管理職おすすめの仕事に役立つ本100冊×2

課長経験者が身銭を切る価値のあるのおすすめ本だけを紹介するページ(社会人向け)

リーダーは自然体 無理せず、飾らず、ありのまま 増田弥生 金井壽宏 著

1.はじめに

本書の冒頭で、”本書は「もうひとつのリーダーシップの旅」である、と書かれています。

その言葉に過剰な期待をしてしまったせいか、先に読んだほうにインパクトを強く感じたからか、「リーダーシップの旅」のほうが強く印象に残りました。

一方で、リーバースやナイキで実際にHRMの責任者を務めた方の言葉なので、重みを感じることも数多くあり、印象的だった部分を引用して紹介していきます。

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2.内容

(1)リーダーは自分の中にいる

  • リーダーシップは「みんなのテーマ」。会社や組織のみならず、日常のあらゆる画面にリーダーシップは満ちあふれており、人はひとりで生きているのでない限り、あらゆる場面でリードしているか、されているかだ。
  • 誰かが何かを語り、権力や権限や組織の仕組みによってではなく、その人の語る内容や言行一致の行動によって、周囲の人が「この人にならついていってもいい」と思って喜んでついていったとき、社会的影響力としてのリーダーシップは存在する
  • 働く組織においてリーダーと言うときは、肩書や立場を指すことが多いが、リーダーシップは発揮するものであり、行動の形、存在の仕方。
  • 組織開発の世界では、組織には、維持すべきことと、新しく始めるべきことと、やめるべきことがあると言う。どんな会社にも、維持しなくてはならないことは必ずある。組織の価値観や理念、それを取ったらその会社でなくなるというものは守らなくてはいけない。しかし、新しく始めるべきこととそのためにやめるべきことも間違いなくあるのであって、そうした動きを牽引し、組織の細胞を活性化していくのがリーダーの役割。
  • リーダーシップは役職や肩書がないと発揮できないものではない。ある人が組織全体にとって必要とされることを見極め、自らイニシアティブを取って行動し、その行動が組織に価値をもたらしたとき、リーダーシップは発揮したと言える。

(2)グローバル時代のリーダーシップ

  • イニシアティブを発揮しづらいのは、自分で自分を枠にはめてしまっているから。しかし、こういった枠は、自分の思い込みである場合がほとんど。自分ではめた枠はどんどん外していったほうがいい。でなければ、いつまでも小ぢんまりとしたままで、自分の成長につながらないし、本当の枠を越えそうになったら、誰かが「こら」と言って止めてくれるから大丈夫。
  • イニシアティブは会社や組織のためによかれと思って発揮するもの。たとえ失敗に終わったとしても、会社や組織のためを思ってやった結果だから、成果はゼロで終わるのではなく、0.1か0.2ぐらいにはなる。失敗から学ぶこともできる。そして万が一当たったら、5や10につながる可能性がある。だから失敗を恐れる必要はない。
  • 日本人のリーダーシップ・アイデンティティには日本人らしさも含まれてしかるべきであって、そこが欠けていると、あるがままの自分を受け入れられない。自分を受け入れられない人は、他者も受け入れられないため、多様な価値観が重んじられる組織ではうまくやっていきにくくなる。
  • コミュニケーションとは、自分の思いが相手に正確に伝わり、それが相手の具体的な行動につながって、ようやく完結するもの。「これをやってよ」と言っただけでは、コミュニケーションではなく伝言。相手の行動がゴールだとしたら、自分の位置を相手の腹に落ちる形で発信しなければならない。こうした言語化の力がないと、組織はリードできない。
  • 上司が部下に倒して「なんべん言ったらわかるんじゃ」と言ったら、これは上司の敗北宣言であって、「言う」と「伝える」の違いをその上司はわかっていない。相手側のアクションまでを含んだコミュニケーションは、リーダーシップそのものと言ってもいい。
  • プライベートで感情を抑えすぎているといつか爆発するように、組織内で抑えられている感情は必ず形を変えて出てきて、組織に悪影響を及ぼし、パフォーマンスを低下させる。だから、感情表現を悪いこととみなさない雰囲気を組織の中に作ったほうがよい。もっとも、そのためには、個人が客観的に感情を表現できるようになることが必要だし、組織の側にも、個人の感情を受け止められるだけの成熟が求められる。
  • 「人は存在するだけでは50%生きているとしか言えない。100%生きるためには思い切り自己表現することだ」。自分を明確に表現できることはリーダーにとってとても重要。自分が誰であるか、自分が目指す場所はどこになるのかを語れてこそ、周囲の人たちを巻き込むことができる

