1.はじめに
私はコピーライターでも、広告宣伝担当でもありません。
しかしながら、日常的に社内文書を書き、作業依頼メールを発信しているため、相手に届く文章とは何か、どうすればそのような文章が書けるのかは、常に関心があります。以前から積読本となっていたものを、長い年末年始の休みを読書に充てました。
事実、どんな本にも題名はあります。原題は"Tested Advertising Methods"で、これを直訳した「テストされた広告宣伝の理論」では、日本の一般読者の興味を引くのは難しいと思います。それを、「ザ・コピーライティング」という見出しを付けることで、何か読んでみたくなる気持ちを起こすことに成功していると思います。
結論として、広告業を本業とする方向けの内容が多かったのは確かですが、普通のビジネスパーソンでも活かせることは多いと感じ、特に印象的だった部分を以下に抜粋します。
2.内容
(1)見出しが命
- 見出しは肝心なテーマ。ビジュアルがどれほど目立っていようが、ほとんどの広告では見出しが決定的に重要。ほとんどの人が、見出しだけを見て、関心があるかどうかを判断している。新聞の報道記事や社説の見出しとまったく同じで、その続きを読んでもらうために大きな文字で印刷した、簡潔なメッセージ。
- 見出しがきちんとしていなければ、どんなに苦労して書いたコピーも何の役にも立たない。見出しに目を留めてもらえなければ、コピーがちんぷんかんぷんだって同じこと。見出しがよくなければ誰もコピーを読んでくれない。読んでもらえないコピーで商品は売れない。
- 読み手を引きつける見出しにしようと必死になるあまり、「手っ取り早くて簡単な方法」を強調しすぎて信頼性を失ってはいけない。信頼性を高める方法の1つは具体的な数字を入れること。
- 重要なのは何を言うかであり、どう言うかではない。意味のある内容を単刀直入に伝えるほうが、大して意味のない美辞麗句を連ねるより、相手の気持ちを動かす。
- 実際に頭の中で、どんな理由なら、この見出しを書いている自分が本当にお金を払って、その商品やサービスを購入するだろうかと考える。そして、その購買理由を短い言葉で表現する。それが見出しになる。
- 自分の判断だけを頼りにしてはいけない。偏っている可能性がある。自分で書いた見出しにあまりにも近すぎる。自分には完璧によくわかる見出しでも、他の人にはわけがわからないかもしれない。
- 人には物事のやり方を学びたいという気持ちがある。自分がやりたいことの方法が書いてある広告なら、熱心に読むもの。「○○する方法」という見出しの広告を出すと、問合せがたくさんある。
- 「アドバイス」という言葉が相手に伝えるのは、このコピーを読めばちょっと役に立つ情報がありますよ、ということ。見出しで何かを買えとは言わない。無料のアドバイスを知らせているだけ。当然ながら、興味をそそるお知らせ。こうして相手をコピーに誘い込んだら、そのなかでアドバイスだけでなくセールストークを交えればいい。
(2)訴求ポイント
- セックス、セックスアピール
- 欲:物であれ心であれ、お金で買えるあらゆるもの
- 不安:失う不安、手に入れたいものが得られない不安、あるいはその両方
- 義務感・自尊心・プロ意識:自分が得することではなく、自分の仕事を通じて接する相手にとって1番いいこと
- 以上4つの訴求はすべて、買い手にとって1番いいことに焦点を当てている。売り手にとって1番いいことに触れているものは1つもない。
- 広告で何よりも重要なのは訴求ポイント、つまり購入してもらう理由。見出しが重要と言うこれまでの説明と矛盾するように感じるなら、思い出そう。見出しと訴求ポイントはまったく同じもの。効果のあった広告では、訴求ポイントはまず間違いなく見出しで述べられている。
- 気づかれもしないキャッチフレーズや、好感であれ反感であれ思い出してもらえない広告のほうがダメな広告といえるかもしれない。「広告で最悪なのは、気づいてもらえないことだ」。
- 「コピーの読まれ方」の「方」という言葉に特に注目。詩の古典的定義、「適切な言葉を適切なところに」と同じく、広告でも、何を言うかと同じくらい、言葉をどこに置くかが重要。
(3)熱意を込めてコピーを書く方法/コピーの出だしはこう書く
- 熱意が冷める余地を与えない。これが、熱意を持って書く秘訣の1つ。もし何かにワクワクしたら、鉛筆を握るなりキーボードに向かうなりして、そのワクワクをその場で書き留めること。
- すべての説明文を「この物語は~」「この本は~」で始め、あとからその部分を削除するというもの。つまり、「この本は、思っていたよりもっと効果的なコピーを書く方法についてです」が、「もっと効果的なコピーを書く方法」となるわけだ。これは今でも、そしていつでもうまくいく。
- 効果的な冒頭部を書く3つの簡単なルール
- 短くする。冒頭部分が長いと、読む気が失せる。
- 見出しで言った内容を続ける。
