管理職おすすめの仕事に役立つ本100冊×2

課長経験者が身銭を切る価値のあるのおすすめ本だけを紹介するページ(社会人向け)

多動脳 ADHDの真実 アンデシュ・ハンセン著

1.はじめに

「ADHD」

私が子どもの頃は、そんな病名はありませんでした。

しかしながら、そういう傾向の人がゼロだったかというと、決してそんなことはなく、そういう人もいた、ただそう呼ばれていなかった、それでも大きな問題としては扱われていなかった。ただそれだけのことだと思います。

自分が親になり、学校公開に行くと、それっぽいなと感じる子はいます。小学校の入学式で落ち着きがないなと思っていた子は、その後、筑付から東大理Ⅲに入ったと聞きました。まさに、帯の、”その「弱点」が「能力」になる!”の実例と感じました。

以下では特に印象に残った部分に限って、引用して紹介していきます。

2.内容

  • そもそも人間の本質を一言で言い表せるわけがない。背の高い低い、内向的なのか外向的なのか―。ほとんどの人はどのグラデーションでも極端に濃くも淡くもなく、真ん中辺りにいる。それに「一般的にはこうだ」という話をしてもあまり意味がない。ADHDだからといって全員が同じではない。ADHDではない人が1人として同じではないのと一緒で、人間はたった1つの診断名で説明がつくほど単純な存在ではない
  • すぐに気を取られない人の方は重要ではない情報を排除するのが得意で、ウサギやライオンには気づけなかったかもしれないが、先生の話には集中できる。こうして2人の立場は入れ替わった。サバンナでは”強み”だった特性が教室やオフィスでは”問題”になる
  • ADHDが”強み”だったと考えるにはもっと基本的な理由もある。実に無慈悲なもので、今ADHDと呼ばれる特徴が害にしかならなかったらその人たちは生き延びていないし、子孫を残して遺伝子を伝えることもなかっただろう。そうなるとADHDの人は次第に消えていく。あるいは厳しく選別され、かなり珍しい存在になっていたはずだが―、そうなってはいない。
  • ADHDの学生はブレインストーミングに優れているが、ここで興味深いのはロジックに重きを置いた創造性テストでは結果が良いどころか悪い場合が多かったこと。1つの解釈としては、ADHDの人はそうでない人に比べて思考が抑圧されておらず思考の流れにストップをかけないので、ブレーンストーミングの際には”強み”になるが、ロジカルな局面では足かせになってしまう
  • ADHDは注目を向けている対象が広いことが多い。他の人よりも細かく、周囲で何が起きているかを認識している。邪悪な音や要素を排除するフィルターを持たず、珍しいアイデアも排除しない。つまりリーキー・アテンション(注意力が漏れやすい)を持っている。
  • ADHDにはじっとしていられない、リスクを恐れない、権威や伝統にひれ伏すことがないという特徴がある。既存のルーチンや仕事の作業手順がうまく機能しない時にも「でも今までそうしてきたから」では納得せず、よりよい方法を探そうとする。既存のものに疑問を呈する、じっとしれいられない、リスクを厭わない、他の人がやっていることを当たり前だと思わない―そういった特徴はまさにクリエイティブな人の特徴でもあるだろう。
  • ADHDの人はよく「集中力がゼロかマックスかのどちらか」だと言う。ADHDの場合、好きではないことで人より秀でることはなかなかないだろう。モチベーションが湧かないからだ。しかし情熱を傾けられるものを見つければ100%全力投球できて、抜きんでるための条件が揃う。ADHDの”強み”の1つであるハイパーフォーカスを活かすことができる。
  • 誰しもある程度ADHDの傾向があり、それが”強み”にも”弱み”にもなり得る。その中で運動が”弱み”をカバーする存在になる。ADHDは高い可能性で遺伝性、つまり遺伝子によるものだが、環境も関わっている。ADHDになる可能性が高い状態で生まれてきても、実際に傾向が強まるかどうかは育つ環境による―そこで運動がADHDになりにくいように守ってくれる。運動をすることでより創造性豊かになれる。つまり”弱み”を治しつつも、”強み”が犠牲になることはない
  • 現在でも狩猟採集社会に暮らす部族の遺伝子を調べると、一部の人は”ADHD遺伝子”を持っているが、全員ではない。この傾向は世界中で見られるので、一部の人しかその遺伝子を持たないというのは偶然ではない。全員が衝動的で多動だと、かえってうまくいかないということ。社会が機能するためには忍耐強く秩序立てて考えられる人や長期的な計画を立てられる人も必要で、全員が衝動に従って行動していてはだめ。