(3)リーダーとしてより良く成長する

  • 「今ここ」の瞬間のありのままの自分でいると、自分の魂レベルと感情レベルと思考レベルがいずれもずれないので、周囲から見ても軸のぶれていないリーダーとなり、職場での判断軸も明らかになっていく。リーダーがありのままでいないと、周囲の人も居心地が悪く感じて、自分のありのままを出しにくくなり、本来持っている力を発揮しづらくなる
  • この世に生まれてきた、あるがままの自分を全人格として認知してほしい。こうした認知は、認知する側がまず自分をよく知り、自分らしくていいのだと思わなければできない。自分が自分であることをよしとしない人は、他者が他者であることをよしとできない
  • 自己受容とは、自分をあるがままに受け入れつつ、足りない部分を成長の余地とみて努力すること、そして努力する自分を愛おしく認知しながら成長させていくこと。自分の成長過程を認めるなどというと、人に弱みを見せるようなことはできないとか、リーダーとしての面目にかかわると感じる人がいるかもしれないが、そういう無用のプライドを捨てられないリーダーほど、振り向いたら後ろに誰もついてきていないという事態に陥りやすい
  • フィードバックを受けるためには、自分から率先垂範で周囲に対してフィードバックを出すことも大事。その際にベースとなるのは、相手の成長を心から願う気持ちであり、相手との間に信頼関係が築けていることが前提。

(4)リーダーシップのベース

  • しめくくりに、会社員だと想定したうえで、いくつか質問してみたい。
  1. あなたが初対面の人たちの前で自己紹介するとしたら、自分のことをどんな風に説明しますか。想像して答えてください。ただし、国籍、年齢、出身地、家族構成、あるいは名刺や職務経歴書に記載されているような情報には触れないでください。
  2. 現在勤めている会社からあなたが去ったとしたら、職場から何が失われますか。想像して答えてください。
  3. あなたが勤めている会社を今すぐ去ることになったとします。5年後、あなたは会社に何を残した人物として紹介されたいですか。想像して答えてみてください。
  4. あなたは故郷を離れて都会で暮らしているとします。久しぶりに実家に戻ると、おじいさん・おばあさんや甥っ子・姪っ子に、「今どんな仕事をしているの?」と質問されました。実際に聞かれたつもりになって答えてください。
  • 相手を理解するためには、自分をよく理解するという経験が欠かせない。出した質問のような自問自答を繰り返し、自分自身への理解を深めた人でないと、相手を理解しようにもその方法がわからない。自己理解ができている人が、相手に対する思い込みや決めつけを捨てて、相手の言うことに好奇心を持って耳を傾けることができてこそ、その相手をよりよく理解できる。
  • 自己受容は、人を巻き込んでいくプロセスにも欠かせない。なぜなら、自分自身を巻き込めない、つまりその気にさせられない人に、他者を巻き込んで、その気にさせることはできない。「自分を巻き込む」とは、表現を変えれば、自分が心の底から何かを信じて行動できる状態であり、そういうときに、他の人はその人を信じてついていこうという気になる

3.教訓

確かに、最後の4つの質問に、明確に答えられない自分がいます。すなわち、自分自身への理解が深まっていない状態なんだな、と痛感しました。

まずは自分が何をしていて、どこに持っていきたくて、といったことが言語化できないと、周囲の人がついていきようがないのは明白です。それは、自分がフォロワー側になることを想定すれば、おのずとわかることです。

そして、「それ言ったよね」と言っても仕方がないことを改めて認識しました。これはマネジャーとしてだけでなく、家庭において子供に対しても配偶者に対しても、そして年老いていく親に対してもそうだと思います。相手が理解し行動につながってはじめて、伝えたことが意味を成します。

