管理職おすすめの仕事に役立つ本100冊×2

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自分を変える方法─いやでも体が動いてしまうとてつもなく強力な行動科学 ケイティ・ミルクマン著 アンジェラ・ダックワース序文

1.はじめに

本書には表紙だけでなく、背表紙にまで、「アンジェラ・ダックワース 序文」と書かれています。

訳者なら書かれていることも多いですが、背表紙に序文の著者が書かれている本は結構珍しいのではないかと思います。

実際「GRIT やり抜く力」の著者として有名な方であり、以前に紹介したこともあります。

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本書の狙いは、人間らしい衝動を無くす方法ではなく、それを理解し、その裏をかき、そしてそれに逆らう代わりにできるだけ味方につける方法です。

2.内容

(1)いやでも「やる気」が出る 「フレッシュスタート」の絶大な力

  • 自分や他人の行動を変えるには、足を引っ張る古い習慣が無い「フレッシュスタート」の状態から始めれば、とても有利な立場に立てる。しかし問題は、真の「白紙状態」はめったに訪れないこと。私たちが変えようとする行動のほぼすべてが毎日の習慣になっていて、めまぐるしい日常生活に組み込まれてしまっている。
  • 人生の新たな章(新年・誕生日・引越・就職等)が始まるときは、自分の人となりや自分が抱えている問題などを表現するラベルが変化し、それとともに自分も変わらざるを得なくなる瞬間。そのラベルが、私たちの行動に大きな影響を及ぼす。
  • 自分を変えたいと思ったとき、環境を変えることによって、古い生活習慣や考え方を断ち切りやすくすることができる
  • しかし、誰もがフレッシュスタートから同じような利益を得るわけではない。順調な時の中断は、挫折を招くこともある。リセットは成績向上の機会になるが、成績がすでによい人たちにとってはむしろ害になる。たとえその中断が、小さな取るに足らないものだったとしても、大きな悪影響が及ぶことがある。
  • 新年の誓いを立てたアメリカ人の3人に1人が1月末までに挫折し、最終的に5人に4人が失敗する。それでも、打席に立たなければホームランは打てない。何しろ誓いを立てるたびに打席に立つことになる。行動変容を定着させるためには、何度もトライしなくてはならない場合が多い

(2)「衝動性」を逆用する 「つい動いてしまう」仕組みをつくる

  • 「誘惑バンドル」とは、有益/重要だが億劫なことをするときだけ、うしろめたい楽しみに浸ってよいことにする方法(頑張ったときの自分へのご褒美など)。行動変容への最も厄介な障害は、やるべきだとわかっているときの、目先の苦痛と面倒だ。
  • 目先の楽しみを求める欲求に抗うのではなく、欲求を味方につければいい。数々の研究が繰り返し明らかにしているように、意志力で誘惑から逃れようとするのではなく、よい行動をいますぐ楽しめるように変える方法を考えることが得策。遠い先に大きな見返りが得られるというだけでは、やる気は続かない
  • 「誘惑バンドル」は一石二鳥。誘惑への過度なのめり込みを減らしながら、長期的な目標に役立つ活動に費やす時間を増やすことができる。

(3)また「先延ばし」した? 自分を「最低な強度」で縛る

  • 先延ばしの防止に関して言えば、「アメ」をぶら下げることは解決策の一つでしかない。誘惑に駆られることが初めからわかっている場合、悪しき衝動のせいで最善の行動ができなくならないよう、あらかじめ対策を講じる。
  • いくら経済理論の鉄則に反していようと、自分に制約を課すコミットメント装置は天の恵みのような方法。自分のためになることを冷静に考えられるときに行った選択に自分を縛り付けることによって、よりよい行動をとることができるし、その後も誘惑を避け続けることができる。
  • 心理学には、人が自分の中で矛盾する認知(情報)を抱えるときに感じる不快感を示す、「認知的不協和」という考えがある。だが、認知的不協和は、行動をよい方向に変えるツールとして役立てることもできる。自分や他人に誓約を求めることによって、認知的不協和を、目標達成の助けになるペナルティに変えることができる。
  • 世の中、自分の衝動性を自覚し、それを抑制する手段を講じようとする「賢明タイプ」ばかりではない。多くの人が、自分だけは自制の問題を乗り越えられると過信している「単純タイプ」。
  • コミットメント装置を受け入れようとしない人が多いのは、それが必要でないからでもなく、ペナルティを負うリスクを嫌うからでもなく、その価値を過少評価し、それがどんなに必要かがわかっていないから。

