管理職おすすめの仕事に役立つ本100冊×2

課長経験者が身銭を切る価値のあるのおすすめ本だけを紹介するページ(社会人向け)

一番大切なのに誰も教えてくれない メンタルマネジメント大全 ジュリー・スミス著

1.はじめに

原題は、"Why has nobody told me this before?"です。

直訳すると、「どうして今まで誰も教えてくれなかったのでしょう?」となり、これだけでは何が書かれているのかわからず、日本の書籍にはなかなか無いネーミングです。

それが「一番大切なのに誰も教えてくれない」につながり、「メンタルマネジメント大全」と名付けるのだから、よく考えられていると感心しきりです。

この本は、心の健康を保つためのツールがぎっしり詰め込まれた、「一生使える道具箱」だ。(中略)その時々で必要なページを開き、有益なツールを見つけてほしい。

以下では、特に印象的だった部分を引用して紹介していきます。

2.内容

(1)気分が落ち込むとき

  • 落ち込んでいるときには、周囲の人に励ましや安心感を求める。それらが得られないと無意識のうちに、相手は自分のことをよく思っていないと決めつける。それはバイアスであり、最悪の自己批判につながりやすい。調子が悪く、辛いと感じているとき、視野は狭くなりがち。他者の考えや見方を推測しにくくなり、他者の価値観が自分のものとは違うことを忘れがちになる。このバイアスは、心のつながりを傷つけ、人間関係にひびを入れる恐れがある。
  • 落ち込んでいるときには、完璧な決断ではなく、より良い決断を下すことを目指そう。より良い決断は、わたしたちを望む方向に進ませてくれる。もっとも、その歩みはゆっくりでいい。落ち込んだ気分は、わたしたちが何もしないことを望む。だから、小さくても何か前向きなことをすれば、望む方向に向かう健全な一歩になる。
  • (そうしたくなくても)人と一緒にいて、その人たちのことを観察し、交流し、つながりを築くことは、気分を高め、頭の中から抜け出て現実の世界に戻るのに役立つ。気分の落ち込みから這い上がろうとしてもがいているときには、自分を孤立と孤独へ押し流す激流に逆らって泳がなければならない。人と会う気になるまで待ってはいけない。行動が先だ。そうすれば気分は後からついてくる。

(2)やる気が出ないとき

  • やる気は自然に生じるものではなく、行動によって生じさせる必要がある。何もしないでいると、心は燃料切れになり、無気力や「めんどくさい」という気持ちがいっそう強くなる。
  • モチベーションをくじく1つの要素は失敗への恐れ。ちょっとしたミスをしただけで自分を激しく批判したり攻撃したりすると、羞恥心や敗北感を覚えるようになる。また、失敗に価値を認めないと、新しいことを始めるのが億劫で、先延ばししがちになる

(3)辛い感情にとらわれているとき

  • 感情は敵でもなければ味方でもない。辛い感情にとらわれている人は、脳の歯車が少しずつずれているわけでも、繊細すぎるわけでもない。感情とは、周囲の世界と体内で起きていることを理解し、意味づけしようとする脳の試みにすぎない
  • ネガティブな感情を区別する概念や言葉が乏しい人は、ストレスを受けると落ち込みの度合いが激しい。感情を区別する言葉が増えるほど、脳がざまざまな気持ちや感情を理解するための選択肢が増える。感情を正確に表せるようになると、感情をコントロールしやすくなり、ひいては心身のストレスを軽減できる。(参考:Willcoxの感情の輪

(4)自信をなくしているとき

  • 人間は自己中心的に考えがちなので、他の人も自分と同じ価値観とルールに従って生きていると思いやすい。したがって、批判は、あくまで批判する人の世界観に基づくものであり、そのもととなる人生経験、価値観、パーソナリティは人によって異なるという事実を無視している可能性が高い。
  • 自分が強い人間だと思えない日には、そう思う必要はない。自分は弱い人間だと時折感じるのは、人間であることの一部だ。
  • 自己を受容するにはまず、自分が何者で、どんな人でありたいかを理解する必要がある。それは自己認識から始まる。自己認識は内省によって得られる。幼い頃の経験や感情に対する周囲の反応のせいで、自分のある側面を他の側面より受け入れがたく感じることがある。自己受容できるかできないかは感情や経験に左右される

