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やめる 最良の人生戦略 ジュリア・ケラー著

1.はじめに

先日読んだ本でも、50代になって「やめる」「手放す」ことの重要性が強調されていました。読後、その影響もあって、使用機会がほとんどないにもかかわらず惰性で続けていた英語の勉強を思い切ってやめてみました。

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その体験が自分の中で強く残っていたこともあり、

やめる 最良の人生戦略

というタイトルを目にしたとき、「やめる」という行為をもう少し深く考えてみたいと思い、本書を手に取りました。

外国の自己啓発書にありがちな、似たような「やめる」エピソードが次々と登場します。ただ、それが単調で退屈になるのではなく、読み進めるほどに「自分も何かをやめてみたい」という気持ちがじわじわと膨らんでいく内容でした。

印象に残る箇所が多く、結果として引用がかなり多くなってしまいました。

2.内容

(0)プロローグ

  • おおまかに言えば、「やめること」は自分自身と未来に対する寛容な態度であり、自分自身に「これじゃない。今じゃない。後で、何か別のことをしよう」と語りかけること。
  • 今していることを手放し、方向転換して新しい行動を受け入れると、人生が劇的によくなることは多い。立ち止まって周りを見渡さなければ、同じ場所でつまずき続けることになる。それなのに、私たちは、その道が目的地に通じていなくても、惨めな思いをしていても、ただ同じ方向に進もうとする。
  • 人生の試練や苦難を乗り越えるには、粘り強さが必要だ。しかし、「どんな問題でも忍耐力があれば解決できる」と考えたり、忍耐力を発揮できない人を見下したりすると、自力ではどうにもならない問題で自分や他人を責めてしまうといった、悪しき結果を招きやすくなる。
  • やめるということは、選択を間違うかもしれない恐れに直面しながら、自分で人生の主導権を握ること。そして突き詰めれば、間違った選択などない。唯一の絶対的な間違いは、何も選択しないこと。何も選択しなければ、誰かに人生を決められることになるだけ
  • 困難は、必ずしも乗り越えなくていい。始めたことは、必ず終わらせなければならないわけではない。やめたいときにやめられれば、人生の可能性が広がる。やめることは、人生の豊かさを信じること。なぜなら、やめることは希望だから。

(1)やめられない それはただの思い込み

  • 動物たちは、人間とは違い「やめること」を道徳的な失敗と見なさない。やめたいという衝動に抵抗することは、勇敢でも高貴でもない。それは単に無意味なこと。人間と違い、他の生き物は忍耐の利点という抽象的な考えに縛られたりしたい。ある行動がうまくいかないとき、彼らはそれをやめる。
  • 人間の身体は、いつやめるべきかを教えてくれるようにできている。身体は強いストレスを感じると厳戒態勢に入り、サイレンや赤信号に相当する「やめる」というメッセージを脳に伝える。重要なのは、このような苦痛は肉体的なものだけではない。心理的なストレスも同様に強烈で、無視すると悲惨な結果につながり得る。人間も、やめなければ生き残れないかもしれない。
  • やめることで、新しい何かをするための時間とエネルギーが生まれる。今よりみっと有望なものに目を向けられるようになる。
  • 何かをやめるのは勇気がいるし、危険も伴う。うっとうしい上司にガツンと言い返したり、印象に残る捨てゼリフを吐いて嫌な職場からおさらばしたいと思ったことがない人はいないはず。でも、実際にそれを実行できる人はめったにいない。
  • やめるという大胆な行為を通して再出発を図る小説を読んで、主人公の行動に「なるほど!」と思うか、「あり得ない」と思うかで、あなたが人生をどの程度をどの程度自分の力でコントロールできると考えているかがわかるかもしれない。