3.教訓

誰にでも、少なからず “ADHDっぽさ” はあるものだと思います。

この本を読みながら、「今の時代に生まれていたら、もしかしたら自分も診断されていたのかもしれない」と感じる内容もありました。そして、人類がここまで発展してきた背景には、ADHD的な特性が欠かせなかったこと、さらにはイノベーションを生み出す力としても活かされてきたことなど、多くの学びがありました。

わが子についても、「ちょっと落ち着きがないな」と思う瞬間はあります。ただ、それはその子の個性であって、今さら“いい子”になってほしいわけでも、なれるわけでもありませんし。そもそも世の中で言われる“いい子”だけが成功したり幸せになったりするわけでもないはずです。

本書の冒頭「日本の読者の皆さんへ」には、「ADHDの人だけに向けた本ではない」と明記されています。“さまざまな個性がグラデーションの中に存在している”という考え方は、ADHDに限らず、私たち一人ひとりに当てはまるものです。私自身にも凸凹があります。個性とは何かについて、改めて見つめ直すきっかけにもなりました。
多くの気づきと視点を与えてくれる、とても良い一冊でした。

アサーション・トレーニング さわやかな<自己表現>のために 平木典子 著

1.はじめに

アサーション、アサーティブについては、一度以下の本でも紹介しました。

bookreviews.hatenadiary.com

今は、心理的安全性が低い組織に所属し、なかなか自分の意見を言うのが難しい状況のなか、改めて平木さんのことばでアサーションについて勉強しようと思い手に取りました。

改めて「アサーティブ」とは、「自分も相手も大切にした自己表現」です。

読んだものが古い版で、最新版とは表現が違う部分もあろうかと思いますが、特に印象的だったところを以下で紹介していきます。

2.内容

(1)アサーションとは

①非主張的自己表現
  • 自分の気持ちや考え、信念を表現しなかったり、しそこなったりすることで、自分から自分の言論の自由(人権)を踏みにじっているような言動をいう。
  • 非主張的な言動をした後は、「自分はやっぱりダメだ」といった劣等感や、「どうせ言っても分かってもらえないに決まっている」といったあきらめの気持ちがつきまとう。また、相手に対しては、「人の気も知らないで」といった恨みがましい気持ちが残る。
②攻撃的な自己表現
  • 自分の意見や考え、気持ちをはっきりと言うことで、自分の言論の自由を守り、自分の人権のために自ら立ち上がって、自己主張してはいるが、相手の言い分や気持ちを無視、または軽視して、結果的に相手に自分を押し付ける言動をいう。
  • それは、相手の犠牲の上に立った自己表現・自己主張であり、自分の言い分は通っても、相手の気持ちを害したり、相手を見下したり、不必要に支配したりすることになる。
③アサーティブな自己表現
  • 自分も相手も大切にした自己表現。自分の人権である言論の自由のためには自ら立ち上がろうとするが、同時に相手の言論の自由も尊重しようとする態度がある。アサーティブな発言では、自分の気持ち、考え、信念などが正直に、率直に、その場にふさわしい方法で表現される。
  • このような言動は余裕と自信に満ちており、自分がすがすがしいだけでなく、相手にもさわやかな印象を与える。また、相手は大切にされたという気持ちを持つと同時に、二人の努力に対して誇らしい気持ちを持つだろう。また、アサーティブな人に対して尊敬の念を覚えるだろう。

 

  • 多くの人は、誰か特定の人との関係とかある種の特定な状況で、アサーションができなくなる。ある人に対してはきちんと言えるのに、同じことでも他の人には言えないとか、状況によって言えたり言えなかったりする。それは、長い間につくられた特定の行動パターンが、習慣化されてしまっている。
  • 自分の言いたいことが伝わるかどうかばかりを気にして、結果に気を奪われているとき、つまり失敗を恐れているとき、アサーティブにはなれない。自己表現で重要なことは、言いたいことが伝わるかどうかではなくて、自分の気持ちが適切に言えるか否か。なぜなら、「伝わる」ということには自分の伝える行為と相手の受け取る行為の両方がかかわっている。
  • アサーションの原点は、アサーション権。葛藤が起こったとき、どうするかに迷ったとき、「自分がやりたいことを言うことは人権として許される」というところに立ち戻ることができれば、そして相手もそのアサーション権をもっていることを受け入れるならば、次の段階に進むことができる。