- その商品を買って得られる1番の、あるいは複数の重要なベネフィットを短い言葉で伝える。1にも2にもベネフィット。何が得られるのか、その商品は何をしてくれるのか。それこそ人々が知りたいことであり、広告を読む理由。
(4)コピーの売込み効果を高める方法
- 広告で重要なのは、伝えたい内容が何であれ、相手に一瞬で理解させること。こちらに教養があるところを見せてただ相手に感銘を与えようとするだけの、ムダな言葉はひと言も許されない。
- 広告に携わる人なら誰でもこう言う。コピーで具体的に言うことがいかに重要か、と。たとえば、「97,482人がこの電化製品を購入した」と言うほうが、「約10万台この電化製品は売れた」と言うより説得力がある。1つ目のコピーは事実らしく聞こえる。読んだ人は、購入者の実際の数を厳密に正確に数えたのだと思う。2つ目は、たぶん誇張して言っている、と思われてしまう。
- 長いコピーと短いコピーの各支持者どちらも満足する解決策がある。簡潔なセールスメッセージを見出しと小見出しに入れる。詳しいメッセージをコピーに入れる。これで、次の2点が達成できる。①見出しと小見出しで、ざっとしか読まない人にも簡潔にメッセージが伝えられる。②商品に興味を持ち、もっと読もうとする人にはコピーで詳しく説明できる。
- 一般的にコピーは削るほど質が上がる。つまり、500ワードのコピーを書くスペースがあるなら、ただ500ワードのコピーを書くのではなく、まず1,000ワードのコピーを書き、それから500ワードに凝縮する。コピーはスープストックのようなもの。煮詰めれば煮詰めるほど、味わいが濃くなる。
- 脚色しようとしないこと。実際よりよく見せようとしているな、と相手が感じれば、その広告全体の信頼性が弱まってしまう。
- たいていの人の意見のやっかいなところは、甘すぎる点。この問題を解決する方法の1つは、コピーでも見出しでも1案だけを見せるのではなく、2案見せて、どちらのほうがいいと思うかを尋ねる。そうすれば相手は一方を褒め、もう一方の悪いところを言ってくれる。この方法なら相手の本音を聞くことができる。
- どの広告でも、説明するのはこれが最初で最後であるかのように書くこと。相手はその製品を以前何かの広告で見たことがあるはず、とあてにしてはいけない。どの広告でもすべてを説明すること。重要なセールスポイントを1つ残らず盛り込む。
- コピーが長くなる、もしくは文字が小さくなることをためらわないこと。大事なのは、そのコピーで関心を引けるかどうかだ。「伝えれば伝えるほどたくさん売れる」ことを忘れないように。
(5)どんなレイアウトとビジュアルが1番注目されるか
- 打ち込みにつながる3つの要素。ぎっしり詰まった文字のかたまりを目にすることほど、うんざりすることはない。
- 短い段落
- 短い文
- 短くてわかりやすい言葉
- 広告最大の役目は商品を売り込むこと。したがって、レイアウトやビジュアルを考える際、売込みが第1目的であり、芸術性は二の次。
- 目新しいことがない、発表するようなことがない場合でも、大きな文字の見出しにすることで、新情報らしい雰囲気を出すことができる。大きく扱われた言葉がその中で目立つので、読む人の目が留まる。目立たせた言葉だけでもきちんとメッセージが伝わる点に注目。そこが重要。単独ではメッセージが伝わらない言葉を強調しないこと。
- この本の目的は、広告をより科学的なものにするよう促すことにある。とは言え広告は決して完全にはなりえない。人間臭い要素が絡んでいるからだ。つまり、広告を通じて相手にしているのは人間の意識や感情であり、そうしたものはいつまで経っても、いくらかは不安定なものであり、計測できない。だからこそ、テストにテストを重ねる必要がある。小さい規模でテストするまでは、大々的に費用をかけないこと。
3.内容
自身が書き手(広告に限りません)だけでなく、広告などの発注者側の人にとっても非常に有用な内容と思います。400ページを超えますが、ぜひ手に取って全体を読んでいただきたい本です。
自分でも、できるだけ作業依頼文では、いきなり文章を書かずに見出し・小見出しをつけるようにしています。つまり、目次や見出しだけを拾えば、その文書の全体構成がわかることを意識しています。だらだらと書いても、何がポイントなのかわからないと考えているからです。
特に、作業依頼の場面においては、受ける側からしたら「また面倒な依頼が来た」と思うに決まっています。それを「これだけ読めば手順がわかる」「意外とめんどくさくなくできそう」「やらないといけない」と思ってもらうことが重要です。何よりも前に、”これが作業依頼のメールです”と気づいてもらえないことには何も始まりません。
また、長く書いて圧縮する、スープのように煮詰める、というのはよくわかります。自分でも、説明資料を準備する際には、分量を考えずにまずワーッと書きたいことを書いて、それをA4で1枚に収めるためには何を削るか、無くても伝わる表現が残っていないか吟味します。
本書に書かれた基本的な内容を、文章を書く際にはこれからも意識したいと思います。