ただ、その状態を目指すためにカッコつけたり背伸びしたりすると、相手にもそれが伝わり、自然なコミュニケーションから遠ざかっていくんだと思います。完璧を目指そうとせず、時には自分がわかっていない部分も認めながら、地に足のついた双方向のコミュニケーションを目指したいと思います。

リーダーシップの旅 見えないものを見る 野田智義・金井壽宏著

1.はじめに

本書の序章に、本書の題名の由来になる、以下の内容の一段落があります。

リーダーシップは「見えないもの」を見る旅だ。ある人が、「見えないもの」、つまり現在、現実には存在せず、多くの人がビジョンや理想と呼ぶようなものを見る、もしくは見ようとする。そして、その人は実現に向けて行動を起こす。世の中ではよく、リーダーはついてくる人(フォロワー)を率いる、リーダーシップはフォロワーを前提とするなどと言われるが、私はそうは思わない。旅はたった一人で始まる。

この内容は野田先生によるものです。野田先生・金井先生のどちらが記載したのか見出しの1つ1つに表示され、ここまで共著感のある本は珍しいと思います。

お二方それぞれのリーダーシップの考え方がよくわかりますし、リーダーとマネジャーの対比もあり、非常に有用な内容です。

以下では、特に印象に残った部分を引用したいと思います。

2.内容

(1)リーダーシップの旅

  • リーダーシップはリーダーの中に存在するというよりも、リーダーとフォロワーの間に生じる社会的現象であり、ダイナミックなプロセス。リーダーの言動を見て、フォロワーの大半がそれをどのように意味づけるかというプロセスの中に、リーダーシップは存在する。リーダーの影響力が行使されるには、フォロワーが「喜んでついてくる」ことが不可欠の条件となる。
  • リーダーシップの旅、すなわち、前人未到の沼地を渡ったり、現状を大きく変えたり、何かを新しくつくり出したりするような挑戦は、リスクや不確実性を伴う。着手は容易でなく、時には周到な準備や事前の訓練も必要とされるだろう。しかし、本当に必要なのは、旅に出たいと思うかどうかだ。
  • 一人称で、自分が「見えないもの」を見たいと頭で考え、心の底から願う気持ち。これこそがリーダーシップのプロセスを理解するうえで最も重要だと考える。
  • 吹っ切れたリーダーは、フォロワーを導くのではなく、巻き込んでいく。沼を渡ろうと決断するのは自分一人だが、やがてリーダーの背中を見て、人がついてくる。この「振り返ると人がついてきた経験」が、リード・ザ・セルフからリード・ザ・ピープルへの橋渡しとなる。

(2)なぜリーダーシップが必要なのか

  • ヒエラルキーの中では、リーダーシップではなくマネジメントが日常的に機能する。マネジメントをあえて極端に概念化すれば、目標達成や問題解決のために手順を組み、経営資源を配分すると同時に、人員を配置し進捗を監督すること。上位に位置する人が下位に位置する人を権限で統率し、組織を統制していくこと。
  • 企業内でのリーダーシップを測る場合、「指揮系統下にいない応援団がどれだけいるか」を試金石と考えている。「後ろを振り向いたら、嫌々ではなく、喜んでついてくるフォロワーがいますか?」という問いかけによっても、リーダーシップがその場に発生しているかどうかを目に見える形で試すことができる。「喜んでついてくる」を「勝手についてきた」と言い直してもいい
  • リーダーシップとは、リーダーとフォロワーの間でそれぞれの夢がシンクロナイズしていく過程であり、その中でリーダーの夢が全員の夢へと昇華されていく。これに対して、マネジャーの原典には、人を動機づけてその行動を変えていくという側面がある。
  • 「リーダーは想像と変革を扱う」。思い浮かべたリーダーも、時代を画した人物ではないだろうか。これに対し、マネジャーは現状を維持するか、少しずつ漸進的に変えていく。組織の安定性や持続性を維持するためにマネジメントは機能するが、組織の変化を生み出すためにリーダーシップは機能する
  • 英語にはこんな諺がある。「旅を前にして、人は、そんな新しいやり方は非現実的だ、不可能だと言う。旅を終えて、人は、なぜ自分たちがそんなふうに言っていたのかすら不思議に思う」。この諺が語る創造と変革の共通点は、「事前のあまりにも高い不確実性」と「事後には当たり前だと受け入れられる常識性」ということになる。連続ではなく非連続。リーダーシップの旅において、リーダーはこの非連続を飛び越える
  • 会社を変えたい、変えようと努力を繰り返し、結局、何も変わらなかった時、人は「学習性無力感」を抱く。つまり、変革志向のミドルほど無力感を感じやすいわけで、やる気と力のある人、リーダーシップを取ろうとする人ほど疲れ果て、逆に、決められた「やらされ仕事」をこなすだけの人が元気。そんな倒錯した状況が組織の中では起きがち。