(2)人権としてのアサーション

  1. 私たちは、誰からも尊重され、大切にしてもらう権利がある。私たちは、誰でも欲求を持ってよいし、その欲求は、他の人の欲求と同じくらい大切にしてほしいと思ってよい。そして、その欲求を大切にしてほしいと頼んでもよい。お互いに一致することの方が少ないこと、だからお互いの希望を述べ合う権利を大切にし、相互の確認をして、歩み寄ろうとする覚悟が必要。
  2. 私たちは誰もが、他人の期待に応えるかどうかなど、自分の行動を決め、それを表現し、その結果について責任をもつ権利がある。あなたがそれをしようと思えばやればいいし、自分で決めたのだから、できる限りでそのことに責任を取ればいい。自分で決めたことだから、責任は取らなければならないのではなく、取れる。
  3. 私たちは誰でも過ちをし、それに責任をもつ権利がある。失敗してはならないという前提でものごとを進めると、責任を取ることが義務になる。成功の可能性が保証されていない、義務としての責任が伴うことはしたくないのが当然。失敗はしてもいい、そしてそのことに責任をもってもいい、という人権があるから、私たちは、逆に成功するまで試行錯誤ができるのではないか。
  4. 私たちには、支払いに見合ったものを得る権利がある。自分の支払いに対して見合ったもの、働きを要求してもよいが、相手にも失敗する権利がある。したがって、その権利を認めるならば、相手を尊重したアサーティブな要求が何よりも大切。
  5. 私たちには、自己主張をしない権利もある。時間のロスを考えるとアサーションに値しないと思ったとき、あるいは、アサーションすることが身の危険につながると考えられるときは特に、アサーションしない権利を使うことができる。ただ、そこで大切なことは、その権利を使った後、相手を恨まないこと。

(3)考え方をアサーティブにする

  • 「人に好かれるにこしたことはないが、必ず好かれるとは限らないし、まして、好かれなければならないことはない」。もし好かれないことがあっても、まず、それは自分の問題なのか、相手の問題なのかを考えること。自分が問題であれば自分を変えてもよいし、変えないで好かれないことを選んでもよい
  • 失敗を少なくし、なるべくよい成績を出そうとすることは望ましいこと。しかし、常にそうでなければならないことはなく、自分のできることをする、それを自分のしたこととして評価していい。完璧だけが人の評価を決めるわけではなく、やりたいことをやり、できたことを喜ぶ心をもちたいもの。
  • この世には、気質の違った人、好き嫌いや考え方、気持ちのもち方の違った人が生きているのだから、自分の思い通りにならないことの方が当たり前。「過去と他人は変えられない(E・バーン)」。今からの人生を変えることはいつでもできる。
  • 傷つけまいと必死になるよりも、傷つけてしまうことがあり得ることをいつも心にかけ、その時の後始末の方法を身に付けることが大切。また、自分が傷ついたときには、そのことを穏やかに相手に伝え、再びそんなことが起こらないように努力してもらうお願いをすればいい。そこで、相手を責めたり、非難したりすることはない。

(4)アサーティブな表現

  • 人と話をしたり、一緒に何かをしようとすることは、自分を知らせることであり、それなしにはことは進まない。人間関係には自分を開くことが不可避。コミュニケーションは、伝えていないことも含め、コミュニケーション。
  • 話のうまい人は、自分を相手に知らせることに躊躇がないのはもちろんのこと、それに加えて無料でも情報を出し、おまけを付け加えるのが上手。つまり、要求された答えをするだけでなく、質問に関連したことや自分の関心のあることを付け加えて、相手と共有できる領域を広げようとしているのがわかる。
  • 問題解決のためのアサーションとは、会議の場、話し合いで何かを決めたり課題を達成したりする場におけるアサーションのこと。このような場合はきちんとステップを踏んで、台詞づくりをすることが必要。そのステップを「DESC法」を使って紹介する。
  1. describe:描写する(客観的、具体的に)
  2. express, explain, empathize:表現する、説明する、共感する(主観的に)
  3. specify:特定の提案をする
  4. choose:選択する