(5)不安を感じているとき

  • わたしたちはさまざまな方法で不安を回避しようとする。安全行動はそのときの不安を麻痺させるが、将来の不安を解消するのには役立たない。むしろ逆効果。安全行動は将来への不安を煽り、人はその行動に依存するようになり、人生はいっそう困難になる。
  • ACT(Acceptance and Commitment Therapy)で時々用いるタスクは、自分の墓碑銘を書くことを想像すること。墓石に数行だけ書くとしたら、何を書きたいだろう? 他の人の考えを推測するのではなく、自分が何を重視しているかを探ろう。すなわち、今日から拠りどころにして生きたいと思う人生の意義だ。

(6)ストレスを感じているとき

  • 有意義な人生にはストレスはつきもの。何に価値を置き、何を目指していても、それを達成するにはストレス反応が必要とされる。ストレスは、自らの価値観に沿って努力し、目的と意味のある人生を送っていることの反映。ストレスを活用する方法を学び、必要に合わせてその強弱をコントロールできるようになれば、それは最も価値あるツールになるだろう。
  • ストレス反応を鎮めるための、最も即効性のある方法の1つは、吐く息を吸う息より長く、強くすること。目指すべきは、ストレスをすべて解消して、すっかりくつろぐことではなく、ストレス反応の利点(覚醒など)を活かし、不都合な点(心配や困惑など)の度合いを下げて、可能な限りベストな状態になること。

(7)心が満たされないとき

  • 価値観は達成できるものではない。価値観は、人生をどのように生きたいか、どのような人になりたいか、どのような原則を貫きたいか、といったことだ。価値観とは、わたしたちが行うこと、それを行うときの態度、それを選択する理由。人生にはさまざまな変化がつきもの。したがって、自分にとって何が最も重要であるかを、定期的に見直すことが大切。
  • 自分の価値観のどこまでが自分の願望によるもので、どこまでが他者の期待の影響なのかは往々にしてわかりにくい。どの価値観が本当に自分のもので、どれが押し付けられたものかがわかれば、人生のある側面が充実感より疎外感をもたらす理由がわかるだろう。

3.教訓

正直なところ、落ち込むときも、自身がないときも、不安やストレスを感じる日もあります。「自分が強い人間だと思えない日には、そう思う必要はない。自分は弱い人間だと時折感じるのは、人間であることの一部だ」という記載には、ホッとさせられます。

また、「自分の墓碑銘に書くとしたら?」というのも、考えさせられる内容です。いわゆる、「○○な者、ここに眠る」に、何と書くかということです。鉄鋼王カーネギーが有名です。自分が何を大切にして人生を過ごしてきたかが問われます。

www.tfm.co.jp

冒頭に引用したように、”心の健康を保つためのツールがぎっしり詰め込まれた、「一生使える道具箱」”なので、今回紹介しきれないくらいたくさんのことが書かれています。中には、「ツール」や「試してみよう」として、実際にエクササイズとしてできることもあります。

全体で350ページ超あるので、読んだ内容のすべてを理解して、覚えて、実践する、というのは正直難しいと思います。記載のとおり、「その時々で必要なページを開き、有益なツールを見つけて」使うのが、現実的な活用方法だと思います。