(2)なぜ、「Quitting(やめること)」は悪い言葉になったのか

  • 実際には、やめることは、サミュエル・スマイルズの時代から根強く広まってきた世間一般の考えに抗い、自分の生き方を貫くことを意味する。「自助論」は、”やめること”を単なる選択肢からモラルに反する行動に変えた。このことは、人々の人生観に極めて重要な変化をもたらした。
  • 「やめてはいけない」というメッセージに耳を貸す必要はなく、むしろ戦略的にやめるのは英雄的な抵抗の示し方。人生には他人が定めた基準がたくさんある。でも、自分自身が定めた基準に目を向けることも大切。自分の考えを優先させて、他人から良い評価を得ている何かを途中でやめるのは簡単ではない。そのためには、相当の勇気が必要になる。「やめる」「後退」「軌道修正」。どれも人生の基本的な戦略。
  • 「やめること」を忌み嫌う必要はない。私たちが遠ざけるべきは、「やめること」につきまとうネガティブなイメージのほう
  • 自分がどんな道を進むか、他人がどんな道を進むかなんて、誰にもわからない。私たちはその手のことを眠れない夜に考えがち。「もしあのときこうしていたら、どうなっていただろう?」と。そして人々がこの種の自問をしているという事実それ自体が、私たちがなぜ物事をめったにやめないのか、そしておそらくはもっと頻繁にやめるべきなのか、を物語っている。
  • 私たちは、人生は偶然によって大きく左右されているという、あまり認めたくない事実から目を背けている。自分がどれだけ懸命に努力しても人生はどうにもならないと悲観的になるよりも、何か悪いことが起きたのは自分がまずい選択をしたからだと思う方がなっとくしやすいためだ。もちろん、他人のせいにできるほうがより望ましいことは言うまでもない。とはいえ、物事が偶然に左右されているのは疑いようのない事実
  • 自分にはどうにもならないことで思い悩む必要はない。代わりに、時間の使い方や気持ちの持ちようなど、自分の手でどうにかなることに意識を向ければいい。物事を手放すのはとても解放的。本当にそんなことに時間を使いたいの?って自問するだけで実現できる。

(3)「あきらめる」実践ガイド

  • ある場所でこれ以上学ぶことがなくなったのなら、次のステップに進むべきときかもしれない。そんなときに大切なのは、自分が何者なのか、人生やキャリアに何を求めているのかをじっくり見直すことであり、その日の仕事をさっさと片づけて1日を終わりにすることではない。いったん半やめすることで、新しい方向に進みたくなり、人生の選択肢の幅が広がる。
  • 私たちは皆、負けるとわかっていながら勝負を続けることがある。明らかにうまくいっていない状況でやめる必要性を感じたとき、誰もが2つの大きなハードルに直面する。1つは恐怖、もう1つは「サンクコストの誤謬」。怖いのは当然だ。これは人間にとって、未知の未来に対する極めて理にかなった反応。仕事をやめれば、収入だけでなく居場所も失う。仕事は、私たちのアイデンティティの大きな部分を占める。
  • 試行錯誤、無益な方法を捨て、有望な方法を探すために時間とお金と勇気を使うことを繰り返す。エジソンは、「やめること」が成功するためにどれほど重要かを理解していた。うまくいかない方法には見切りをつけ、もっとうまくいく方法を探し求める
  • 自分のキャリアについて誤った決断を下したことがあるだろう。だが、その決断を下した時点では、それが失敗するかどうかはわからなかったはず。あなたは、手元に入る情報に基づいて最善の判断をしただけ。成功するためにわざと失敗したのではない。そして、今後あなたがそのような決定を下す際には、「やめる」という選択肢があるということもどうか忘れないでほしい
  • 人は「やめる」という言葉を聞くと、この人はやめて1日中ごろごろするつもりだなと考えがち。だから「方向転換(ピボット)」という言葉を使うといい。方向転換とは、それまでしていたことをやめて、別の新しい何かを始めること―単にやめるのではなく、始めることも意味している。
  • SNSへの頻繁な投稿によって自己イメージをつくり上げていると、そのイメージに反するようなことをするのが難しくなる。自己イメージを守らなければという思いがプレッシャーになり、判断が歪んでしまう。本心や常識に従うのではなく、SNSでの反応を気にして行動を決める。自分ではなく、他人の目を基準にして物事を判断してしまう。
  • 組織や人間関係をやめれば、誰かと一緒に賑やかに過ごすことで得られる安心感や心地よさも手放すことになる。負担は減るが、孤独も感じる。やめることは、何かを手放せば終わりになるわけではない。やめた後には不安や戸惑いが生じる。慣れ親しんだ世界も失われる。もちろん、新しい世界に慣れていくことはできるが、最初のうちは戸惑いを感じるもの。自分の居場所を失えば、漂流する船になったような気持ちになる。
  • 何かをやめなければ、新しい何かが入ってくるスペースは生まれにくい。ひとりの人間が1日にできることは限られている。やめることで初めて、新しい自分になるためのエネルギーを十分に使えるようになる
  • 私たちは、やめるべきときになかなかやめられない。おそらくこれは、「やめること」が不当な汚名を着せられているからかもしれない。とはいえ、やめたことを長く後悔する場合があるのも事実
  • やめれば、今よりもよくなるという考えもあるだろう。でも、具体的などんなふうによくなるのかを考えているか?夢のような場所なんて存在しない。だから、「やめて、何をするんだ?」と尋ねる。やめることは、長い時間をかけて蓄積された問題を一瞬で解決できる解決策と誤解されがち。だが、問題が一瞬でつくなれたものではないのなら、その解決策も一瞬で実行できるものではないかもしれない。
  • 精神的につらい状況を積極的にコントロールするには、やめるという選択肢を持つことが欠かせない。こうしたつらい状況に対するには、まずは現状を認識して、現在の対処法がうまくいっているかどうかを判断し、もしうまくいっていないなら、別の対処策に切り替えることが求められる。
  • 「やめるべきか続けるべきか、方向転換すべきか我慢すべきか」で悩んだら、「私は、自分自身の考えに基づいて判断しようとしているのか? やめたら周りから白い目で見られるかもしれないことを恐れているだけじゃないのか? 自分が本当に望んでいることを選んでいるのか? それとも誰かの考えに従おうとしているだけなのか?」「もし、誰かに根性なしと呼ばれたとして、それで何か不都合はあるんだろうか?」と自問してみてほしい。
  • やめることは、人生を選ぶこと。生き生きとした人生を送るためには、思い切った飛躍が必要になることもある。今とは違う人生を想像できないのなら、よりよく生きようとすることを放棄しているようなもの。
  • 私たちがコントロールできるのは、決して完ぺきではない自分や他人を許すことだろう。人間は失敗する生き物だ。私たちは失敗し、何度も何度も物事をあきらめる。だが、大切な話はむしろここから始まる。私たちは、失敗し、あきらめてしまうからこそ、他人に共感でき、理解できる。この共感と理解こそが、本当の人生の物語。