(3)旅の一歩を阻むもの

  • 険しいリーダーシップの旅を歩んでいくうえで、周囲からの信用はあった方がいい。多くの場合、旅は一人では歩めない。例えば、背中で見せてついてきてもらうにしても、価値観や感情に訴えて人々を巻き込んでいくにしても、周囲は信用蓄積の度合いを意識し、それによって反応するだろう。たとえ、私自身が信用蓄積など一切気にするつもりがなくてもきっとそうだ。
  • 言いたいことは、初心を忘れないことがいかに困難かということだけ。それに、手段であった信用蓄積が、いつの間にか目的に変わってしまい、かつての夢や志が消え失せていく政治家がいたとしても、誰が笑ったり、批判したりできるだろう。現実に染まっていくのは、政治家だろうか、ジャーナリスト、教育者、ビジネスマン、官僚だろうが、同じなのだから。
  • 何かを達成するための手段だったものが、守るべきものとなり、それ自体に本当に意味があるのかどうかを問う気持ちが薄れるについて、いつしか自分を縛る足かせに変わっていく。蓄積した信用も同じ。貯め込んだものが捨てられなくなると、人は旅への一歩を躊躇してしまう。蓄積した信用は、それを使うためにあるのに、それを守ることが優先順位の上位になってしまう
  • 理論を越えて重要な点は、貯金(貯めた信用)はおろさなければいけないということ。自分が積み重ねてきたものをおろして使う。ある場面においては、それを捨てるぐらいの勇気がなければ、リーダーシップの旅は始まらないし、旅を歩み続けることもできないだろう。周囲からの信用による呪縛と、自分が本当にやりたいことへの思いが葛藤を生む時、リーダーに結果としてなる人は、自らの価値尺度によって決断を行い、その状況を超克しようとする。この超克には、痛みを感じつつも何かを選択する感覚が必ず伴う。
  • 新しいものを創出したり、現状を大きく変えたりするようなチャンス、言い換えれば、リーダーシップにつながる何かが、ふと見つかったとしよう。そのチャンスに今と同じエネルギーをつぎ込めば、何かを実現できたかもしれないのに、そこから意識的に目を背け、忙殺を言い訳にしてしまう。絶えず多忙に追いまくられているにもかかわらず、本当に意義があると思われること、本当に必要だと思われることを、「できる私」が避けて通ってしまう。これがアクティブ・ノンアクションの核心。
  • 「結果としてリーダーになった」人は、この「私が私でいる」という自負が比較的強いのではないだろうか。自分への矜持に近いものだろうか。私には、これが、リーダーシップの旅において重要な役割を果たしているように思えてならない。

(4)旅で磨かれる力

  • リーダーに求められる資質をあえて要素分解するならば、「構想力」「実現力」「意志力」「基軸力」の4つだと考える。中でも重要なのは意志力と基軸力であり、普段はこの2つをまとめて(広義の)基軸力と呼んでいる。
  • やるといったら絶対やる、とことんやる、途中で逃げないというのは、リーダーシップの条件の1つであり、読者の皆さんにはエクスキュート、ルビコンを渡る、あるいは背水の陣、ポイント・オブ・ノーリターンなどの言葉を字面を眺めながら噛みしめてほしい。
  • 私たちは、逃げ道の無い難局に追い込まれると、ギリギリの判断を迫られる。時間的制約がある中で、自身の納得する解を見つけなくてはならず、しかもすべてを取ることはできなくて、何かを捨てざるをえない。葛藤が渦巻き、重圧に押しつぶされそうになる。そんな場面で決断してこそ、自分というもの、自分がよりどころとするものがあぶり出されてくる
  • 修羅場で、私たちは自分と対峙する。対峙するとは、自分には何ができて、何ができないか、何を約束できて、何を約束できないかを明確にせざるをえない状況に追い込まれること。のるかそるかの場面で、出世、自己保身、経済的報酬、プライド、あるいは周囲への配慮、人へのコミットメントといったものの中から、自分にとって必要のないものを、その都度決断しながら捨てていく。そぎ落とし、だけど最低限これだけはどうしても必要だと思われるものが最後に残った時、その人にとって本当に大切なもの、絶対に守るべき価値観が、くっきりと形をもって立ち現れる
  • 難しい話でもなんでもない。戦略的思考とかコミュニケーションスキルを磨く前に、魅力的な人間であること、リーダーシップはこれに尽きると言ってもいいかもしれない。