忙しい人に読んでもらえる文章術

1.はじめに

表紙が特徴的。

実際には、グレーアウトされた部分を外すと

時間に追われる忙しい人にもひと目でわかりやすく正確に読んでもらえる行動科学に基づいた一生モノの文章術」と書かれています。

そして、本書前半には、以下のような内容が記載されています。

読み手が離れていくのは、読み手側の責任ではない。読み手の注目をつかみ、関心をつなぎとめるのは、書き手であるあなたの仕事なのだ。

「忙しい読み手のための文章」の書き方を理解するには、まず忙しい読み手の脳のなかで何が起きているのかを理解することが先決だ。

また、読み手が行動しない理由として、以下の3つが挙げられています。

  1. 依頼の内容が理解できないから。
  2. それが重要な行動や必要な行動だと思っていないから。
  3. 対応する価値があるとしても、行動を先延ばししたくなってしまうから。

もう出だしから「おっしゃる通り」という内容が続きます。以下ではもう少し細かい内容について引用して紹介していきたいと思います。

2.内容

本書では、PART2として「6つの原則」が示され、P.232に表にまとめられています。

この「表にまとめる」ことも第3の原則に記載されています。

(1)第1の原則:少ないほどよい

  • 読み手に多くを求めすぎると、読み手が行動してくれる可能性が低くなるだけでなく、メッセージ内の重要な情報に気づき、覚えておいてくれる可能性も低くなる。

(2)第2の原則:読みやすくなる

  1. 「短くて一般的な言葉」を使う。効果的な文章を書きたければ、見栄を捨て、長くて珍しい言葉の代わりに短くて一般的な言葉を使うべき。あまり使われない言葉は認識に時間がかかるので、読みのが遅くなり、注意力に負担もかかる
  2. ストレートな文章」を書く。読み手が1回読んだだけですんなりと意味を理解できる文章を書くこと。ストレートな文章は、論理的な順序で進み、関連する言葉どうしがすべて近くにある。この構造を心がければ、読み手は最小限の労力で文章のおおまかな意味をすばやくつかむことができる。
  3. 1文を「短く」する。文章が長くなると、文章全体を処理するのにたくさんの内容を頭に保持しておかなければならなくなるので、認知に負荷がかかる。1文のなかに独立した内容がいくつも含まれていると、特にその負担は大きくなる。

(3)第3の原則:見やすくする

  • 単語や数値をシンプルな表にまとめるだけでも、言葉だけに頼るより、複雑な考えをずっとわかりやすく伝えられる。「元の文章」はじっくりと読む必要があるが、「視覚的な表現」のほうはパッと目を通しやすい。

(4)第4の原則:書式を生かす

  • あなたが太字(または、ハイライト、下線など)で何を伝えようとしているのかを、忙しい読み手自身に考えさせてはいけない。読み手の混乱を防ぐためには、読み手の解釈を把握するか、あなた自身の位置を明確に伝える必要がある。書式の意味について書き手の解釈と読み手の意図が一致するなら、書式は読みやすくわかりやすいメッセージを書くのに大きな効果を発揮する。
  • ここで大事なのは、太字、下線、ハイライトは一長一短であるということ。書式設定された単語を読んでもらえる可能性は高まるが、残りの部分を読んでもらえる可能性はかえって低くなる

(5)第5の原則:読むべき理由を示す

  • 日常的なメッセージを書こうとしている人にとって便利な合言葉が「だから何?」だ。そう自問することで、メッセージを受け取った人の立場になり、どうすればその人があなたの話に興味を持ってくれるのかを考える
  • 「そのメッセージを誰に読んでもらいたいのか?」「なぜ読んだほうがいいのか?」その視点を持って書けば、そのメッセージはあなたが訴えかけたい相手の心に響くようになるし、無関係な読み手にとっては邪魔になりにくくなる。

(6)第6の原則:行動しやすくなる

  • 大事なのは、読み手に必要な情報がすべて1か所で手に入るようすること。読み手行動に必要な情報を自分で探さなくてはいけないようでは、探すのを後回しにし、最終的には依頼そのものを忘れてしまう可能性が高くなる。
  • 集中力を使わせないようにする一例を挙げると、「読み手に提示する選択肢の数を抑える」「行動の選択肢を減らす」「行動に必要なプロセスを明確に伝える」などがある。