(5)言葉以外のアサーション

  • 喜怒哀楽などの感情は、誰にでもあるものであり、それを表現してはいけないということはない。誰でも、どの感情も、表現してよい。したがって、大切なことは、自分のさまざまな感情をどのように表現するか、必要以上に相手に脅威や不愉快な思いを与えないで伝えれるか、そして、どのようにして相手の感情をきちんと受け取るようにするかということ。
  • まず大切なことは、自分が怒りを感じていることに気づき、認めること。そして、それは他ならぬ自分が起こしていること、したがって非難すべきは誰もいないことを確認する。怒りは他者の言動がきっかけで起こっているかもしれないが、自分がそれを気に入らなかったり、不満に感じるときに起こる気持ち。したがって、怒りを感じたら、自分が怒りの所有者であることを認め、だから自分でどうにかできると考える
  • 相手の怒りの気持ちを否定しない。「そんなに怒ることはない」とか「怒るのはよくない」といった対応は相手を大切にしたことにはならない。
  • 相手の気持ちを受け止めると同時に、自分の気持ちを伝えることも大切。「怖い」とか、「動揺している」とか、「ちょっと待ってください」など、自分の防衛的な気持ちを表現することが必要。通常の人間関係では、「弱さ」を見せた場合、さらに攻撃されることはめったになく、多くの場合、立ち止まってどうにかしようと建設的になるもの。

3.教訓

ただ自分の言いたいことを押し通せばいいわけではなく、相手への配慮を踏まえたうえで発言することが大切だと感じています。

また、自己主張はあくまで「権利」であって「義務」ではないため、主張しないという選択肢も尊重されるべきものです。

そもそも、対人関係である以上、すべてが自分の思い通りになることはありませんし、相手に好かれようとして無理に自分を変える必要もありません。

今回の学びを通して、改めて多くの気づきがありました。一方で、あらゆる場面で常にアサーションを発揮することは、現実的には簡単ではないとも感じています。

それでも、できる範囲から少しずつ実践の幅を広げていきたいと思います。特にDESC法では、いきなり自分の意見を強く主張するのではなく、まずは客観的な状況を丁寧に伝えるところから始めることを意識していきたいです。

schoo.jp

 

解決志向ブリーフセラピー 森俊夫・黒沢幸子 著

1.はじめに

カウンセリングを資格試験のためだけに表面的に学ぶと、どうしても用語暗記に終始してしまいます。しかし、それでは実務に活かすことが難しく、資格取得後も継続して学び続ける姿勢が欠かせません。そのためには、技法に焦点を当てた書籍に触れ、1つひとつの技法の背景や意図を丁寧に理解していくことが重要だと感じています。

また、こうした知識は「これからカウンセリングを始めますね」という場面だけに役立つものではありません。日常の何気ない会話や、ちょっとした相談を受けるときにも、学んだ技法が自然と活きてきます。カウンセリングを学ぶことは、普段のコミュニケーションそのものを豊かにしてくれるのだと実感しています。

そして、学習を進める中で必ず出会うのが「ブリーフセラピー」です。試験対策として一度触れたものの、本書を通じて初めて、“解決”とは何か、“コンプリメント”とは何かを、より深く理解することができました。

ここで言う解決とは、「新しく何かが構築されること」なのです。「より良き未来の状態を手に入れること」と言ったほうが正確かもしれません。より良き未来の状態が手に入った場合には、たいてい問題も解決しているでしょう。いずれにせよ、Problem solving(問題解決)ではなくて、Solution building(解決の構築)なのです。

そして、中心哲学は以下の3つのルールからなっています

  1. もしうまくいっているのなら、変えようとするな
  2. もし一度やって、うまくいったのなら、またそれをせよ
  3. もしうまくいっていないのであれば、(何でもいいから)違うことをせよ

