管理職おすすめの仕事に役立つ本100冊+

現役課長が身銭を切る価値のあるのおすすめ本だけを紹介するページ(社会人向け)

群集心理 ギュスターヴ・ル・ボン著

1.はじめに

以前から興味がありながら、なかなか手が伸びなかった本です。

しかしながら、2022年11月に、NHKの100分de名著の再放送があったのでそれを視聴して、これは文庫本そのものを読みたいという思いに至り、購入しました。

個人的な、年末年始の課題図書です。

www.nhk.or.jp

どうもヒトラーの愛読書だったようで、番組中にもヒトラーが演説している映像が登場しました。

また、中国語の翻訳書のタイトルには「烏合の衆」と付けられているそうです。

いずれにしろ、影響力の大きさがよくわかる事例かと思います。

zh.wikipedia.org

2.内容

(0)序論

  • 唯一の重要な変化、文明更新の原因となるような変化とは、意見や意思や進行において行われる。真に記憶すべき事件とは、人間の感情の眼に見えぬ変化から生じる眼に見える結果を指す
  • 今日、群集は、以前の指導者たちが昨日まで認めずに、その破壊に力を貸してきた神々をもはや欲しなくなっている。いったい、河というものは、その源へ逆流しないもの
  • 群集は、もっぱら破壊的な力をもって、あたかも衰弱した肉体や市街の分解を早めるあのばい菌のように作用する。文明の屋台骨が蝕まれるとき、群集がそれを倒してしまう。群集の役割が現れてくるのはそのとき。かくて一時は、多数の盲目的な力が、歴史を動かす唯一の哲理となる。

(1)群集の精神

①群集の一般的特徴
  • 集団的精神のなかに入り込めば、人々の知能、彼らの個性は消え失せる。異質的なものが同質的なもののなかに埋没してしまう。そして、無意識的性質が支配的になる。
  • 群集においては、どんな感情もどんな行為も感染しやすい。個人が集団の利益のためには自身の利益をも実に無造作に犠牲にしてしまうほど感染しやすい。これこそは、個人の本性には反する傾向であって、人が群集の一員となるときでなければ、ほとんど現し得ない傾向。
  • 意識的個性の消滅、無意識的個性の郵政、暗示と感染とによる感情や観念の同一方向への転換、暗示された観念をただちに行為に移そうとする傾向、これらが群集の個人の主要な特性。群集中の個人は、もはや彼自身ではなく、自分の意思をもって自分を導く力の無くなった一個の自動人形
②群集の感情と徳性
  • 正確に物を見る働きが失われ、かつ現実の事象がそれと関係のない錯覚にとって代わられるためには、群集は多人数であるを要しない。数人の個人が集まれば、群集を構成する。そして、その個人が優秀な学者である場合でも、その専門外の事柄になると、群集のあらゆる性質を帯びる
  • 集団の観察は、あらゆる観察のうちで最も誤っており、かつ多くは単に感染によって他の者に暗示を与えた一個人の錯覚に過ぎない。
  • 群集の感情が単純で誇張的であることが、群集に疑惑や不確実の念を抱かせない。それはただちに極端から極端に走る。疑いも口に出されると、それがたちまち異論の余地のない明白な事実に化してしまう。反感は不服の念が兆しても、単独の個人の場合ならばさして強くはならないであろうが、群集中の個人にあっては、それはたちまち激しい憎悪となる
  • 事実、群集は根強い保守的本能を備えていて、あらゆる原始人のように、伝統に対しては拝物教的敬意を抱き、現実の生存条件を改めかねない新しい事実を無意識に嫌悪する。
③群集の思想と推理と創造力
  • そのときどきの偶然次第で、群集は頭の中に蓄えられている種々な思想のうちのある1つの影響を受けることになり、互いに全くかけ違った行為をも成すに至る。群集は、批判精神を全然欠いているから、その矛盾を認めることができない。
  • 思想は、極めて単純な形式を帯びた後でなければ、群集に受け入れられないから、思想が一般に流布するようになるには、しばしば最も徹底的な変貌を受けねばならない。ある思想が、群集の水準に達して、群集を動かすという事実だけで、その高級さ、偉大さが、ほとんどすべて失われてしまう。
  • 群集が正しく推理する力を持たないために、およそ批判精神を欠き、審議を弁別し、的確な判断を下す能力を欠いている。群集が受け入れる判断は、他から強いられた判断にすぎず、決して吟味を経たうえでの判断ではない
  • 群集は、心象(イマージュ)によらなければ物事を考えられないし、また心象によらなければ心を動かされもしない。この心象のみが、群集を恐怖させたり魅惑させたりして、行為の動機となる

