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ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? ダニエル・カーネマン著

1.はじめに

いわゆる「行動経済学」の内容です。

著者は、2002年にノーベル経済学賞を受賞していて、最近では、システム1・システム2という表現を目にする機会も増えてきたように感じます。

人間は、必ずしも合理的に行動するわけではなく、感情などの非合理性な部分に基づく行動を取ってしまいます。

背表紙には、「はたしてあなたは合理的に正しい判断を行っているか、本書の設問はそれを意識するきっかけいになる」と書かれています。

まずは上巻にて印象に残った部分を挙げ、下巻の紹介は別の機会に実施します。

2.内容

(1)2つのシステム

  • システム1」は自動的に高速で働き、努力は全く不要か、必要であってもわずかである。また、自分の方からコントロールしている感覚は一切ない。
  • システム2」は、複雑な計算など頭を使わなければできない困難な知的活動にしかるべき注意を割り当てる。システム2の働きは、代理・選択・集中などの主観的経験と関連付けられることが多い。
  • システム1の能力には、動物に共通する先天的なスキルが含まれている。すなわち人間は、周囲の世界を感じ、ものを認識し、注意を向け、損害を避け、クモを怖がるように生まれついている。一方、先天的でない知的活動は、長年の訓練を通じて高速かつ自動的にこなせるようになる。
  • あなたのシステム2が考えたり行動したりすることの大半は、システム1から発している。だが物事がややこしくなってくると、システム2が主導権を握る。最後の決定権を握るのは、通常はシステム2である。
  • システム1にはバイアスもある。システム1の欠点の1つは、スイッチオフできないこと
  • システム2はのろくて効率が悪いので、システム1が定型的に行っている決定を肩代わりすることはできない。私たちにできる最善のことは妥協に過ぎない。失敗しやすい状況を見分ける方法を学習し、懸かっているものが大きいときに、せめて重大な失敗を防ぐべく努力することだ。そして、他人の失敗の方が、自分の失敗より容易に認識できる。
  • システム2に備わっている決定的な能力は、「タスク設定」ができること。作業をうまくこなせるよう注意力をセットするのにも、実行するのにも、努力が必要。しかし何度もやれば必ず上達する。このようにタスク設定を導入し完了するプロセスを「実行制御」と呼ぶ。
  • システム2に困難な要求を強いる活動は、セルフコントロールを必要とする。そしてセルフコントロールを発揮すれば、消耗し不快になる。認知的負荷とは異なり、自我消耗に陥ると、モチベーションがいくらか低下する。あるタスクにセルフコントロールを大いに発揮すると、もう他のことに努力したくないという気になる。
  • 馴染みの印象を形成するのはシステム1であり、システム2はこの印象に基づいて正誤の判断を下すことになる。認知しやすいかどうかの印象に基づいて判断していたら、系統的な錯覚は避けられない。連想記憶マシンをスムーズに動かす要因は、例外なくバイアスを生む。誰かにうそを信じさせたいときの確実な方法は、何度も繰り返すこと。聞き慣れたことは真実と混同されやすい
  • 問題なのは、印刷が鮮明だとか、韻が踏んであって覚えやすいといった、内容とは無関係の理由からも認知が容易だと感じ、しかもその感覚が何に由来するのか、簡単には突き止められない。ほとんどの場合、怠け者のシステム2はシステム1の提案を受け入れ、そのまま突き進む。
  • 単純接触効果は、何か見せられたことに気づかないような場合ですら効果は認められ、結局は一番頻繁に見せられたものほど好きになる。この効果は生物学的に見て極めて重要な意味を持っている。新たな刺激に対しては慎重に反応し、場合によっては逃げ出す必要があるが、単純接触効果が起きるのは、刺激に反復的に接していても、何も悪いことが起きなかったため
  • 悲しいことを考えた被験者は、直感的な作業を全く正確にこなせなくなってしまった。気分は明らかにシステム1の働きを左右する。不機嫌な時や不幸な時、私たちは直感のきらめきを失ってしまう
  • システム1はだまされやすく、信じたがるバイアスを備えている。疑ってかかり信じないと判断するのはシステム2の仕事だが、しかしシステム2は時に忙しく、だいたいは怠けている。実際、疲れているときやうんざりしているときは、人間は根拠のない説得的なメッセージに影響されやすくなるというデータもある。
  • ストーリーの出来で重要なのは情報の整合性であって、完全性ではない。むしろ手元に少ししか情報がないときの方が、うまいことすべての情報を筋書き通りにはめ込むことができる。「自分の見たものがすべて」となれば、辻褄は合わせやすく、認知も容易になる。
  • システム1は、プロトタイプあるいは代表的な例のセットでもって、あるカテゴリーを代表させる。このため平均はうまくあつかえるが、合計は苦手だ。