(5)返礼の旅

  • 利己を否定するところからは、リーダーシップは始まらないし、無私を強調しすぎると、旅は一部の生まれつきの聖人だけが歩めるものとなってしまう。「すごいリーダー幻想」への後戻りだ。ただし、旅を歩む人(結果としてリーダーになる人)の利己が利己で留まる限り、旅はより大きな挑戦につながっていかないし、いつの間にか脇道にそれたり、停滞したり、失速してしまう。
  • 私たちが本当の本当に何かをやりたいと思う時、周囲の人は協力を惜しまない。そして協力を得た時、私たちの中には心境の変化が起きる。自分が前へと突き進めるのは、ついてくれる人たち、サポートしてくれる人たちのおかげだという気持ちがわく。自分が先頭に立つから人がついてくるのではなく、人が後押ししてくれるから自分が先頭に立てる。やっていける。自分が他人を支えているのではなく、他人が自分を支えてくれている。利己と利他は渾然一体となる。
  • 自己中心性とは素直さの表れでもある。ジコチューを徹底的に極め、時に社会から逸脱した行動を取るように見える人は、何事かを成し遂げた時、旅における新たな岐路に立つ。その岐路に置いて、人とのふれあいなどを通じて素直さをさらに発展させ、社会性を帯びていく人と、ジコチューにとどまった人とに分かれていく。
  • 人は旅を始め、続けていくうちに、いつ振り返っても人がついてきてくれる経験をし、自分の夢がみんなの夢になるプロセスの中で、利他性や社会性に目覚め、責務感を身につけていく。「すごい人」だから身につけるのではなく、身につけなければ、旅を続けられないから、自然に人間が磨かれていく
  • 20年、30年と旅を続け、その旅が終わりにさしかかった頃、「すごい人」になったリーダーを私たちは目の当たりにする。しかし、その時点でのリーダーのありように目を奪われ、「自分にはとてもできない」「自分には関係ない」と思ってしまうと、リーダーシップは私たちの手のひらから、再びポロリとこぼれ落ちてしまう。「リーダーシップの旅」という名の映画はたっぷり2時間ある。ラスト10分を観るだけでは映画の意味はわからないし、ラストシーンがすべてであるはずがない

3.教訓

本書を読んで、単に役職上や名目上の表示にかかわらず、どんな人がリーダーなのか、リーダーシップとは何なのか、深く理解することができました。

ただ理解できるようになったのも、自分が一定のシステム開発のプロジェクトリーダーや、本書でいうマネジャーの経験をしたからであって、無役職で経験が浅いときの自分が読んだと仮定して、今回ほど腹落ちしたのかは正直わからないという感覚もあります。

でも、そのような時期(例えば本書発売当初の2007年)の自分に対しても、本書は将来のために絶対読んだほうがいい、と言うのは間違いないと思います。

組織運営としてうまくやれるマネジャーになりたいという方よりも、現状を改善するためにリーダーシップを発揮したいと考えている方には、本当に良書なので、ぜひ手に取って全体を読んでいただければと思います。

 

 

Think CIVILITY 「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である クリスティーン・ポラス著