(4)「合図と計画」ですぐ動ける 「合図付きの計画」という最高の味方

  • 記憶は時間の経過とともに、ほぼ指数関数的に失われる。そして平均的な人がつねに把握していなくてはならない仕事や雑事は、驚異的な数に上る。
  • すぐに対策を取れるタイミングで与えられれば、リマインダーははるかに大きな効果を発揮する。午後にやるべきことを朝にリマインドしても、ほとんど効果はない。
  • 計画実行のきっかけとなる合図が、詳細で具体的なために気づきやすいものであるほど効果が高い。詳しい計画を立てるには、時間と手間がかかる。そして、何かを考えることに時間と手間をかければかけるほど、そのことは記憶に深く刷り込まれる
  • どんな種類の合図を使うのであれ、「実行計画に合図を付けること」がうっかり忘れ問題の素晴らしい治療薬になる。どんな合図でも無いよりはいいが、意表を突く合図を使うのが一番。行動の最中に奇抜なものに出くわせば、注意という限られた資源の一部をそこに向けられる。
  • 合図付きの計画のよいところは、自分ひとりでできること。単に「いつ」「どこで」「どうやって」を考えるだけでいい。

(5)「怠け心」を出し抜く 「怠惰なおかげ」で続くようにすればいい

  • デフォルト(初期設定)が賢く設定されていれば、利用者は指一本動かさずに最善の決定を下すことができる。効率性を好む人間の性質のおかげで、ほとんどの人がデフォルトの選択肢を選ぶ。賢明なデフォルト設定が大きな成果を生む。
  • 退屈そうに聞こえるかもしれないが、習慣を身につけるには反復練習が欠かせない。ある行動を一貫した環境で何度も繰り返し訓練し、そのたび何らかのよい結果が得られれば、体が勝手に動くようになることが多い。
  • 安定したルーティンを形成することは、習慣づくりにとって重要。だが「最も定着性の高い」習慣を身につけようと思ったら、予期せぬ出来事が起こった時に対処できるように、柔軟に対応する方法を学ぶ必要もある。融通性のなさは、よい習慣の敵になる。
  • 理想的な環境だけで練習していると、より柔軟な方法で磨かれた習慣ほど有益で安定した習慣は身につかない。
  • 人間の将来の怠惰から生じるすべての問題を解決するのにうってつけの方法はデフォルト。習慣化して「設定しっぱなし」にできるなら、どんな行動変容もごく簡単に生み出せる。

(6)「自信」の異様な力 心だけでなく体も変えてしまう

  • 実行できないのは知識がないからではなく自信がないから。「自己効力感の欠如」と呼ばれる状態。変われないと思っている人は変わることができない
  • 人はたとえ他人の行動に他意がなくても、そこに隠された意味を読み取ろうとする傾向がある。私たちは他人に助言を与えることによって、「私はあなたが自力で成功できないと思っている」というメッセージを、心ならずも送っているかもしれない。
  • アドバイスを求められた人は、自分はもっとできると期待されていると感じ、自信が持てるようになる。また、誰かに教えを乞われると、私たちは「自分に役立つこと」を教える傾向にある。そして、その助言が与えたあと、自分自身でもそれを実行しなければ偽善に思える、「話したことを信じる効果」がある。
  • 困難に突き当たったら、視点を入れ替えてみる。「もし友人や同僚が同じ問題に苦しんでいたら、自分はどんな助言ができるだろう?」。この視点から考えれば、自信と知恵を持って同じ問題に立ち向かえるようになる。
  • 小さな失敗のせいで自信がガタ落ちになり、もう絶対成功できないと思い込んでしまう。たまのやり直しを自分に許すことにすれば、避けられない挫折に遭遇した時にも自信を失わずにいられるかもしれない。