(7)原則を実践する

  • 必要な労力に差があると、1つのメッセージに書かれた複数の依頼に対応するのが難しくなることがある。取り急ぎ簡単な依頼に対応したあと、難しいほうの依頼を忘れてしまう人もいる。また、すべての質問にいっぺんに答えられるようになるまで、対応を先延ばしにする人もいるかもしれない。空き時間がたっぷりあるという魔法のような瞬間は、永遠に訪れないことが多い。
  • 多くのメッセージを送りすぎると、読み手がメッセージを完全にシャットアウトしてしまうリスクがある。メッセージを送る最適な頻度を判断する際には、適切なタイミングで通知を送ることのメリットと、メッセージを送りすぎて読み手に無視されてしまうリスク、その2つのバランスを取る必要がある。
  • 私たちにできることは、自分の言葉(つまり自分自身)がどう見られるのか、そしてその認識が書き手としての目的にどのような影響を与えるのかを意識することだけ。読み手は言葉遣いとデザインの両面からメッセージのスタイルを見て、書き手の好感度、信頼性、共感性、そして目的を絶えず推測している。
  • 効果的でない文章から生まれる誤解は、友情を傷つけることがある。あなたが文章を通じて消費者や同僚と日常的にやり取りする仕事をしているなら、キャリアに悪影響を及ぼす可能性もある。極端な場合、歴史に流れを一変させてしまうことだってある。

3.教訓

私も、日常的に、関係者への作業依頼メールを作っては発信しています。言われてみると、作業しやすいようにと細かい注釈をつけて文章が多くなってしまい、読みたくなくなって、期限を守ってもらえてなかったこともあったと自省しています。

逆にメッセージを受け取る立場としても、プッシュ通知が多いスマホアプリはすべての通知をオフにしたり、商品ユーザ登録したら送られるメルマガの頻度が高いと自動仕分けして受信トレイに溜まらないようにしたりといったことを、実際に個人でしています。

転職のアプリでも、同じ企業に在籍する複数エージェントから別々にメッセージが来ると、「この会社は、クライエントにちゃんと向き合うのでなく、手当たり次第送っているのでは?」と思ってしまい、メッセージを送れば送るほど逆効果になります。

今まで、何となくは理解していたものの、しっかり表や文章になったものを読むと、いかに今まで「自分が主体」で文章を書いていたのかがわかります。相手からどう見えるか、どうしたら読みたくなるか考え、不要な文章はそぎ落とすなどに工夫をこれまで以上に意識していきたいと思う、大変な良書でした。

カウンセリングとは何か 変化するということ 東畑開人 著

1.はじめに

本日現在、2026年1月の産業カウンセラー試験に向けて勉強中です。

そのため、オアゾ丸善に面陳列されているのを見て、即買いしました。

本書の中でも書かれているとおり、「カウンセリングは誰でもやっている非科学的なもの」、というイメージがあることも事実だと思います。だから、ここまで採り上げられ、売り場ランキングにも入っていて、正直驚きました。

以下では、勉強につながったと思うところを引用して紹介していきます。

2.内容

(1)カウンセリングとは何かー心に突き当たる

  • 言うまでもなく、ユーザーがどういう人かによってカウンセリングのやり方は変わる。高齢者と思春期の子どもで同じやり方のはずはないし、抱えている問題も辿ってきた経緯も、目指すべき目標も人それぞれなので、それに合わせて異なるアプローチを使い分ける必要がある。誰に対しても同じアプローチしかしないのは素人で、相手によってアプローチを変えられるのが専門家
  • 「心のせい」と考えることには副作用がある。いわゆる過剰な自己責任にカウンセリングが加担してしまう可能性がある。必要なのは心を変えることではなく、環境を変えることが必要なこともある。外側の世界を変えることを「社会的支援」と呼ぶことができる。環境を変えることもまたカウンセラーの大事な仕事
  • 「心とは突き当たるもの。最後に姿を現すもの」。カウンセリングはファーストチョイスとして選ばれるものではない。誰も最初からカウンセリングに行こうとは思わない。そうではなく、色々な可能性を試して、どうしてもうまくいかなかったときに、心に突き当たる。カウンセリングとは突き当たるもの。
  • 「心」とは自己と世界の中間にあり、その2つの間を調整する装置。たとえば、体がひどく疲れている(自己)。会社では山積みの仕事がある(世界)。心はその中間で「頑張ろう」と鞭を入れたり、「ほどほどでいいや」と緩めたりして、生活や人生をやりくりする。