1.はじめに

原題は、"Mastering Civility: A Manifesto for the Workplace"です。

考えるわけではなく、「マスターする」「職場での公約」と、邦題より強い表現です。

本書の「はじめに」でも、職場で誰かに無礼な態度を取られていると感じた人は

  • 48%の人が、仕事にかける労力を意図的に減らす
  • 47%の人が、仕事にかける時間を意図的に減らす
  • 38%の人が、仕事の質を意図的に下げる

という調査結果が出ていると記載されており、礼儀正しさは職場での死活問題です。

2.内容

(1)なぜ礼節ある人は得をするのか

  • どの場合でも、重要なのは、その言動が本当に相手に対する尊敬や配慮を欠くものだったかどうか、ではない。重要なのは、された方がどう感じたか。尊敬や配慮を欠く扱いを受けたと相手が感じるかどうかだ。言動が相手の目にどう映ったかが問題となる。
  • 原因はグローバリゼーションなのか、あるいは世代間ギャップや、職場環境や人間関係の変化、テクノロジーの進歩なのか、それは明確ではないが、ともかく現代の私たちが、自分にばかり目を向け他人にはあまり目を向けないというのは事実。そのせいで、他人の扱いが無礼なものになってしまい、結果として皆に害をもたらしている。
  • 職場に無礼な人がいると、そこで働く人たちの心の健康にも悪影響があることが調査によって明らかになっている。当然、ストレスには他の要因もあり、私生活で無礼な人に会うこともあるので、そのストレスの影響もあるだろう。だが、それを考慮したとしても、職場の無礼な人たちが心の健康に与える悪影響が大きいことは疑い得ない
  • ひどい叱責を受けた原因が本人の能力不足にあったとしても、また重大なルール違反にあったとしても、それはまったく無関係で、ともかく中の誰かが誰かをひどく叱責するだけで、その企業に対する印象は極端に悪化する。事情はどうであれ、無礼な態度を見てしまうと、顧客はその企業に悪い印象を抱くことになる。
  • 誰かの無礼な態度に接すると、認知のための資源が奪われてしまう。その結果、作業の能力も創造性も下がる。このことは、おそらく仕事の業績にも悪影響を及ぼすだろう。たとえ最大限の力を発揮したいと望んでも、無礼な態度に注意を奪われ、心を乱されると、それができなくなってしまう。
  • 集団の中にひどい態度、無礼な態度を取る人間がひとりでもいると、それによって生じた悪感情は集団内に広がり、態度の悪い人は増える。中には攻撃的、好戦的とも言える態度を取る人も現れる。
  • 他人に優しく接している人、気分の良い接し方をしている人の方が、声がかかりやすい。人に何かを頼まれる機会が多ければ、能力を証明する機会も多くなるし、良い評判も広まりやすくなる。そしてますます選ばれる機会が増えていく。こうして、「能力はあるけれど無礼な人」との差は時間が経つごとに開いていく。
  • 礼節ある態度とは例えば、人に感謝する、人の話をよく聞く、わからないことは謙虚に人に尋ねる、他人の良さを認める、成果を独り占めせずに分かち合う、笑顔を絶やさない、といったことを指す。こうした態度は業績の向上にも役立つ。反対に、無礼な態度は、仕事で成果をあげる上で足枷になってしまう
  • 誰かに無礼な態度を取ること、取られることを、「自己完結的」な体験だと思っている人は多い。直接やりとりをした当事者どうしで完結することだと思っている人が多い。だが実際には、無礼さはウイルスのように人から人へと伝染していく。その後、関わった人たちすべてに悪影響を与え、人生を悪い方に導くことになる。
  • 無礼な言動に触れて感情が強く動かされると、そのことは決して忘れられない。無礼な態度を取っていた人の姿を見るだけで、また無礼な態度に触れた場所に行くだけで、その時の感情が蘇ってしまう。