(7)「同調する力」を利用する 「みんな」の強烈な影響力

  • 他人の決定は、何らかの重要な情報を反映していることもある。意識的にであれ無意識的にであれ、社会の規範は社会的な不快感を感じたり制裁を受けたりしないために同調しなければという圧力を生み出し、その結果、私たちは「同調する」ことを好ましく感じるようになる。
  • 一緒に過ごす仲間が、往々にして人々の行動に生涯を通じて影響を与えている。私たちの成績からキャリア、お金にまつわる決定までのすべてが、少なくともある程度は仲間の影響を受ける。
  • 「偽の合意効果」という用語は、「自分がこう考え行動するから、他人もそうするに違いない」と思い込んでしまう人間の一般的な傾向を表している。だがもちろん、現実世界は私たちが想像する世界よりずっと奥が深く、客観的現実には多様な考え方や行動、知識が存在する。
  • 何らかのやり方がよくわからないときは、身近な人たちが実際にそれをやっている様子を観察して、「こうすればいいのか」と納得すれば、そのやり方を理解し、自信を持ってできるようになる。実際、人は助言よりも、自分の目で見たことにより大きな影響を受ける
  • 私たちは、自分と親しく、似たような状況にある人々の行動に、たとえその行動を直接観察せずただ説明されただけであっても、影響を受けやすい。社会的圧力は、きわめて不道徳なことを人に行わせる手段にもなりうる。社会的圧力が強制力になることに気を付けなくてはならない。
  • 社会的影響を活用するためには、お手本になる人たちと後押しを必要とする人たちとの格差が開きすぎてはいけない。自分の限られた才能では活かしきれないことを悟って絶望するだけかもしれない。
  • 他人の成績を知ることがモチベーションとして機能するのは、自分も簡単にまねできると思える場合だけ。持続的な努力が必要とされる目標を目指しているときに、同僚にはるかに後れを取っているという現実を突きつけられると、心が折れてしまうことがある。
  • ほとんどの人は、友人や隣人、同僚に、善良で勤勉で成功している人に見られたいと思っている。だから自分の行動が周囲に可視化されると、「よい」ことをしたいという強力な誘因が働き、また自分の評判を汚すような「悪い」行動には強力な抑止力が働く。他人によい行動を促すには、ほめられることを好む人間の心理を利用すればよい
  • 何らかの行動が広く行われていなくても、拡大傾向さえあれば、その情報を知らせることによって参加を促すことができる。拡大傾向は、今は規範ではない行動が、いずれ「みんながやっていること」になるというシグナル

(8)最後に いつまでも変わり続ける

  • 人生が変わるような行動変容を達成するのは、発疹というよりは慢性病の治療に近い。治療を始めたからといってすぐに治るわけではない。それらは人間につきものの性質で、不断の警戒が必要。
  • いったん取り組みが終わってしまえば、自分や他人がもとの状態に逆戻りし始める、また取り組みが早く終われば終わるほど、大きなリバウンドが予想されるのを覚悟しておいたほうがいい。
  • 壁に突き当たって前進できないときは、自分を責めるのではなく、一歩下がって大局的に状況をとらえ直す。ほとんどの目標は、さらに大きな目標に到達するための一手段に過ぎない。例えば体力向上がよい大きな目標なら、ジム通い以外にもそれを達成する方法は他にいくらでもある。

3.教訓

本書ではダニエル・カーネマン氏や、キャロル・ドゥエック氏など、過去の研究が紹介されている部分もあって、これまで読んだ本と関連付けながら理解することもできました。

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本書では、「人間には一般的にこういう性質があるので中止しましょうね」、という部分に留まらず、「だからそれを逆手にこうしていけばうまくいくこともありますよ」、という示唆があり、多くの学びや気づきを得ることができました。

中には、以下のように既に実践できている内容もあって、確かにそうだなと納得する部分も多く読み進めることができました。

  1. 確定拠出型年金で、マッチング拠出をして自身の掛け金を上乗せ(給与から天引き)し将来に備える。
  2. 将来の予定をスマホアプリ”TimeTree”に登録して、当日直前にリマインド表示されるようにしている
  3. 所属メンバーが外部セミナーに出席したら、その内容をチーム内にフィードバックするように促し、講義内容を定着化させる

また、アドバイスが相手の自信を奪ってしまう、あまりに高い期待値を示すと自分にはできないと考えてしまうなど、逆効果となる事例も学ぶことができます。

自分の考え方を変える観点だけでなく、今後の人材育成やチームビルディングにも活用できる良書としておすすめしたいと考えています。