象とする課題が特殊である」と考えた途端に思考停止が起こる。そのため、本当に特殊なのかをきちんと切り分けて考えて部分的にでも抽象化・一般化ができないか、他の事例や一般法則から学べることがないかと考えてみることが重要。心を開いて問題意識を持っていなければそれは見えてこない。

(2)フェルミ推定をビジネスにどう応用するか

  • 時としてスピードが品質より優先順位が高くなる(時間をかけて完璧なものをアウトプットしても意味がない)場合があることを理解する。そのために期限を区切って限られた時間を制約条件とした仕事をする癖をつける。
  • 情報収集の前に仮説を立てる癖をつける。仮説に従った情報収集を心掛ける。
  • 一歩引いて全体像を見る癖をつける。自分の視点でなく、自分を客観的に見られる視点に立つ。
  • 常に最終目的を達成することを意識する。そのための全体要素の中での自部門の役割を認識する。
  • まずは自分の置かれた状況が必ずしも特殊でないことを認識して他の世界から学んでいく姿勢を持つ。一般化や抽象化によって応用力を広げる意識をつける。

(3)地頭力のベース

  1. 論理的思考力:論理的とは「誰が見ても一貫してつながっていること」。ここで重要なのは「万人に理解される」ということで、「守り」のためのツール。
  2. 直観力:創造的に新たなものを生み出していくためのブレークスルーには必ず経験や知識に裏付けられた直観力が重要。「個人技」であり「攻め」のツール。
  3. 知的好奇心:大きく分けて①What型と②Why型がある。What型の人は情報や知識を吸収することが貪欲だが、それ以上に物事を考えない傾向もみられる。Why型の人は、自分の頭で考え、既存の状況を疑ってみる姿勢を持つ。
  • フェルミ推定を実践し、地頭力を鍛えるためのツールとして活用する最大の目的は「問題解決における基本動作の習得」にある。
  • 地頭型多能人の目指す境地は、「合理的に考えて感情的に行動する」領域。

3.教訓

頭の良さは、①記憶力(What思考)、②機転力(How思考)、③地頭力(Why思考)の3次元で示される直方体の体積で表現できる、と記載されています。

そのうち、記憶力については、従来は重宝されてきましたが、GoogleWikipedia等の登場で相対的重要性が低下しているのは、今のビジネスパーソンでは半ば常識になりつつあると考えています。

ただし、「今のお客さまの数は何社で、総契約数はどれくらい、そのうち●割がA商品」ということが頭に入っているのといないのとでは、契約変更や業務フローの改善などを検討するときに、議論のスタートラインが全く違ってきて、参加メンバー内で「あいつはわかっている」という信頼度にも響きます。

そのため、社内の目標管理や顧客管理に携わる立場としては、正確な数字は覚えなくてもいいですが、概数として把握しておくことが仮説を立てるにあたっての出発点やその後の展開を大きく左右することになるので、数字に強いということはこれからも一定のメリットであり続けるものと考えています。

そうはいっても、記憶力だけで将来食べていくのが難しくなるのも相応に真実であると思いますので、これからも現役戦力であり続けるために、本書の考え方を参考にし、フェルミ推定の具体的な問題に取り組み、地頭力を鍛えていきたいと強く感じました。

これまでの発想の仕方を転換するという観点で、非常に良本だと思います。

 

現代の経営(下) P.F.ドラッカー著


 

1.はじめに

先日は上巻を紹介しました。

 

bookreviews.hatenadiary.com

 