(2)ヒューリスティクスとバイアス

  • 少数の法則:標本サイズが大きければ、小さい場合より正確である。標本サイズが小さいと、大きい場合より極端なケースが発生しやすくなる
  • アンカリング効果:ある未知の数値を見積もる前に何らかの特定の数値を示されると、この効果が起きる。これは、実験心理学の分野では極めて信頼度と頑健性の高い結果で、あなたの見積もりはその特定の数値の近くにとどまったまま、どうしても離れることができない。
  • アンカリングを生む心理的なメカニズムは、大半の人を好ましくないほど暗示にかかりやすくしてしまう。そこで、当然ながら、このだまされやすさに付け込もうとする輩や、実際にそれをやってのける輩が多数出現する。もし、相手が途方もない値段をふっかけてきたと感じたら、大げさに文句をいい、憤然と席を立ち、そんな数字をもとに交渉を続ける気がさらさらないことを示す。
  • チーム内に各自の自己評価に従ったら貢献度の合計が100%以上になってしまうことを示すだけで、問題が解消することがよくある。あなたはもしかすると、自分に配分された報酬以上の貢献をしたのかもしれない。だがあなたがそう感じているときは、チームのメンバー全員も同じ思いをしている可能性が高い。このことは、誰もが肝に銘じておくべきである。
  • 自己評価は、具体例を思い出すたやすさに左右される。たやすく思い出せたという感覚は、思い出せる例の数より強力なのである。改善点を多く挙げるように指示したクラスほど、講座に高い評価を付けた。
  • リスクの定義:リスク評価は計測方法次第で変わってくるのであり、その計測方法の選択は、結果の選考やその他事情に左右される可能性がある。したがって、リスクを定義することは権力を行使することに他ならない
  • メディアが競って刺激的な見出しを打つにつれて、危険はどんどん誇張されていく。高まる一方の恐怖感や嫌悪感を和らげようとする科学者や評論家はほとんど注目されず、されたとしても敵視されるだけ。危険が過大評価されていると口にしようものなら、「悪質な危険隠し」とみなされかねない。こうして問題が国民的関心事になると、政治家の反応は市民感情の強さに左右されるようになり、利用可能性カスケードが政策の優先順位を変えるに至る。
  • 無価値の情報は、その情報が全く無いものとして扱わなければならない。ところが「自分の見たものがすべて」になるせいで、この原則を守ることは困難になる。受け取った情報を直ちに却下するのでない限り、あなたのシステム1は手元の情報を正しいものとして自動的に処理するからだ。情報の信頼性に疑念を抱いたときにあなたがすべきことはただ一つ、確率の見積もりを基準値に近づけること。ただし、この原則を守るのは生易しいことでなく、自己監視と自己防御にかなりの努力を払わなければならない。
  • 平均への回帰:教官が訓練生を誉めるのは、当然ながら訓練生が平均をかなり上回る腕前を見せたときだけ。同様に教官が訓練生をどなりつけるのは、平均を大幅に下回るほど不出来だったときだけ。したがって、教官が何もしなくても、次は多かれ少なかれマシになる可能性が高い。つまりベテラン教官は、ランダム事象につきものの変動に因果関係を当てはめただけ
  • たくさんの著名な研究者が、単なる相関関係を因果関係と取り違えるという誤りを犯していた。回帰は研究を邪魔する厄介者であり、経験豊富な研究者は十分な根拠ない因果的推論をしないよう、厳に戒めている。
  • システム1は、手元情報から作り出せるストーリーの筋が通っているときほど自信を持つので、ごく当然のように自信過剰な判断を下す。直観は極端に偏った予測を立てやすいものだと肝に銘じ、直観的予測を過信しないように気を付けること。平均回帰を理解するには、システム2を重点的に訓練する必要がある。

(3)自信過剰

  • ハロー効果:ある人のたった一つの目立つ特徴についての判断に、すべての資質に対する評価を一致させるよう仕向けるのがハロー効果。ハロー効果は、「よい人間のやることはすべてよく、悪い人間のやることはすべて悪い」という具合に、評価に過剰な一貫性を持たせる働きをする。そこで、講釈も単純で一貫したものになる。
  • 人間の脳の一般的な限界として、過去における自分の理解の状態や過去に持っていた自分の意見を正確に再構築できないことが挙げられる。新たな世界観をたとえ部分的にせよ採用したとたん、その直前まで自分がどう考えていたのか、もはやほとんど思い出せなくなってしまう。
  • 実際にことが起きてから、それに合わせて過去の自分の考えを修正する傾向は、強力な認知的錯覚を生む。後知恵バイアスは、意思決定者の評価に致命的な影響を与える。評価する側は、決定に至るまでのプロセスが適切だったかどうかではなく、結果が良かったか悪かったで決定の質を判断することになる
  • 妥当性の錯覚:何らかの判断に対しては主観的な自信を抱いているだけでは、その判断が正しい可能性を論理的に示したとはいえない。自信は感覚であり、自信があるのは、情報に整合性があって情報処理が認知的に容易であるからに過ぎない。必要なのは、不確実性の存在を認め、重大に受け止めること。自信を高らかに表明するのは、頭の中で辻褄の合うストーリーを作りましたと宣言するのと同じことであって、そのストーリーが真実だということにはならない。

3.教訓

これまであまり意識はしていませんでしたが、文字にして改めて見ると、自分が合理的でない判断をしてきたことや、自分の考えが直近の情報に惑わされていることは多いと考えます。例えば、

  • 疲れていると、あまり考えずにOKを出してしまい、後で後悔することがある。
  • 他の人が頑張っていることも考えず、自分のボーナスの額に少しがっかりする。
  • たまたまうまくいったことを、自分の実力と勘違いし、同じことが再現できると思ってしまう。
  • 新しい建物が立った時、その前に何が建っていたのか全く思い出せない。
  • ニュースを見てから、自分も予想できたと思ってしまう。

自分のことではありませんが、選挙カーで候補者の名前を連呼するのも、コロナ禍でメディアが極端な事例を取り上げるのも、客観的な目線では理解できます。

自分の判断は周囲から影響されていることを意識することを忘れないようにしたいと思います。

 

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