(2)謎解きとしてのカウンセリングー不幸を解析する

  • カウンセリングというのは基本的には時間を味方につけるための営み。即座に物事を解決するのにはあまり向いておらず、時間の力を使って、心や状況が少しずつ変化していくことを後押しする仕事。だから、予約日までの長い時間というのは、それ自体として時間の力を発動させる仕掛けと言ってもいい。それは欲求不満が募る時間にもなりえるが、同時に未来に約束があることによって、ふと我に返って、自分や周囲を見つめ直す時間にもなりえる。
  • 申込用紙に主訴を書くことを通じて、ユーザーは自分を振り返り、少し客観視することができる。それこそがカウンセリングでなされる作業の本質であるわけで、申込の段階から少しずつ心を考えることがはじまっているということ。
  • 問題歴(問題の歴史、つまりユーザーの主訴が形作られるまでの経緯)がうまく聞き取られるならば、ユーザーにも大きな報酬がある。全体が理解されることで自分が1人で抱えていた苦悩を受け取ってもらえたと感じるし、話をすることによって自分の問題を整理することもできる。すると「どうしてそうなってしまったのか…」という自分に向けられた問がユーザーにやってくる。
  • 人間の心はふしぎ。誰かと一緒にいて、その人から「どうなりたいの?」と問われると、ふと我に返る。「え、私ってどうなりたいんだろう…」と考えはじめることができる。未来は他者といるときにのみ再起動される。無理やりに目標を絞り出してもらうのではなく、目標が見当たらないことそのものを心理的問題として捉えていくのがカウンセリング。
  • 苦しいことを打ち明けられる相手、頼れる相手、相談できる相手がどれくらいいるかを知っておくことで、苦しい局面でどれくらいヘルプを出すことができるかをアセスメントする。インテーク面接でこれらを尋ねることには情報収集以上のメリットがある。ユーザーが自分の周りに頼りにできる人と思い出すことにつながるし、いざとなったときに頼ったほうがいいというメッセージとして受け取られる。
  • 心を取り巻くものと、心そのものの反応の仕方。この2つを知ることで、起きている問題を理解し、それがどのようにしたら改善しうるかの見通しを持つことができる。こらがカウンセリングにおける「わかる」「理解」「アセスメント」の核心になる。
  • カウンセラーが問題をどう理解したのかがきちんと示され、それが2人の間で共有される。このことによって、カウンセリングは出発することができる。逆に言うと、この段階でカウンセラーの示す物語が的外れであり、ピンと来なければ、その後のカウンセリングはうまく進んでいかないし、そもそも2回目自体が存在しなくなる

(3)作戦会議としてのカウンセリングー現実を動かす

  • 心は突き当たるもの。まずは身体や環境をできる限り変化させるよう試みる。しかし、自己も世界も本来ままならぬものだから、どうしても変えられない部分が残るときが多々ある。そのときに、心の出番がやってくる。身体との付き合い方を探し、世界との折り合い方を模索する。これらを手伝うのが作戦会議としてのカウンセリング。
  • 作戦会議としてのカウンセリングの第1段階では、心の外側、つまり自己と世界を変化させることが試みられる。身体を回復させ、環境を調整する。このようにして外的な現実が整えられてはじめて、心が変化する余地が生まれてくる
  • 身体が客観的なものだとすると、からだは主観的なもの。身体という客観的な存在を、心が体験したものが「からだ」。あるいは、自己と心が接触するところに「からだ」が生じる。心の不調はからだに現れてくるし、からだの回復が心の回復につながる
  • 人生の中にはどうしても破局的な時期がやってくる。世界は日々変わっていき、人が置かれている状況は変化していくから、それまでの生き方では摩擦が生じ、それが高まると火花が散り、破局的なことが起こる。そして、そのような時期を生き延びるべく、格闘し、試行錯誤することを通じて、人は変化せざるを得なくなる。それまでの自分に存在していた無理や偏りを修復することになる。