それに引き続き下巻も再読したので、こちらも印象的だった部分を引用していきます。

2.内容

(3)第Ⅲ部:マネジメントの組織構造

  • 組織は、それ自体が目的ではない。事業の活動と業績という目的のための手段である。組織の構造も手段である。間違った組織の構造は、事業活動を著しく阻害し、台無しにする。したがって、組織の分析は組織の構造から入ってはならない。事業そのものの分析から入ることが必要である。すなわち、組織の構造を検討するにあたって最初に問うべきは、われわれの事業の目標は何か、何でなければらないかである。
  • もしその機能別部門の内部に対してしか影響がないならば、意思決定は低い階層で行うことができる。そうでないならば、意思決定は、関係のある機能別部門すべてに対うる影響を検討できるだけの高い階層で行うか、あるいは影響を受ける部門の経営管理者と十分な協議のうえで行う必要がある。1つの機能、あるいは1つの領域におけるプロセスや成果の「最適化」は、他の機能や領域の犠牲のもとに行ってはならない。つまり「部分最適」であってはならない
  • 意思決定は、原則として、常にできる限り低いレベルの、現場に近いところで行うことが必要である。しかし同時に、意思決定は、常に影響を受ける活動や目標について十分考慮できる高さのレベルで行うことが必要である。
  • 組織の構造は、昨日の業績を守るのではなく、明日のための仕事の意欲と能力を育てるものでなければならない。同じように重要なこととして、組織の構造は、必要とされるマネジメントの階数の数を最小限とし、命令系統を最短とするものでなければならない。マネジメントの階層が1つ増えるごとに、共通の方向性や共通の理解が困難になっていく。目標を捻じ曲げ、関心の方向を間違えさせる。命令系統の中継点が1つ増えるごとに、緊張は増大し、余分な惰性や摩擦や弛緩がもたらされる。
  • 健全な組織は定義が困難である。しかし、不健全な組織の症状は指摘できる。組織の不健全さの症状の1つが、マネジメントの階層の増加である。あるいは、目標の貧困や混乱、無能な者の放置、権限の過度の集中、活動分析の欠如である。
  • 大企業や巨大企業は、経営管理者に対し、会社を生活の中心に据えることを期待している。しかし実は、「仕事オンリー」の人たちは視野が狭くなる。企業だけが人生であるために、企業にしがみつく。空虚な世界へ移らなければならない恐ろしい定年の日を延ばすあめに、自らを会社にとって必要不可欠な存在にしようとする。そのため若い人たちの成長を邪魔したりさえする。