以下では、重要なポイントについて書き留めていきます。

2.内容

①発想の前提1:変化は絶えず起こっており、そして必然である

  • 「人間って、変わらないよね」って多くの人が言います。でも、この言葉自体が、変化を妨げるのです。もっとも大事なのは「あなたは変わりますよ」です。

②発想の前提2:小さな変化は、大きな変化を生み出す

③発想の前提3:解決について知るほうが、問題と原因を把握するよりも有用である

  • 心の問題で原因を特定することはとても困難だし、仮にいくつかの原因が特定されたとしても、その原因を取り除くことは、多くの場合、ほとんど不可能。
  • 問題というのは、しばしばつくられるものです。最初は何もなかったところに、少なくとも問題と言わなくてもよかったものに「問題」という名前をつけ、その感覚が共有されていくうちに、どんどん「問題」は大きくなり、本当の「問題」をつくってしまったのです。問題なんて見つけようと思えば、どこにだって転がっているし、何にだって「問題」と名付けることができます。

④発想の前提4:クライエントは、彼らの問題解決のためのリソース(資源・資質)を持っている。クライエントが(彼らの)解決のエキスパート(専門家)である

  • クライエントがリソースを持っていないケースなど1つもない。私たちが彼らの問題解決の専門家なのではなくて、彼らが自分たちの問題解決の専門家だということです。私たちが専門家であるはずがありません。だって、私は彼じゃないのですから。
  • 援助は必要かもしれません。でも、「援助を受ける」ということもリソースなのです。「人から援助を受ける力を持っている」ととらえることができるわけですから。このように、リソースとしてとらえるからリソースとして見えてくるし、リソースとして見えてくれば、使うこともできるのです。
  • SFA(Solution-Focused Approach)では、面接を全部で5つのステップで考えている
  1. クライエントーセラピスト関係の査定(アセスメント)
  2. ゴールについての話し合い
  3. 解決に向けての有効な質問
  4. 介入
  5. ゴール・メンテナンス(解決の維持・発展)

(1)ステップ1:クライエントーセラピスト関係の査定(アセスメント)

  • 初回面接で介入までやってしまうのです。ですから、初回面接はすごく忙しい。悠長にインテーク面接なんかしている暇はない! 私たちは「面接は立ち合い勝負」とよく言ってます。立ち合いがうまくいけば、あとは放っておいてもうまくいく。立ち合いでミスすると、取り返すのは大変です。
  • 何でもいいから見つけてほめる。SFA用語では、これを”コンプリメント(compliment)”と呼びます。コンプリメントというのは、相手のやっていること、あるいは相手の考えなどに対して「あっ、それはいいね。それはすごいね」というように「評価し、賛同すること」です。「敬意を表す」という形をとることもありますし、場合によっては「労をねぎらう」という形にもなります。
  • 絶対にほめなくてはいけない点は、「クライエントが来てくれたこと」です。特にビジター・タイプ(ニーズや問題を表明しない)の関係の場合、これを怠ると面接は失敗します。
  • コンプレイナント・タイプ(不平不満)の関係で出す観察課題は「他者・状況に関する”例外”探しの観察課題」です。「例外」というのはSFAのキーワードの1つで、「既に起こっている解決の一部」がその定義です。例外をどんどん探していって、それをどんどん広げていって、解決を構築していくのです。観察課題のときでも、観察する対象は必ず外の問題、つまりクライエント以外の人や物にします。自己観察を入れてはいけません
  • 確かに、周囲に問題があると訴える人のほうに問題があるのかもしれません。しかし、解決志向ブリーフセラピーにとって重要なことは、「何が正しいか」ではなくて「何が役に立つか」なのです。
  • カスタマー・タイプ(やる気まんまん)の関係の場合、「そうですか。大変ですね。お話をおうかがいしました。じゃあ、次回」と、行動課題まで行かないで、共感・受容・傾聴だけで対応したら、たいていのクライエントは欲求不満を持って部屋をあとにすることになります。カスタマー・タイプの場合は、初回面接で行動課題をきちっと出す。「初回面接はインテーク、情報収集」と決めているセラピストがいますが、それはセラピスト側の都合です。

(2)ステップ2:ゴールについての話し合い

  • 要するに、「何がゴールなんだ」ということを話し合っていくわけです。このあたりが解決志向ブリーフセラピーと従来の心理療法との一番違うところでしょう。解決志向ブリーフセラピーでは、今の話が終わったら、過去の話は必要最小限にとどめて、すぐに未来の話に特化する