(4)冒険としてのカウンセリングー心を揺らす

  • 生活を守ることで、人生が死んでしまうことがある。すると、自分の一部が死んだまま、生活が営まれることになる。そういうとき、生活は回っているけど、人生は行き詰まってしまう。生きているけど、死んでいる。ここにはきわめて不自由にしか生きられない心がいる。生存は時に、実存を犠牲にする。
  • 外枠が作られると、内側が生まれ、箱が提供されることで、中身を置いておけるのと同じで、心の表面がしっかり作られることで内面が成立し、深層が可能になる。心の防衛システムが整ってはじめて、僕らは自分について考えたり、振返ったりできるようになる。内省とは、安全な状態でのみ可能になるもの
  • ときに冒険が必要なユーザー「も」いる。外から見たら、適応しているし、安定しているし、安定している。しかし、そのために心はさまざまに無理をしている。その結果、人生は不自由になっていて、孤島の要塞のようになっている。本当は孤立している。そういうときには、心を揺らし、これまでとは異なる生き方を模索していくことが必要になる。この自分を知っていくプロセスにカウンセラーは付き合っていくことになる。究極的には、心を揺らすのは他者。他者に慣れるときに、鎧は緩まる
  • 冒険に出立するユーザーの主訴に共通していたのは、目立たないところに隠されている生きづらさ。人生の問題とは本質的にひそやかな問題。社会的には問題にならず、本人にしかわからない個人的な物語。社会の陰に隠れたごくごく私的な問題に、冒険としてのカウンセリングは取り組んでいく
  • たとえば理路整然と自分の話をしているのに、どこか上滑りしていて、気持ちが感じられないユーザーや、特定の話題だけ突然解像度が低くなり、感情が暴走しているように見えるユーザーのことが思い出される。つまり、心に凸凹がある。ちゃんと機能している部分と機能不全の部分がある。社会的には大人に見えるのに、局所的に子どものような未熟な部分がある。こういうときに、外からは見えない孤独や古傷がユーザーに存在していることを感じる。
  • 冒険をはじめるユーザーの本質は「不自由」にある。心の一部が死んでいて、動かなくなっている。あるいは、心の一部にある痛みに触れないように、無理な体勢で生きている。この不自由な生き方によって、他者とのつながりも自分自身とのつながりも制限され、人生が行き詰まっている。
  • とりわけ注目するのは人間関係。結局のところ、心の歴史とは、いかなる人間関係に傷つき、いかなる人間関係に救われてきたかの集積。幼少期の家族との関係からはじめて、学校時代にはどのような人間関係を持ったか持たなかったか、社会にでてからはどうか。人生の脚本は反復される。これこそが生育歴インタビューで謎解きすべきものであり、古傷が埋められしところ。
  • 精神分析は違う。カウンセラーは転移を避けるのではなく、引き受ける。というのも、転移を通じて、ユーザーの脚本がいかなるものがリアルに理解され、今まで生きられてこなかった心の部分を再発達させていくことが可能になる。そう、転移こそが心を揺らすための舞台になる
  • ユーザーがなすべきことはシンプル、自由連想。つまり、心に浮かんでいることをそのまま全部話すこと。注意すべきなのは、自由連想は「喋りたいことを喋る」のとは全然違うこと。喋りたくないことでも、心に浮かんだならば、話さなければならない。自分にとって恥ずかしいことでも、あるいはカウンセラーを傷つけることでも、頭に浮かんだ以上は全部率直に話してもらう。ここにこそ転移が現れる
  • 冒険が進む中で、心の中の泥が溢れてくる。これがスライムであり古傷。ユーザーは泥沼にずぶずぶと浸かっていき、身動きが取れなくなり、そしてそこからスポンと抜け出していく。そのようにして、古い生き方を離れ、新しい生き方がはじまるということ。