3.教訓

最後まで読むと、「やめる」ことは、「もしうまくいっていないのであれば、(何でもいいから)違うことをせよ」という、ブリーフセラピーのルールの1つに通ずるものがあると感じました。

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また、やめられない理由として挙げられていた
「自分の判断軸ではなく、周囲からどう見られるかという他人軸に囚われている」  
という指摘も鋭いものです。続けることが美徳として刷り込まれている文化的背景があり、日本語には「継続は力なり」「石の上にも三年」「雨垂れ石を穿つ」など、継続の価値を称えることわざが数多く存在します。私たちは知らず知らずのうちに、「続けることこそ正しい」という前提を背負っているのだと思います。

しかし、自然界を見れば、うまくいかなければ「やめる」「方向を変える」のは生存のための当たり前の営みです。だからこそ、「やめる」ではなく「方向転換」という言葉を使うとよい、というアドバイスは非常に腑に落ちました。単なる放棄ではなく、より適した道へと舵を切る行為として捉え直すことで、やめることが前向きな選択になっていきます。

 

一方で、「やめる」という選択が簡単ではないのも現実です。

私自身、今の仕事を辞めたいと思ったことは何度もあります。しかし、子どもがまだ学生である以上、教育費をきちんと賄えるのかという懸念があります。さらに、どれほど長く生きることになるのかも分からず、老後資金が底を突くのではないかという不安も拭えません。辞めることで周囲からどう見られるかという心配はほとんどありませんが、再就職後の仕事内容や収入が保証されていないなか、思い切ったリスクを取れない自分がいるのも事実です。

それでも、思うようにいかないことがある、失敗することもある――そんな弱さを含めて自分を認められる人でありたいと思います。弱さを認められるからこそ、他者の痛みや迷いに寄り添い、共感し、理解できる。
その共感と理解こそが、著者の言う「本当の人生の物語」を形づくる大切な要素なのだと強く感じています。