(2)あなたの礼節を高めるメソッド

  • 行動の意図とその影響には差があることが多い、というのも注意すべき問題。あなたが同僚に対し、(これから良くなってほしいという願いを込めて)批判的な意見を述べたとしよう。言った方が善意でも、言われた方はただ、自分は過小評価されたとしか思わないことが多い
  • 他人が見て良いと感じる行動がどういうものかは教えてもらわなければなかなかわからない。どういう状況であなたが何をすれば良い結果につながるのか。何をすれば人が喜ぶのか。それを知るのは非常に大切なこと。
  • フィードバックは批判のための批判になってはいけない。何か少しでも改善が見られれば、それを伝えることも大切。
  • 睡眠が不足すると、理解力も低下してしまう。物事を正しく理解できず、状況に正しい対応ができなくなる。他人の感情や意図を正しく読み取る能力も下がってしまう。他人の顔の表情や声の調子から、何を思い、何を考えているかを感じ取ることができなくなる。また自分の感情表現にも異常が起きる。顔の表情や声の調子がどうしても否定的な感情を表現するものになりやすい。
  • 管理職やチームリーダーを務めているのなら、部下やメンバーと良好な関係を築くには、まず温かい人になるべき。どうしても自分が有能であることを早く証明したいという気持ちに駆られる人が多い。しかし、一度温かい人だと感じると、その人に対する評価は上がりやすくなる。温かい人になることは、自分の影響力を高めるための早道。温かい人は信頼を得やすい。信頼が得られると、自然に周囲から情報やアイデアが多く集まってくる。
  • 相手が温かいかどうかの判断を下すのに要する時間は、わずか0.033秒という短さだ。相手が温かさに欠ける人だということ、無礼な人だということを人間は本当に一瞬の間に感じ取るし、一度、そういう判断を下すと、その人を簡単には許さない。
  • 笑うことは自分だけでなく、周囲にいるすべての人に影響を与える。何も言わなくても、笑っているだけで、人を安心させるし、親近感も抱かせる。何より人を元気づける。
  • 存在を認められていると感じることはとても大事。そう感じるかどうかは、ほんの一瞬の態度で決まることが多い。つまり、ほんの一瞬の態度が良ければ、相手を元気づけることができるということ。元気づいた人はきっと仕事に熱心に取り組むだろう。反対に、一瞬の態度が悪ければ、それだけで相手は認められていないと感じてしまう。
  • 話をよく聞いていれば、それだけ重要な情報、アイデアが手に入りやすくなる。あなたがもし管理職で、部下に「この人は話を聞く気がないな」と思われたら、何か良いアイデアがあっても伝えようとはしないし、役立つ提案もしないだろう。
  • 悪いところがあっても、気を使って言わないのは、その人を下に見ることであり、侮辱であるばかりか、必然的に失敗へと導くことでもある。自分より下だと思っている人には、はじめからあまり期待をしない。だから、正しいフィードバックもしない。その結果、相手が何か失敗をすれば、自分より本当に下であることが証明されたと感じてしまう。そんなことをしていては、組織全体の業績は決して上がらないだろう。
  • 職場で礼儀正しくあるためには、微笑むだけでは不十分で、他にも必要なことはたくさんある。大きくわけて次の5つ。
  1. 与える人になる
  2. 成果を共有する
  3. 褒め上手な人になる
  4. フィードバック上手になる
  5. 意義を共有する
  • 良いリーダーはスポットライトの下で自ら輝くが、偉大なリーダーは、自分だけでなく自分の下にいる人たちを輝かせる。他人の能力や努力を素直に正当に評価するような謙虚さが重要。誰もが他人を素直に評価するような環境では、もともと持っている人間性、能力を超えるような成果を上げる可能性が高まる。
  • 人は良い仕事をしたときに上司から感謝の言葉をかけられるだけで自尊心が高まり、自信を深めるという。これは他人を信じること、喜んで人を助けようとすることにもつながる。
  • まず大事なのは、フィードバックを受ける側になる人をよく知ること。そしてフィードバックを受けたとき、彼・彼女がどういう感情になるかをしないしなくてはいけない。フィードバックを与える際、重要なのは、常に未来に目を向けること。最終的には、その人がこの先、前進するためにはどうすればいいのかがわらるようにしなくてはならない。
  • 人の心をつかむには、努力、やる気、成果を必ず認め、褒め、報いる姿勢を見せる必要がある。一人ひとりのサクセスストーリーを必ずチーム全体で共有する。物事が前に進んでいることを皆が認識できること、皆が自分のいる意味を感じられることも大切。リーダーが必要に応じ、自分の時間とエネルギーを惜しみなく注ぎ込むようにする。
  • メールを書く時には、相手が受け取るのは書かれた文字だけである、ということに注意する。一度に伝えられる感情はひとつか、せいぜい2つ。口頭でのコミュニケーションで非常に多くの情報を伝えてくれるボディランゲージや、声のトーンの変化などは、そこには一切ない。つまり、伝えようとしたことが誤解される、あるいは伝わらないという危険性が非常に大きくなる。
  • メールの使い方で何よりも良くないのは、直接会って伝える必要があることをメールで伝えてしまうこと。微妙な問題、揉める恐れのある用件などにはメールを使ってはいけない。
  • 特にリーダーは、勤務日、勤務時間であっても、送ったメールにすぐに返信があると期待してはいけない。上司が即座の返信を要求する人だと、部下は気が散り、ストレスをためることになる。メールの返信に追われて重要な仕事に集中できなくなれば、生産性は下がるだろう。