  • 夢と目標は違う。夢は大きく、目標は小さく。夢は、たとえば北極星のようなもの。一生航海していたとしても北極星に着くことは絶対にない。北極星との距離はまったく変わっていない。そこには着けないんだけれども、それは私たちに方角を示してくれるという点で、とても大事なものである。
  • それに対して、目標は小さく、すぐそこに見えるもの。到達したものがわかるもの。たとえば、歩いているときの電信柱みたいなもの。夢や北極星に当たるのが解決像、ソリューション・イメージで、目標や電信柱に当たるのがゴールです。
  • 良いゴールのための3つの条件
  1. 大きなものではなく、小さなものであること
  2. 抽象的なものではなく、具体的な、できれば行動の形が記述されていること
  3. 否定形ではなく、肯定形で語られていること
  • しばしば、旗を立てようとするときに、遠くに旗を立てがちですが、ゴールというのは、ゴールテープを切ってなんぼのものです。私たちがクライエントに得てほしいのは、「成功体験」です。確実に成功できる水準にゴールを仕立てることが仕事です。
  • 人間は、過去から現在の時間の流れの延長線上に未来時間イメージを抱き、それはほとんど一本道で、そのイメージにとらわれて生きている。現在の自分の行動を拘束している最大のものは、自分の持っている未来時間イメージなのです。この枠というのは、ものすごい力を持っています。
  • 「必然的進行」を引き出す「タイムマシン・クエスチョン」。漠然と「20歳になったら、大学生をやっていると思う」と答えてもらうのではなく、「こんな顔をして、こんな表情で、こんなファッションで、こんな雰囲気で、こんなことをしている」ということをありありと語ってもらいます。ビデオトークと呼ばれますが、スクリーンに映し出されている、その映像を見ているかように語ってもらうのです。

(3)ステップ3:解決に向けての有効な質問

①ミラクル・クエスチョン
  • 「眠っている間に奇跡が起こり、解決が起こっている。そうすると翌日は(要するに解決したあとの1日は)どんな様子をしているのか」。これがミラクル・クエスチョンの骨子です。
  • ミラクル・クエスチョンの意図というのは、解決像=ソリューション・イメージを構築することです。そして、解決像はできるだけ具体的につくっていきたいのです。もう1つ大事な作業というのは、「差異」を見つけるということ。たとえば、「今日まではこうだった。ところが、明日になったらこうなっている。どこがどういうふうに違うのか」という質問を、どんどん投げかけていきます。
②「例外」探しの質問
  • 「例外」というのは、要するに「例外的に、うまくいっているとき・うまくやれていること」のことです。とにかくそれをどんどん見つけていきたいのです。何もないところから何かを生み出そうとしているのでも、何もないからこちらから与えようとしているのでもありません。その人が忘れていたり、価値が無いと思っていたりするかもしれませんが、既にあるもので解決に役立つ「かけら」を探すお手伝いをするという発想です。
  • 相手の話を聞いているときに、常に「例外は何か?」ということを頭に置いておくと、自然に相手に関心が持てるようになり、自然に質問が出てきます。相手に自然に関心を持つ態度って、面接でとても大切です。
  • 解決志向ブリーフセラピーでは、問題の原因探しはしませんが、うまくいっていることや例外の原因は、しつこいくらいに聞いていきます。
③スケーリング・クエスチョン
  • たとえば、「1番いときの状態を10点として、最悪の状態を0点としたときに、今、何点ですか?」とか「そのときは何点でしたか?」という質問です。
  • ただ、数字の絶対値にこだわってはいけません。2点だと言われたときに、「あぁ2点か」と落ち込むのではなく、「その2点分って何なの?」という具合に、0点と2点の差についてたずねるのです。
  • 「あと〇点は何が足りないの?」という聞き方は、聞く方向が逆です。解決志向ではなく問題思考になっています。何があるかではなく、何が足りないかに焦点を当てているわけです。解決の方向に向かって聞いていくのです。
④治療前変化を見つける質問
  • 本人が「良くなってきたんです」と言えば、「ああ、良かったですね。どんなふうに良くなってきていますか?」というのが普通の対応でしょう。まず「治療前変化というものがある」という前提に立って、「どうですか? 予約の電話をいただいてから今日まで、何か変化がありましたか?」と質問してあげる。質問することによって、「あっそうか。1週間前と今日とでは、確かにいろいろなことが違うな」ということにクライエントが気づくことにできたりします。
  • 「このときは調査用紙にこう書いてあったけど、今どう?」という聞き方で入るのがポイントです。解決の状態にまで行っていなくても、何かが動き出していることが多いですから、その動き出していることを取り上げていくことがすごく大事です。
⑤コーピング・クエスチョン(サバイバル・クエスチョン)
  • この質問は、クライエントを囲む状況が悲惨と言ってもいいくらい大変なとき、ポジティブな面を引き出していくのがちょっと困難だとこちらが感じるときにするものです。
  • その状況が大変だということにジッと共感し、それを受け止める。「大変ですよね」ということをちゃんと相手にフィードバックして、「それでも投げ出さずによくやってこられた。いったどうやって投げ出さずにやってこられたのですか」とコーピング(coping)、つまり「どうやって対処してきたか」をたずねるのです。
  • コーピング・クエスチョンの中にはコンプリメントを入れていくのが効果的です。大変な状況にある人は、こちらがどんなにコンプリメントを入れても、「でも、まだだめなんです。全然できていないんです」と言い続けます。それでも、その方ができてきること、役に立っていることすべてに、根気よくコンプリメントを入れていきます。大変な状況には、コンプリメントが必要なのです。