(2)群集の意見と信念

①群集の信念と意見の間接原因
  • 人間が存在して以来2つの大事業とは、複雑な伝統を創造することと、ついで伝統の有用な効力が消耗したときにその伝統を打破すること。確固とした伝統がなければ文明はないし、またこれらの伝統を徐々に取り除いて行かなければ進歩はない。難しいのは、不動と変動の間に、適正な均衡を見出すこと。
  • 指導を誤れば、教育が有益となるよりもむしろ大いに有害になりかねない。青年は、小学校から学位を得るまで、ただ教科書を鵜呑みにするだけで、決して自分の判断力や創意を働かせない。青年にとって教育とは、暗唱と服従とを意味する。
  • 教育の危険とは、この教育を受けた者に自分の生まれながら身分に対する激しい嫌悪の念と、そこから逃れようとする強烈な欲望とを吹き込むこと。無用の知識の獲得は、人間を叛逆児に変える確実な方法
②群集の意見の直接原因
  • 道理も議論も、ある種の言葉やある種の標語に対しては抵抗することができない。群集の前で、心を込めてそれらを口にすると、たちまち人々の面はうやうやしくなり、頭を垂れる。言葉とは、心象を呼び出す押しボタンに他ならない。
  • 政治家の最も肝要な職責の1つは、古い名称のままでは群集に嫌悪される事物を、気受けのよい言葉、いや少なくとも偏頗のない言葉で呼ぶことになる。言葉の力は実に偉大であるから、用語を巧みに選択しさえすれば、最も忌まわしいものでも受け入れさせることができる
  • 幻想は、民衆にとって最も必要欠くべからざるものであるために、民衆は灯火に向かう昆虫のように、幻想を提供する修辞家のほうへ本能的に向かう。群集に幻想を与える術を心得ている者は容易に群集の支配者となり、群集の幻想を打破しようと試みる者は常に群集のいけにえとなる
③群集の指導者とその説得手段
  • ある数の生物が集合させられるやいなや、それらは本能的に首領、すなわち指導者の権力に服従する。群集は統率者無しには済まされぬ輩の集まり
  • およそ推理や論証を免れた無条件的な断言こそ、群集の精神にある思想を沁み込ませる確実な手段となる。断言は、証拠や論証を伴わない、簡潔なものであればあるほど、ますます威力を持つ。しかしながら、この断言は、絶えず、しかもできるだけ同じ言葉で繰り返されなければ、実際の影響力を持てない。
  • 意見や信念が伝播するのは、感染の作用によるのであって、推理の作用によることはあまりない。現在、労働者たちの抱く考えは、酒場で、断言、反復、感染の結果、形作られる。感染は、庶民層に作用したのち、社会の上層部にも及ぶ。
  • 断言、反復、感染によって伝播された意見が大きな勢力を有するのは、その意見が、威厳と呼ばれるあの神秘な力を遂に獲得するから。
  • 威厳は、常に失敗とともに消え去る。前日には群集が歓呼して迎えた英雄も、運命に叩きつけられるならば、翌日には同じ群集によって辱められる。それのみならず、かつての威厳が偉大であればあるだけ、その反動も激しい。

(3)種々な群集の分類とその解説

①群集の分類
  • いわゆる犯罪的群集の一般性質は、あらゆる群集に認められた性質とまさしく同じもの。すなわち、暗示を受けやすいこと、物事を軽々しく信じること、動揺しやすいこと、是なくの感情が誇張されること、ある型の特性が現れること。
②重罪裁判所の陪審員
  • 弁護士は、必ずしも陪審員全部の考えを変えさせる必要はなく、ただ一般の意見を決定すべき指導者級の人々のみを説き伏せればよい。あらゆる群集におけるのと同様に、少数の人が他の人々を誘導して行く。
③選挙上の群集
  • 候補者は、選挙人に途方もないお世辞を浴びせかけ、このうえもなく架空的な約束をもすることに躊躇してはならない。労働者たちの前では、その雇用主をどんなに罵詈中傷しようともし過ぎるということはない。反対派の候補者については、とんでもない破廉恥漢であって、幾多罪悪を犯した事実を知らぬ者はないということを、断言と反復と感染との手段によって人々の頭に植え付けて、相手を粉砕すべく努めねばならない。もちろん、その証拠らしいものを何ら探し求める必要はない
  • 口頭による綱領は、どんなに誇張してあっても差し支えない。どんなに重大な改革であっても、恐れはばからず約束することができる。将来もそのために少しも拘束を受けることはない。事実、その後になって、選挙人は、当選者が当初歓迎された声明、そのために当選したと想像される声明の通りに果たして実行したかどうかということなど、少しも意に介しない
  • 群集は、他から強制された意見を持つだけで、自ら考え抜いたうえでの意見を持つことはない。

3.教訓

これを読めば、以下のようなことが起こる理由・理屈がよくわかります。

本書は1895年に発刊されていますが、それから100年以上経った現代でも通じる内容です。逆に言うと、人類は技術的には相当進化しているけれど、心理的にはほとんど進歩していないのではないか、と考えてしまいます。

裏を返せば、悪用してはいけないのですが、本書に書かれていることをしっかり理解しておけば、これからの人生で役立つ場面が必ずあるのでは、と思います。例えば、以下のような内容(5つ挙げてみました)は、今でもビジネスの現場に通用します。

  1. 頭に残る短いフレーズ・キーワードを考えて繰り返し刷り込む
  2. 改善策のフォロワーになってくれる賛同者を見つける
  3. キーパーソンが誰かを見極めて、その人に向けたプレゼンを組み立てる
  4. 頭の中に具体的にイメージできるようなストーリーで説明する
  5. 理屈も大事だが、それ以上に感情に訴える

誰かが表明する意見に対して、後ろのほうに陣取って「そうだ!そうだ!」と声を上げるのは割と簡単です。

そうではなく、自分の意見を持ち、言葉を発し、チームや集団をリードする側に回らないといけないと強く感じる良書でした。

(昔と違って、ボイスレコーダーで録音されることもあるので、話すことばには気を付けないといけません。)