(4)第Ⅳ部:人と仕事のマネジメント

  • IBMは成長したから不況時にも雇用を維持できたという言い方は正しくない。逆に、雇用の維持を約束したからこそ、IBMは成長した。この約束のせいで、IBMは新しい顧客と新しい用途を見つけなければならなかった。さらには、市場において満たされていないニーズを見つけ、そのニーズを満たす製品を開発しなければならなかった。
  • 人の一部を雇うことはできず、人全体を雇わなければならないからこそ、成果をあげるという人の能力の向上が、そのまま企業の成長と業績のための最高の機会となる。人的資源、すなわち人間こそ、企業に託されたもののうち、最も生産的でありながら、最も変化しやすい資源である。そして最も大きな潜在的な力を持つ資源である。
  • 人は他の諸々の資源とは異なり、働く働かないかについてさえ、本人が完全な支配力を持っている。独裁者はしばしばこのことを忘れる。銃をもってしても、本当の仕事を行わせることはできない。したがって、人的資源については常に動機付けが必要となる。生産性を決定するものは、働く人たちの動機である。
  • 個人の強み、主体性、責任、卓越性が、集団全体の強みと仕事ぶりの源泉となるよう、仕事を組織する必要があることを意味する。これは、組織にかかわる第一の原則である。事実上、これが組織の目的である。自己の成長が、自分自身や仲間にとっての脅威となるような状況は最悪である。
  • 人の「開発」は、他の資源のように外部からの力によって行われるものではない。それは人の特質の利用方法を変更したり、改善したりすることなどではない。人の「開発」とは成長である。そして成長は常に内から行われる。したがって仕事は、常に人の成長を促すとともに、その方向付けを行うべきものである。さもなければ、仕事は、人に特有の特質を完全に発揮させることはできない。
  • 企業は働く人たちに対し、単に肉体的な雑事を受け身的に引き受けるのではなく、企業の業績に対する責任を積極的に担うべきことを要求しなければならない。そして、まさにこの要求が大きいほど、人は正当な1日の労働さえ困難な状況において、要求に応えることが可能となる。なぜならば、要求が大きいほど大きなものを生み出すということこそ、人の特性だからである。人がものを生み出す力は、主としてその要求の水準によって決まる
  • 人は、学べば学ぶほど、学んだことを捨てることが難しくなっていく。すなわち、年ではなく経験が、学んだことを捨てることを難しくする。そしてその分、新しいことを速く学ぶことが難しくなる。働く人たちに求められる知識と技能の水準が高まるにつれ、学ぶ能力と学んだことを捨てる能力を身に付けることがますます必要になってくる。
  • 変化は、彼らの精神的な安定を明確かつ目に見える形で強化するものでない限り、抵抗を受ける。そもそも人は、脆弱にして制約されたはかない存在であって、その安全は常に不確実である。したがって、働く者に対し変化の能力を要求するためには、何よりも彼らが変化できるようにするための準備が必要である。
  • 人は自ら働くことを求める。マネジメントが直面する課題は、働く人たちの意欲を知り、彼らを参画させ、彼らの働きたいという欲求を引き出すことにある。
  • 計画と実行は、1つの仕事の2つの側面であって、2つの仕事ではない。この2つの側面を持たない仕事は、成果をあげることができない。計画の立案だけをすることはできない。仕事には実行の要素がなければならない。さもなければ成果をあげることはできない。夢を見ているだけである。計画と実行を別の者に行わせることは、食べることと消化することを、別の体で行わせるに等しい。
  • まとまりのある仕事を与えられず、要素動作だけを教えられるとき、学んだことを捨てる能力は増大するどころか減少する。そのとき働く人たちは、知識や理解でなく、経験や習慣だけを獲得する。さらにまた、計画するどころか知る必要もなく、単に実行しさえすればよいとするならば、あらゆる変化が理解不能なものと感じられ、心理的な安定に対する脅威を意味することになる。
  • 計画の能力を持つほど、仕事の責任を持つことができる。それだけ生産性も高くなる。言われたことしかできなければ、有害なだけの存在となる。
  • 1人であろうとチームであろうと、仕事を行うものは、その成果を自ら目にすることができなければならない。仕事は、それ自体1つの完結した部分である必要はない。しかし、段階としては完結したものであることが必要である。
  • 仕事は、仕事をしている者自身の働き方によってのみ、そのスピードやリズムが決められる必要がある。仕事は、その前段階の仕事のスピードによって左右されてはならない。また逆に、彼のスピードやリズムによって、次の仕事が影響されてはならない。
  • 一人ひとりの人間が、真のチームとして組織される必要がある。対立ではなく、協力のために組織される必要がある。そして個人としての仕事ぶりだけでなく、チームとしての仕事ぶりについても報奨の対象となる必要がある。チームの仕事は、一人ひとりの人間の能力と仕事ぶりが、個人とチームの双方の利益と結びつくように組織する必要がある
  • 人は何か、しかもかなり多くの何かを成し遂げたがる。そして通常、自分の得意なことにおいて何かを成し遂げたがる。能力が、進んで働こうとする意欲の基礎となる。したがって、人の配置は、あらゆる事業においてきわめて重要な要素である。特に高度の技術が必要とされる仕事においては、配置は決定的に重要である。
  • 誰か他の者が行うことについては満足もありうる。しかし自らが行うことについては、その行動と影響についての責任があるだけである。すなわち、自らが行うことについては、常に不満が無ければならず、常によりよく行おうとする欲求がなければならない
  • マネジメントの能力の有無は、まず第一に、仕事を中断することなく効率的に働けるようにすることができるか否かによって判定される。毎朝自分がメールを読み終わるまで部下を待たせ、午後にその時間を取り戻させるべく圧力をかける経営管理者ほど、コストを増大させる者はない。これらの計画性の欠如は、マネジメントに対する敬意を失わせる。働く人たちに対し、優れた仕事を要求されていないと思わせ、最大の努力をしようという気を失わせる。
  • 人は、誇れるものがあってのみ、本当に誇りを持つことができる。さもなければ偽りの誇りであって、心を腐らせる。人は何かを達成したときにのみ達成感を持つ。また、仕事が重要なときにのみ、自らを重要と感ずる。誇りや達成感や自己重視の基礎となるものは、自らの仕事についての意思決定や、自らの属する職場コミュニティの運営に対する積極的かつ責任ある参画だけである。