(4)ステップ4:介入

  • 介入にはさまざまな方法がある。
  • 「プリテンド・ミラクル・ハプンド」は、「奇跡が起こったかのように振る舞う課題」です。「次に面接に来られるまでのあいだの1日あるいは2日を選んで、その日はあたかも奇跡が起こったかのように振る舞ってみてください。そうしたら、どんなことが起こるか、まわりの反応やあなた自身の内的なものも含めて観察して、次回報告してください。」 この課題は、ものすごくパワフルです。しばしば、その1日だけじゃなく他の日にも奇跡が起こり、劇的に改善する場合が多いのです。

(5)ステップ5:ゴール・メンテナンス

  • クライアントが「ここの部分は、ほんのちょっとだけ良くなった」という話をしてくれたら、すかさず「へぇ、すごい。そんなことが起こったんですか」とコンプリメントを入れて、「何をやったらそうなったんですか?」と意図的例外を聞き出し、「それ、いいですね。またやってみませんか。続けてみましょうよ」とドゥ・モア課題を出します。そうやって面接を続けて、クライエントがゴールに到達したと感じたならば、そこで面接は終わります。
  • 毎回「どうなればよろしかったんでしたっけ?」「治ったときって、どういうときのことを言うんでしたっけ?」という話をやっているケースもあります。ゴールは1回立てればそれでいいというわけではありません。良くなってきていればいいのですが、「うまくいってないな」という感じでしたら、毎回「ゴールは何だ」という話を展開し続けていきます

3.教訓

実際、図2(2)に示されているように、多くの心理療法は「過去の経験や出来事が現在の状態をどのように形づくったのか」を探り、そこから対処法を考えていくアプローチが中心だと思います。しかし、本書を読むことで、ブリーフセラピーはその時間軸や視点、アプローチ方法がまったく異なることを理解できました。

ゴールとは何か、夢とはどう違うのか、ゴールに向かうために何が役立つのか、そしてどうすればゴールテープを切ることができるのか――こうした問いに対して、新たな学びが次々と得られました。

中でも特に印象に残ったのが「コンプリメント」です。これまでは「ほめる」「労う」といった表面的な理解にとどまっていました。しかし本書では、どのような場面でどのように伝えるのかが豊富な事例とともに示されており、「あぁ、こんなところまで評価するのか」と腑に落ちる瞬間が何度もありました。
さらに、コンプリメントの方法は決して一律ではなく、カウンセラー自身のキャラクターに合った自然なスタイルでよい、自分に合ったコンプリメントの仕方を見つけていってほしい、という記述にも励まされました。
単にカウンセリング理論の一つを理解するだけでなく、物事の捉え方や対話の姿勢そのものにまで影響を与えてくれる、非常に印象深い一冊でした。