(3)無礼な人に狙われた場合の対処法

  • 同僚に無礼な扱いをされた場合、相手と話し合うべきか否かを迷う人は多いだろう、そういうときは次の3つのことを問いかけてみてほしい。3つの問いへの答えがすべてYESだったら、相手と面と向かって話をする
  1. 加害者となった同僚に何か言い返しても、身体的な危険はないか
  2. その無礼なふるまいは意図的なものか
  3. その人が無礼な態度を取ったのははじめてか
  • 3つの問いへの答えが一つでもNOだった場合は、相手と直接話し合ってはいけない。そして、その後、相手と接触する際には、4つのことに注意する。
  1. 会話を手短にする
  2. 相手にとって有用と思えることだけを話す
  3. 友好的な態度を保つ
  4. 常に毅然とする
  • 「この逆境はあなたにとってどういう意味があると思うか」。人間にとって重要なのは、自分の置かれた状況を自分でどう解釈するかだと考えているからこう尋ねる。あなたに対して無礼な態度を取る人間がいるとする。そのままでは何もいいことはない。ただ、その状況から何か学べることはないか、と自分に問いかけるだけで違うだろう。
  • たとえ職場で無礼な扱いを受けた場合でも、仕事以外の活動が充実している人はそうでない人に比べ、健康を維持しやすい。それによって、自分の人生が充実しているという認識、感情が得られる。会社を出た時に何をすれば自分が幸せになれるかを考え、何か見つかったらすぐに始めてみよう。
  • 忘れてはならないのは、決めるのは常に自分だということ。ここで無礼な人間に出会ったことをどう解釈するかを決めるのも、無礼な態度にどう対処するかを決めるのも自分。あなたはどういう人になりたいのか、無礼な扱いを受けたからといって、このまま萎縮してしまうのか、それとも、さらに大きくなっていきたいのか。よく考えてみよう。

3.教訓

今の職場は、周囲に不機嫌な人が本当に多いです。電話相手の営業担当者を、今後も相談したいとはとても思えないような口調で突き放したり、部下から提出された書類を「これじゃ全然わからん」と一刀両断したりと、心理的安全性とは程遠い世界です。

本書にも記載のあった通り、自分自身が直接怒られているわけでもないのに、今後同じような目にあうかもしれないと想像したり、そんなことも知らないのかと見下されるのではと考えたり、萎縮するようなことが頻繁に発生しています。

しかしその状態をどう捉え、どう対処するのか決めるのは自分です。世の中、常に追い風が吹いているわけではなく、むしろ順調に物事が進んでいかない割合の方が高いと考えています。その時、「この逆境は自分にとってどんな意味があるのか」を考えることは、そこで自分がどう振舞えばよいかを決めるきっかけになります。それだけでなく、将来振返ってみたときに、あの時にこういうことがあったら今の自分がある、と思えることにもつながります。

無礼な人がいることの弊害はよく理解できたので、まずは自分がそうならないと考えるだけでなく、相手から見ても「礼儀正しさ」を認められるようにするにはどうしたらよいかもあわせて考えられる人を目指したいと思います。

また、最後のほうに、「仕事以外の活動が充実している人は、自分の人生が充実しているという認識、感情が得られる」という話もありました。私自身もキャリアコンサルタントの勉強をして、社外の友人が出来たことで、すごく実感を持ってわかる感覚です。たまたま、先日、ロッチのコカドさんも、ミシンに出会って生きるのが楽になった、という記事を読みました。それなりに有名になった芸能人でも、そういうことを考えるんだなと、意外感がありましたが、少し親近感も覚えました。

www.huffingtonpost.jp