(5)第Ⅴ部:経営管理者であることの意味

  • 経営管理者は部分の総計を超える総体、すなわち投入された資源の総計を超える生産物を生み出す。組織としての真の総体を生み出すためには、経営管理者たる者は、そのあらゆる行動において、総体としての企業の成果を考えるとともに、多様な活動が相乗的な成果をもたらすように留意しなければならない。
  • 経営管理者は、2つの問いを一気に発する。その1つは、事業全体のいかなる成果の改善が必要か、そのためには個々の活動において何が必要かである。もう1つは、個々の活動のいかなる改善が可能か、その結果、事業全体のいかなる業績の改善が可能かである。
  • 経営管理者は部下を育成する。経営管理者は、マネジメントの仕方によって、部下の成長を容易にも困難にもする。彼は部下を正しく方向付けする。さもなければ誤って方向付けてしまう。部下の強みを引き出す。さもなければせっかくの強みを殺してしまう。部下への仕事への真摯さを強化する。さもなければ腐敗させてしまう。まっすぐ強くなるよう訓練する。さもなければ捻じ曲げてしまう。
  • 患者の切開部という狭い空間で糸を結ぶ能力だけでは外科医になれないのと同じように、目標を設定する能力だけでは経営管理者にはなれない。しかし、糸を結ぶ能力がなければ優れた外科医になれないのと同じように、目標を設定する能力がなければ一人前の経営管理者にはなれない。
  • 時間の使い方を知っている経営管理者は、計画を立てることによって成果をあげている。彼らは行動する前に考える。目標を設定すべきことについて、特に繰り返し発生する問題をいかに処理するかについて、体系的かつ徹底的に考えることについて多くの時間を使う。何度も同じ危機に直面する問題については、再発を防ぐために、原因を発見すべく時間をかける。時間はかかるかもしれないが、結局は時間の節約になる。
  • 経営者であるということは、親であり教師であるということに近い。そのような場合、仕事上の真摯さだけでは十分ではない。人間としての真摯さこそ、決定的に重要である。他から得ることができず、どうしても自ら身に付けていなければならない資質は、才能ではなく真摯さである。
  • 戦術的な意思決定は、常に一次元の問題である。状況は所与であり、満たすべき条件は既知である。問題は、既知の資源を最も経済的に利用する方法を探すだけである。重要な決定、すなわち大きな意味を持つ意思決定は、戦略的な意思決定である。それら戦略的な意思決定を行うには、まず状況を把握することが必要である。あるいは、状況を変えることさえ必要である。さらには、いかなる資源が存在するかを知ることが必要である。また、いかなる資源が必要かを知ることが必要である。
  • 戦略的な意思決定には5つの段階がある。問題の定義、問題の分析、複数の解決案の作成、解決策の選定、効果的な実行である。
  1. 問題の定義:一見して重要な要因が本当に重要であったり、あるいは関係があったりすることは稀である。それらのものは、せいぜい兆候にすぎない。しかも、最も目立つ兆候が問題のカギであることは稀である。したがって、意思決定において最初の仕事は、本当の問題を見つけ、それを明らかにすることである。
  2. 問題の分析:適切な意思決定を行うためには、あらゆる事実を把握することは必ずしも必要ではない。ただし、意思決定にどれだけの危険が伴うかを判断し、意思決定の結果としての行動にどれだけの厳密さ求められるかを判断するためには、いかなる資料が欠落しているかはあらかじめ知っておかなければならない。もちろん、情報の入手が不可能であれば、推測が必要になる。推測が正しかったか否かは、あとになってみなければわからない。したがって、意思決定についても、「優れた診断をする者は、正しい診断を多く行う者ではない。間違った診断を早く見つけ、ただちに改める者である」という医者についての言葉がそのまま当てはまる。