(5)カウンセリングとは何だったのかー終わりながら考える

  • ユーザーたちは会っていない時間に、つながっていることを体験して「も」いる。何か起きたらカウンセラーに話そうと思うし、意識的には考えていない場合にも、夢を見たりする。心のどこかでカウンセリングで行われている作業が続きいている。これが重要な点で、実のところ、カウンセリングにおける本質的な変化は、面接時間内ではなく、面接と面接の間の時間に起きる。カウンセリングが終わる。次の約束まで、現実に戻っていく。そこで生活と人生の試行錯誤がなされ、色々な事件が起きる。これをまたカウンセリングで話す。そして終わる。この繰り返しの中で、心は少しずつ変わっていく。
  • ユーザーが直接「終わりたい」と不満を言葉にして伝えてくれるときにはカウンセリングにはまだ希望が残っている。「この孤立をわかってほしい」という気持ちが背景にはあるから。完全に絶望したときには、ユーザーは無言でカウンセリングを去ることになる。だから、この「終わりたい」とカウンセラーはしっかり向き合う必要がある。
  • 別れには痛みがあるから転移が発生しやすく、転移が発生して痛みがあるから別れるしかないと思いやすい。いずれにせよ、カウンセリングが「役に立たない」「不安」と思われるときに、カウンセラーは無能な父親や距離が近すぎる母親の亡霊を引き受けている可能性がある。だから、「終わりたい」について話し合うことで、すでに生じていた転移が明らかになる。だとすると、そのことについてきちんと話し合えると、心の作業は前に進むことができる。
  • 「終わりたい」に含まれている孤立の側面について話し合われなくてはいけない。ユーザーがカウンセラーに感じている不満や不安、あるいは傷つきについて尋ね、カウンセリングの今後に感じている絶望が話し合われる。つながりの危機について話し合うのは、ユーザーにとっても、カウンセラーにとっても、緊迫したタフな時間になる。そこにあったカウンセラーの失敗や未熟さなどが露わになるわけだし、突きつける側のユーザーにとっても勇気のいるものだから。
  • 失敗から自分の技量を見つめ直すことは、カウンセラーだけではなく、すべての対人援助職が成長するうえで必ず起こること。しかし、ユーザーはカウンセラーを教育するためにお金と時間を割いてカウンセリングに通っていたわけでは断じてない。そこにあったのは小さな希望を振り絞って求めた1回限りのヘルプ。ここに中断という終わりの語り難さがある。
  • 僕らは古い物語を背負っていて、それに執着することで、行き詰まってしまう。そこには古い夢があり、古い幻想がある。それは過去の大切な誰かからもらったものであったり、植え付けられたものだったり、一緒に作り上げたものだったりする。だからこそ、古い物語を終わらせることには痛みがある。古い物語から離れるためには、その過去の誰かとの心理的な別れを経験しないといけないから。そこには喪失があり、孤独がある。その痛みに持ちこたえるためには、他者とのつながりが必要。

3.教訓

たしかに自分が相談したい側であっても、「そうだ、カウンセリング行こう」と、ファーストチョイスにならないことは確かです。

いろいろと悩み、試して、他者に促され、時には連れられながら訪れるのがカウンセリングなんだろうと思います。そして、1回話しただけで心のもやもやが解消されることはなく、何回も話して、そして話していないときにも次回予約のことを考えて、というのがカウンセリングだと思います。

そのため、カウンセラーがクライエント(本書ではユーザー)に向き合うというのはものすごく大変なことだと思います。その裏返しで、クライエントからすると、話を聴いてくれる存在というのはものすごく大きいものだと思います。私もしっかり話を受け止められる存在でありたい、そうなりたいと思います。