  3. 複数の解決案の作成:複数の解決案を考えることこそ、それまで当然のこととしてきた前提に光を当て、調べ、その有効性を調べざるをえなくするための唯一の方法である。もし問題を徹底的に検討していたなら気づいたであろう意思決定の誤りを防止してくれる。いかなる解決案があるかは、問題によって異なる。しかし、常に、いかなる行動もとらないという解決案は検討しなければならない。何の行動も取らないという意思決定によって、いかなる結果がもたらされるかを列挙することである。
  4. 最善の解決策の選択:慣行を変えなければならないときは、一歩ずつ慎重に、ゆっくりスタートし、初めのうちは絶対に必要なこと以外は行ってはならない。手に入る人材以上の能力が要求されるならば、それらの人材がより多くのことを行えるよう努力させるか、それらのことを行えるものに交代させる必要がある。意思決定の結果を実行すべき人間が全くいなかったり、必要なところにいなかったいるするために、紙の上ではうまくいくはずでありながら、実際には失敗してしまうようでは、問題を解決したことにはならない。
  5. 意思決定の実行:いかなる解決策といえども、実行に移されて成果をあげなければならない。解決策を実行に移すためには、その実行に当たるべき人たちが、自らの行動において、いかなる変化を期待されているかを理解していることが必要である。また、彼らとともに働くべき人たちの行動において、いかなる変化を期待すべきかを理解していることが必要である。
  • 経営管理者に特有の仕事の意味を真に理解することのできる者は、目標を設定し、人間を組織し、コミュニケーションを図り、動機付けを行い、仕事を評価し、人間を育成したことのある者だけである。そのような経験がなければ、経営管理者に特有の仕事として提示されるものも、抽象的で生命のない形だけのものとしか理解できない。
  • 実に新しい課題は、明日の経営管理者に対し、哲学をもってあらゆる行動と意思決定を行い、知識や能力、技能だけでなく、ビジョンや勇気や責任や真摯さをもって人を導くことを要求する。つまるところ、いかなる一般教養を有し、マネジメントについていかなる専門教育を受けていようとも、経営管理者にとって決定的に重要なものは、教育や技能でなく真摯さである。

3.教訓

邦題では「現代の経営」となっていますが、原題は「The Practice of Management」であり、現代という表現は含まれていません。その原書が発刊された”現代”とは1954年のことですが、70年近くたった本日でも、普遍の真理を教えてくれる良本です。

自身は経営管理層ではなく、中間管理職の身であっても心に響く部分は多く、自身がボトルネックになってはならず、自身が手の届く範囲に限った部分最適を目指してはならず、期待をかけて変化を求めねばならないことを意識しないといけないと思います。

上巻の「教訓」にも、「自身が示す方向性によって、個々人の能力や考え方、組織全体のパフォーマンスが上にも下にも行ってしまうことにつながるので、改めて身の引き締まる思いを感じました」と記載したことについて、さらに思いを強くしました。

また、巷では「無いものねだりをせずに今ある人材でパフォーマンスをあげることを考えるべし」という記載を見かけますが、本書では「人材以上の能力が要求されるなら、それができる者に交代させる必要がある」と記されています。

 

さすがに困難な課題であると感じたときには、人材の手当てもあわせてお願いするという選択肢があると思えるだけで、少し気分が楽になるように思えます。